米国ではここ数十年、リサイクルということにほとんど反射的に取り組んできた。ごみを減らし環境保護に役立とうと、一般家庭やビジネス界をあげて努力してきた。しかし、そのリサイクリングが国内各地で行き詰まっている。
フィラデルフィア(ペンシルベニア州)では、約150万人もの住民から出されるリサイクル資源の約半分を焼却処分し、電気エネルギーに変えている。テネシー州メンフィスの国際空港は、今もターミナルビル周辺にリサイクル専用のごみ箱を置いているが、収集された缶や瓶、新聞紙は埋め立て処分場に送られている。フロリダ州中部のデルトナは、リサイクルを最大限実施しようとカーブサイド・プログラム(歩道脇にリサイクル資源収集用の箱を設置して回収する)に取り組んだがうまくいかず、2019年2月、中断に追い込まれた。
以上は、リサイクル計画を中断したり、受け入れ資源を制限したり、高騰するリサイクル費に同意したりした全米数百の市町のうちの、わずか3例に過ぎない。
「リサイクル運動は今や危機的状況にある」。カリフォルニア州財務官のフィオナ・マは断言した。同州内のいくつかの市で、リサイクル費用が高騰しているのだ。
リサイクル費用は全国的に高騰している。その背景にあるのが中国だ。
中国は18年1月まで、米国から出るリサイクル資源の大きな買い手だった。ところが中国政府幹部が「待った」をかけた。段ボールや一定のプラスチック製品などのリサイクル資源に余分なごみが混じり過ぎている、と判断したのだった。それで米国からのリサイクル資源の搬送は停止された。その後、タイやインドが海外廃棄物の受け入れを以前より増やし始めたが、両国とも新しい規制を打ち出している。
18年、世界のスクラップ市場の混乱が米国内の自治体にも影響を及ぼし始めた。問題は深刻化するばかりだ。
買い手が少ないため、リサイクル業者はその分減った利益を埋め合わせようと、自治体への請求額を増やしている。自治体の中には、業者に支払ったリサイクル費が18年の4倍に跳ね上がった市もある。
リサイクル費用の上昇にともない、市や町は厳しい選択――住民税を上げるか、他の住民サービスを削減するか、あるいは1970年代に根付いた環境保護活動の一端をやめてしまうか――を迫られている。
「リサイクリングはすでに長いこと機能しなくなっていた」と語るのはNPOのRecycle Across America(リサイクル・アクロス・アメリカ)事務局長ミッチ・ヘドランドだった。同NPOは、住民が分別処理しやすいようにリサイクル専用のごみ箱にもっと規格化されたラベルを貼るよう呼び掛けている。「しかし、中国が私たちの廃棄物処理場だった時には、多くの住民は実際には(機能不全に)気づいていなかった」とヘドランド。
当初の見方に反するようだが、リサイクル問題での最大の勝者はWaste Management(ウェイスト・マネジメント)やRepublic Services(リパブリック・サービシズ)といった米国の大手リサイクル会社だろう。いずれもごみ収集や廃棄物処理を大規模に展開している会社だ。
ごみや廃棄物を運び、埋め立て処分する両社にとって、かつてリサイクリングは一番もうからないビジネスの一つだった。ごみ問題の専門家によると、多くのごみ処理業者は昔からリサイクリングを、主に自治体のごみ処理を請け負うためのサービス、いわば「目玉商品」として引き受けたのだ。
そのバランスが変わり始めた。米国では炭酸飲料の容器や段ボールといった廃棄物の市場は相変わらず伸びているが、米国人が再利用しようとしているプラスチックや紙のすべてを吸収するほど十分な市場にはなっていない。リサイクル業者は、プラスチックや紙に再生する費用をカバーできる価格で売っても採算がとれず、再生に頼っていられないと言う。だから、業者は自治体側にリサイクリングの料金をかなり多く払うよう求めている。中にはリサイクル用のごみに混じっている「汚染物質代」を追加請求する業者もいる。
リサイクリング費用の高騰は、すでに活況を呈している大手廃棄物処理業者をさらに活気づけるだろう、と専門家は見ている。ウェイスト・マネジメント社は2018年、好調な利益をあげたと報告している一方、リパブリック・サービシズ社の報告書は、廃棄物処理で増収になったとしている。
ごみ処理業者の埋め立て地が増えているのは、ほとんどが経済成長によるもので、米国人の消費が増えれば増えるだけ、その分ごみも増える。しかし、膨大なごみが出るにしても、少なくともその幾分かはリサイクル可能なのに、売られることも再利用されることもなかった、と専門家はみている。
自治体の首長たちの間では、ごみ処理業者が廃棄物と資源再利用システムのすべてを事実上管理するようになった、と懸念する声が上がっている。
フロリダ州サンライズの市長マイク・ライアンは「汚染物質の混交率は本当にそれほど高いのか?
