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自国の森を守り、海外で乱伐する中国 ロシアで進む森林破壊

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
中国の満洲里市の鉄道駅近くには、木材が山のように積まれている=Lam Yik Fei/©2019 The New York Times

アルタイ山脈から太平洋岸に至るまで、木材伐採でロシアの広大な森林が荒廃し、瀕死(ひんし)の切り株が点在する傷ついた地帯が広がっている。

多くのロシア人にとって、その犯人は明白だ。中国である。

中国は20年前、自国内の自然林の商業伐採を制限し始めたが、それ以来、木材の供給先を次々にロシアに求め、建設会社や家具の製造業者の旺盛な欲求に応えて木材輸入は2017年には莫大(ばくだい)な額に達した。

「シベリアの人びとは、生存のために森林が必要なことを理解している」とユージン・シモノフは言う。ロシア極東地域における商業伐採の影響について研究してきた環境保護論者の彼は、「地元の人びとは自分たちの森林が今まさに盗み取られていることを知っている」と指摘する。

ロシアは、それを承知したうえで中国企業に低価格で伐採権を売り渡し、合法の範囲を超えた伐採には目をつぶる協力者でもある。評論家たちは、そう言っている。

中国の木材需要で、いたるところの森が裸にされている。ペルー、パプアニューギニア、モザンビーク、ミャンマーといった国々だ。

環境保護団体の「グローバル・ウィットネス(Global Witness)」によると、ソロモン諸島では、中国企業による伐採が現在のペースで続けられれば、2036年までに原生の熱帯雨林が消え失せる。インドネシアでは、環境保護の活動家たちは、中国のパートナーの会社が関与した違法伐採によってカリマンタン(ボルネオ島)のオランウータンに残されていた最後の拠点が消滅の危機にさらされていると警告している。

環境保護論者たちは、中国は経済的な利益を享受しているにもかかわらず、乱伐の害を国内から国外へと振り向けただけだと指摘する。現在の伐採は手つかずの森林資源を枯渇させる可能性があるほどの規模で、それが地球温暖化の誘因になっていると言う人もいる。

その一方で、中国は自国の森林を保全しているのだ。

20年前、荒れた山々や汚染された河川、さらには揚子江沿いの流域のダメージによって一段と悪化した壊滅的な洪水などを懸念した中国共産党政権は、国の森林の商業伐採を制限するようになっていく。しかし、中国の木材需要は衰えなかった。中国が製造し輸出する主要な材木製品の合板や家具に対する世界の需要も減らなかった。

中国の需要は、片や現金を切望する貧しい小国を圧倒しているが、もう一方では超大国であり、中国の戦略的パートナーでもあることを自任する大国の資源の流失も招いているのだ。

この取引は、天然資源に対するロシアの過剰な依存を際立たせ、本来なら良好であるはずのウラジーミル・プーチン、習近平・両国家指導者の関係を緊張させる大衆の反発を引き起こした。

多くの都市で抗議行動が展開された。ロシア連邦議会の上院議員たちは、シベリアや極東地域で発生している環境破壊を無視する当局者たちを激しく責め立てた。地元住民や環境保護論者たちは、伐採がロシアの流域を台無しにし、絶滅が危惧されるシベリアトラやアムールヒョウの生息地をダメにしていると不満を表明した。

「シベリアや極東地域で起きていることは、残されていたもともとの森林景観の破壊である」とロシアの「世界自然保護基金(WWF)」の森林プログラム部長ニコライ・M・シュマトコフは指摘する。この団体は、ロシアでの中国による伐採ブームと重なった時期に衛星画像を使って破壊の実態を記録してきた。

「それは持続可能なことではない」と彼は言う。

過去40年間にわたる中国の驚異的な経済変革がその需要を牽引(けんいん)してきた。中国は今や世界最大の木材輸入国だ(米国は2番目)。中国はまた、その大部分を世界各地のホーム・デポ(Home Depot)やイケア(IKEA)に向けて加工した材木商品の世界最大の輸出国でもある。

木材が集積された満洲里市の鉄道駅周辺=Lam Yik Fei/©2019 The New York Times。中国が自国内の自然林の伐採を制限して以来、ロシアからの木材輸入が飛躍的に増え、満洲里市には120社を超す企業や工場がオープンした

世界の貿易統計を調べている会社IHS Markitの「グローバル・トレード・アトラス(Global Trade Atlas)」によると、中国の木材輸入――粗木、木材や木材パルプ――の総額は、中国が自国内での伐採制限を始めた1998年以降、10倍以上に膨らみ、2017年には過去最高額の230億ドルに達した。

