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「土難民」にならないために、私たちがいま考えるべきこと

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オハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授。4月、日本国際賞の授賞を記念して東京で講演した=西村宏冶撮影

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人間が生きていくには、一人あたり0.05ヘクタール以上の十分な耕地が必要です。侵食や塩害、消耗、汚染などによって土が劣化したり、土が十分になかったりすると、健康的で栄養のある食物が生産できなくなるし、その他の自然の恵みも受けられなくなります。生きるのに必要なものを土に依存している人間にとって、絶望的です。

そうなれば、もう「土難民」です。彼らは政治を不安定化させるでしょう。インダス、メソポタミア、マヤ、アステカなどのかつて栄えた文明も、ひとたび土が侵食され、塩害を受け、消耗した時に滅んだと言えるのです。

予測されるように、2100年に世界の人口が112億人に達したとき、まともな土が十分になければ、人類が古代文明の二の舞いを演じる恐れが現実のものになりかねない。

農業の影響を受けている土の多くは、ひどく健康を損なっています。いくつかは、もう「病気」だと言えるでしょう。アフリカのサハラ砂漠以南や南アジア、カリブ諸国、中米、アンデス地域などで、乏しい資源しかない小さな農家の土が特にそうです。一方で、大規模な農家にも、化学物質を過度にかつ野放図に使ってしまうリスクがあります。

土が健康を損なうリスクは気候変動によっても高まっていますし、人口集中が進むアジアでは急速な都市化も深刻な脅威です。

風で飛ばされたり、水で流されたりして表面が削り取られ、その土地が元々持っていた特徴がなくなってしまった例もあります。これは病気を通り越して、「消えた」状態だと考えられます。自然に回復させるには、何十年から何百年とかかるでしょう。人間の考えられるレベルの時間軸では、元に戻せません。

肥沃な土で有名なウクライナでも、土から有機物が減り、白くなってしまった畑が出てきている

劣化した土は自然の恵みをもたらすのではなく、逆に負荷を生み出します。二酸化炭素などの排出や、水の汚染、生物多様性の喪失につながるのです。

しかし慎重に管理し、病気の土は治していく方向で取り組めば、現在の、そして将来の人口を養うことができます。大切なのは、食料も水も空気も、そして土も、当たり前にあるものだと思ってはいけないということです。

日本の農家は土をうまく管理しているし、そうした知識や知恵があることを私はうれしく思います。将来の世代も、有限で貴重なこの資源を守る教育を受けていくべきでしょう。

Rattan Lal インド出身。1944年生まれ、ナイジェリアの国際熱帯農業研究所などを経て87年にオハイオ州立大教授。2011年から現職。