それとも企業側の利益だけの話ではないか?」と疑問を呈したうえで、「私たちには、常に業者の肩越しに検査する人的余裕はない」と言った。
サンライズ市は、ごみ処理費の高騰に応じる余裕はないとして、ごみを電気エネルギーに変える施設でリサイクリング分を焼却することにした。
「ほとんどの住民が考えているリサイクリングとは言えないが、埋め立て処分という選択肢よりはいい」とライアンは言った。
フィラデルフィアのような都市にとって、リサイクリングは長年にわたって市の誇りだった。同市は過去10年の間に、全米大都市で最低のリサイクリング率から最高率の都市の一つにのし上がった。中国が段ボールやプラスチックを買っていた頃、リサイクリング事業は数年間にわたって市に金をもたらした。
ところが18年、フィラデルフィアは「べらぼうに高い」(市広報官の声明)処理費にぶち当たった。
同市は臨時の対応策を思い付いた。汚染物質まみれのリサイクル専用ごみ箱を抱えている地区を特定し、そのごみをペンシルベニア州チェスター近くにある焼却施設に送り始めたのだった。それ以外のリサイクル用資源はこれまで通りリサイクルセンターに送っている。
施設の焼却炉では廃棄物を燃やして電気エネルギーに変え、配電網を通じて売電できる、とフィラデルフィア街路委員会理事のカールトン・ウィリアムズは言った。だが、住民の環境不安やチェスターの大気汚染がさらに悪化するのではないかと心配する不安はほとんど解消されていない。
「住民たちは『我々がやっているリサイクルへの努力を全部持ち去って燃やしてしまうのか?』と言う。住民は『燃やす』という言葉を耳にすると、環境災害のように考えてしまう」とウィリアムズ。
同市幹部は19年に元どおり市全域でリサイクリングが実施できるよう、無理のない契約を業者と交渉中だ。
ところで、デルトナ市が同年2月にリサイクル計画を中断したのは、コスト高だけが理由ではない。たとえリサイクル業者が請求していた月額2万5千ドルの追加費用を支払うことに同意したにしても、すべてのプラスチック容器やくず紙が再生利用されるという保証はなかった。「私たちはみな、リサイクリングした。簡単だったからだ。しかし、実際にリサイクルされたのはそれほど多くはなかった」と市長のハイディ・ハーツバーグは言った。
リサイクル問題は、ごみの元を制限する動きまで広がりをみせている。以前から環境団体が呼びかけてきたポリ袋やストローの禁止といった方法が幅広く支持されるようになってきたのだ。
19年3月には、コネティカット州の自治体向けロビー団体が、リサイクル問題が混乱しているとして州知事にポリ袋、ストロー、それに包装の規制に集中的に取り組むよう要請した。
「リサイクリングは経済的に成り立たない。その事実を受け入れるのが早ければ早いほど、私たちはプラスチックの汚染対策で大きな前進を早く遂げることができる」。技術者で環境擁護団体Last Beach Cleanup(ラスト・ビーチ・クリーンアップ)のリーダー、ジャン・デルはそう語った。同団体は非営利団体や投資家たちと共同してプラスチック公害の削減に取り組んでいる。
それでも大量の廃棄物を出す側は、どれほど無益であろうがリサイクリングにこだわり続けている。
メンフィスでは、大手の事業所が汚染問題で当面、リサイクリングを中止せざるを得なくなった。だが、メンフィス国際空港はリサイクル専用のごみ箱を置き続けている。同空港報道官グレン・トーマスは、旅客や従業員に定着しているリサイクリングという「文化」を守るためだ、とメールで説明。「もしメンフィス地区にシングルストリーム・リサイクリング(訳注=缶、瓶、ペットボトル、段ボール、紙類などのリサイクル資源を一つの容器にまとめて収集し、機械選別するシステム)が戻ってきたら、その時は我々もすみやかに移行できるようにしたい」と話した。(抄訳)
(Michael Corkery)©2019 The New York Times
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