中国政府は一定の地域を対象にした伐採禁止の範囲を、2016年にはその他の地域にも拡大した。現在、商業伐採が許されている場所は再植林された森林だけである。環境保護論者たちは、他の国々もこの政策を見習うべきだと言っている。

問題は、多くの国がそうはしていないことで、中国企業はそこをビジネスチャンスとみて追求しているのだ。

ロシアのシンクタンク「カーネギー・モスクワセンター(Carnegie Moscow Center)」の中国研究者ビータ・スピバックの報告によると、ロシアで操業している中国企業は現在500社以上あり、多くがロシアのパートナーと提携している。かつてのロシアは、中国へは木材をほとんど輸出していなかった。それが今では、中国の総輸入額の20%超をロシア産が占めるまでになっている。

「中国人が来れば、何も残らないだろう」とマリーナ・ボロブイエバは言う。バイカル湖の南側に位置するザメンスキー地区の住民で、中国の企業がその地域における49年間の伐採権貸与を確保した後のテレビ局の取材に応じての発言である。

WWFのシュマトコフの話だと、ロシアはそうした伐採権を売っており、その価格は地域や木材の種類によって異なるが、平均でおおむね1ヘクタールあたり年2ドル相当ないし1エーカーあたり年80セント相当だ。これは他の国々と比べて、非常に低価格だ。

中国は2017年に、ロシアから2億立方メートル近くの木材を輸入した。 ウラジオストクにある極東連邦大学の国際学教授アルトヨム・ルーキンは、政府の腐敗や犯罪、シベリアおよび極東地域における経済発展の欠如も危機を一層悪化させてきたと述べている。

「ロシア極東地域やシベリアの多くの農村地帯には、周囲の広大な森林という自然資源を引っ剥がす以外に、カネになる手段や生活する手段がほとんどないのだ」とルーキンは言っている。

しかし中国側には、この取引が恩恵をもたらした。

ロシアからの木材の多くは国境を越えて満洲里(訳注=ロシアとの国境に接した内モンゴル自治区にある中国最大規模の交易都市)に入ってくる。かつて、そこは遊牧民の集落だった。活気がなかった町は今や、ロシアとの貿易で、中国の木材加工や木材製品生産の中心的な拠点の一つとなっている。

満洲里市には製材会社もある=Lam Yik Fei/©2019 The New York Times

ここ20年間で、120を超す製材工場などができた。丸太や粗木を加工し、合板やベニヤ板、薄板、ドア、窓枠、家具などをつくっている。地元当局者によると、そうした工場は市の端の広大な土地にあり、30万人都市で1万を超す雇用を生み出してきた。

チュー・シウホワ(50)の経歴は、中国の対ロシア貿易の発展と軌を一にしている。

彼女は、中国が自国内の伐採を制限し始めた時に満洲里に移ってきた。ロシア材の輸入の仲介業から始め、2002年にはロシアで森林を直接伐採する権利の入手を探り始めた。その4年後、現在の会社「内蒙古凱盛集団」を創設。同社は、満洲里では最大企業の一つになっている。

彼女は現在、満洲里に三つの工場を経営し、ロシアのバイカル湖に隣接した都市ブラーツクに近い森林に180万エーカー(72万8千ヘクタール余り)の伐採権を持っている。「会社は年々成長している」と彼女は言う。

伐採権の詳細については話したがらなかったが、同社のウェブサイトを見ると、チューは2015年までにロシアに2千万ドルを投資した。中国国営の新華社通信は、彼女の複合企業体の資産は2017年時点で1億5千万ドルと推定している。

チューは、次は伐採権をさらに西へと拡大する方策を練っている。「今後100年では伐採し尽くせないほど(の森林が)ある」と彼女は言っている。

満洲里市のマトリョーシカ広場。ロシアの伝統的な入れ子人形からの命名で、巨大なマトリョーシカが数百体置かれている。中央に見えるのは「世界最大のマトリョーシカ」と称した人形型の17階建てホテル=Lam Yik Fei/©2019 The New York Times。木材貿易を通じたロシアとの関係の深さを象徴する

一方、ロシアでは森林伐採――とりわけ中国の伐採――に対する抗議行動がシベリアや極東地域で起きた。政治的、文化的な相違を背景にロシア人と中国人の間で長年にわたって醸成されてきた相互不信が噴き出したのだ。

そうした抗議行動の一つが昨年5月、バイカル湖近くのウランウデ(訳注=東シベリアに位置するロシア連邦ブリヤート共和国の首都)で発生、警察ともみあいになり、8人が逮捕される騒ぎになった。「野蛮な伐採をやめさせろ」。抗議の看板に、そうあった。(抄訳)

(Steven Lee Myers)©2019 The New York Times

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