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CO₂を吸い取れ 世界のスタートアップが続々参戦、温暖化対策の「フェーズ2」

World Now
コカ・コーラが発売する炭酸水「VALSER」=Coca-Cola HBC Switherland提供
コカ・コーラが発売する炭酸水「VALSER」=Coca-Cola HBC Switherland提供

■回収したCO₂が炭酸水に

空気中のCO2を取り除くDACで最先端を走るのが、スイスのスタートアップ「クライムワークス」だ。チューリヒ近郊では、同社が世界で初めて開発・製造に成功した商業用CO2除去プラントが、すでに稼働を始めている。

スイス・チューリヒ空港から車で約30分。田園地帯にあるごみ焼却施設の屋上に、エアコンの室外機のようなファンを積み重ねた装置が据えつけられていた。

18機のファンが吸い込んだ空気を約100度に加熱し、特殊なフィルターでCO2を吸着する。1年で回収できるCO2は約900トンで、1機が数千本の樹木に相当。回収したCO2は約400メートル先にある畑の温室にパイプで送り、作物の光合成を活発化させる「肥料」になる。トマトやキュウリなどの収穫量が最大20%増えるという。

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CO₂を回収するクライムワークスの商用プラント=スイス、石井徹撮影
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回収したCO₂は温室にも送られてキュウリなどの野菜の成長を早める=クライムワークス提供

クライムワークスは、アイスランドでは回収したCO2を地下700メートルで鉱物化して、固定化する実験プラントを稼働させている。ほかにも欧州だけで14の計画があり、数年後には年間数千トンの回収を見込んでいる。

広報部長のルイーズ・チャールズは「2025年には地球全体で排出されるCO2総量の1%を回収したい」と意気込む。1トンの回収に600ドルかかる高コストが課題だが、コカコーラの発売する炭酸水「VALSER」に回収したCO2が使われるなど、付加価値を高める試みも始まっている。

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コカ・コーラが発売する炭酸水「VALSER」=Coca-Cola HBC Switherland提供

■見込みがあれば何でも試す

「空気中のCO2を選択的に除去するのは、100万人の群衆の中から特定の400人を瞬時に見分けるようなものだ」。クライムワークスと同じく、DACの実用化を目指すオランダのスタートアップ「アンテシー」CEOのポール・オコナーはそう話す。

技術の要となるのは、空気中のCO2を捕捉する吸着剤だが「我々が吸着剤として使っている固体の炭酸カリウムは、クライムワークスが使用している液状のアミン化合物に比べても、安全性や採算性の面で有利だ」とオコナーは主張する。

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アンテシーCEOのポール・オコナー=オランダ・フーヴェラーケン、太田啓之撮影

他にも、大規模プラントを試験運用するカナダの「カーボンエンジニアリング」など、世界のスタートアップが次々とCO2除去に名乗りを上げている。

大気中からCO2を取り除こうという試みでは、「木を植えること」が一般的で、機械的に回収する試みは、5年ほど前まで「成層圏にまいたエーロゾル(浮遊粒子状物質)を太陽光を反射させて地球を冷やす」といった方法とともに、専門家の間では「気候工学」に分類され、危険視されてきた。それが、最近ではバイオマス燃焼からCO2を回収・貯留する「バイオCCS」などとともに、不可欠な技術として期待され始めている。

きっかけはパリ協定の発効。「産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える」などの険しい目標を達成するため、見込みのある技術はなんでも試す機運が広がった。EUの長期戦略では、CO2除去技術を使うことがすでに前提となっている。

CO2除去技術の発展を支援する米国のNGO「カーボン180」代表、ノア・ダイヒは言う。「30年前は太陽光発電も非常に高コストだったが、技術の進歩でコストが下がり、それが投資を呼び込み、さらなる技術の発展を促すというサイクルで、100分の1にまで下がった。この好循環が起これば、CO2除去技術で地球環境を改善できる日も近い」

■砂漠に人工洪水? まるでSFの「プランB」

数多くのスタートアップを成功へと導いてきた米国・シリコンバレーの投資会社「Yコンビネーター」は昨秋、革新的なCO2除去技術の公募に踏み切った。予測を超える気候変動を前に「現実的対策である『プランA』に加え、一見実現不可能と思える『プランB』も準備する時が来た」とする。

「淡水化した海水で、砂漠に洪水を起こして緑化する」「遺伝子組み換えした植物プランクトンを海で大量に培養する」……。同社が挙げる具体例は、確かにSFのようだ。

カリフォルニア大サンタクルーズ校で地球規模の炭素循環について研究するグレッグ・ラウは、Yコンビネーターが上げた具体案の一つである「エレクトロジオケミストリー(電気的地球化学)」の提唱者だ。

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「エレクトロゲオケミストリー」の提唱者、グレッグ・ラウ=Ayako Jacobsson撮影

植物は光合成によって空気中の二酸化炭素を除去しているが、長期的にはそれよりもはるかに多くCO2が、地表にある岩石と化学反応を起こして重炭酸塩となって海に溶け込み、最終的には海底に沈殿する。通常は極めて長い時間がかかるこのプロセスを、再生エネルギーによって得られる電力を使って加速し、空気中のCO2を大量に海に溶かし込んでしまおう、というのがラウのプランだ。

ラウは「この方法を使えば、生物の光合成作用に頼らずにCO2を大気中から除去できる上に、副産物として発生する水素ガスを新たなエネルギー源として活用できる」と主張する。海の酸性化に歯止めをかける効果も期待できるという。

Yコンビネーターの試算によれば、この方法で人類によるCO2排出量の約4分の1にあたる10ギガトンのCO2を海に溶かし込むためのコストは、年間300億~1兆6100億ドル(3兆3千億~177兆円)。振れ幅が大きいのは、再生エネルギーの価格やCO2を反応させるプラントの効率、水素ガスの価格にコストが左右されるためだ。

炭素除去に取り組む研究者や起業家らのネットワーク作りを行う米国のNGO「メニイラブズ」代表、ドブロイト・マウスナーは「人類の月着陸にも匹敵するこうした遠大な計画は、経済性だけを考えていては実現できない。どうしても政治の関与が必要だ。だからこそ、私たちは気候変動対策により多くの役割を担うよう、政府に働きかけ続ける必要がある」と主張する。

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「カーボン180」のノア・ダイヒ(左)と「メニイラブズ」のドブロイト・マウスナー=太田啓之撮影

取材協力 Ayako Jacobsson