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ラーメンを語り出したら止まらない イスラエル大使館員お気に入りの「私の東京」

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東京ラーメンストリート=荒ちひろ撮影

日本で暮らす各国大使館の人たちに、東京都内のお気に入りのスポットを聞く「私の東京」。ラーメン愛あふれるイスラエル大使館のヨナタン・レベル参事官(報道・広報担当)が「東京ラーメンストリート」(東京都千代田区)を紹介してくれました。(聞き手・荒ちひろ、吉野太一郎)

――都内のお気に入りの場所を教えてください。

ラーメンが大好きな私のお気に入りは、東京駅地下街にある「東京ラーメンストリート」です。3年ほど前、色んなお店のラーメンが1箇所に集まった場所があると聞きつけて、さっそく行ってみたところ、行列がすごくてびっくりしました。以来、仕事の合間に立ち寄ったり、イスラエルからの客人を連れていったり。毎回、新しい店やメニューに挑戦するようにしています。

東京駅一番街にある「東京ラーメンストリート」。外国人観光客の姿も多い=荒ちひろ撮影

イスラエルの文化的背景であるユダヤ教には「コーシェル」という食事の規定があります。同様の宗教上の食事の決まりでは、イスラム教の「ハラール」も有名ですね。コーシェルの決まりは、複雑で幅広く、食べてよいもの、食べてはいけないものなどを定めています。

いくつか例を挙げますと、豚肉のほか、水の中にいる生き物でうろこのないもの、例えばタコやイカ、エビなどの甲殻類は食べないとされています。また、肉類と乳製品を一緒に食べてはいけないとされているので、イスラエルでは、チーズバーガーがないハンバーガー店や、サラミやソーセージ入りのピザがないピザ屋さんもみられます。

ですが、みんながコーシェルを完全に守っているかというと、そうではありません。宗教上の戒律を厳しく守っている人もいれば、そうでない人もいるからです。ですから、イスラエルにはコーシェルの決まりに従ったレストランもあれば、そうでないレストランもあります。

イスラエルの人口約900万人のうち、ユダヤ人は約75%。約25%はアラブ系のイスラム教徒やキリスト教徒、ドゥルーズなど非ユダヤ人です。地中海に面するイスラエルには美しいビーチがいくつもあるのですが、ビキニもブルキニ(宗教上の決まりに配慮して体の線が出にくいよう工夫された女性用水着)も目にすることがあります。イスラエルは、実に多様な国なんです。

イスラエル大使館=吉野太一郎撮影

ラーメンストリートには、肉や卵、乳製品など動物由来の食品を食べない人向けのメニューがある店もあります。ここなら、宗教上の理由で豚肉を食べられない人やベジタリアンでも、一緒に食事を楽しむことができますね。

ラーメンは「日本的なハーモニー」

――ラーメン愛を語り始めたら止まらない、と聞きました。

ラーメンの起源は中国ですが、日本で独自の進化を遂げ、いまや日本を代表する料理の一つ。様々な食材を使っただしや具、麺がどんぶりの中で最高の形で一つになっている。よりよいものをつくるために協力し合う、とても「日本的」なハーモニーだと思います。

各店それぞれのこだわりがあり、修業や工夫を重ねて、独自の一杯をつくりだす、日本の「職人気質」を感じます。札幌の味噌ラーメンやあっさり醬油ベースの喜多方ラーメン、博多の豚骨ラーメンなど、「ご当地の味」もありますね。旅行や出張先では、地元の方に「この辺りでベストなラーメンはどこですか?」と尋ねるようにしています。

レベル参事官(左)=吉野太一郎撮影

日本食はイスラエルでも有名です。以前は日本食といえば寿司がほとんどでしたが、ここ数年でラーメンをはじめ、カレーや居酒屋なども登場しています。イスラエルでは豚を食べない人が大半なので、鶏ベースのラーメンが多いように思います。豆のペーストで豚骨スープのような「重さ」を出すなど、各店、工夫を凝らしているようです。一方で、日本人が出店した本格的な豚骨ラーメン店もあり、盛況と聞いています。

人生最高の一杯は京都だった

――日本との「出会い」は?

初めて日本を訪れたのは、兵役を終えた直後の2005年のことです。

イスラエルには徴兵制があり、男女ともに高校を卒業すると大半が兵役に就きます。そして兵役後、多くの若者が旅行に出かけます。旅先としては、南米やインドが人気ですね。

でも私は、せっかく旅に出るのに自分と同じようなイスラエル人の若者がたくさんいる場所は嫌だと考え、東アジアへ。中国に3カ月、香港に10日間、そして日本に1カ月半滞在しました。北海道から広島まで、バックパッカーとして旅しました。当時は知らなかったのですが、ちょうど桜の季節で、京都の町並みや、姫路城や松本城などの史跡と満開の桜との景色が印象に残っています。人生でほかで見たことのない、美しい光景でした。

イスラエル大使館公式マスコットで親善大使の「シャロウムちゃん」とレベル参事官。名前は、ヘブライ語で「こんにちは」と「平和」を意味するシャロームから。イスラエルの国章で平和の象徴のオリーブを持ち、ダビデの星のティアラをかぶっている=吉野太一郎撮影

帰国後、テルアビブ大学で経済学とコミュニケーション学を学んだのですが、再び日本に行きたいと思い、2009年には大阪に1年間、留学もしていたんです。実は、これまでの人生で一番のラーメンは、このころにイスラエルから遊びに来ていた友人と京都で食べた一杯。なんとかして再び食べたい味なのですが、どうしてもお店の名前が思い出せません……。当時はまだラーメンのことをあまり知らず、何ベースかもわからなかったのですが、豊かな「旨み」に感動した記憶があります。

日本は、西洋とは全く異なる文化があり、同時に先進国でもあります。異なる文化が、異なる道を通って、発展を遂げてきた。日本が、西洋人をはじめ多くの外国人を引きつけてきた部分ではないでしょうか。

イスラエル料理は最近注目のヘルシーフード

――大使館ではどのような仕事をされていますか?

大使館では報道・広報担当として、SNSでの情報発信や、学校や地域での講演など、イスラエルという国を広く知ってもらえるよう様々な活動をしています。

人気の料理レシピサイト「cookpad(クックパッド)」の大使館公式キッチンもその一つ。ひよこ豆のペースト「フムス」や、コロッケのような「ファラフェル」など60を超えるイスラエル料理のレシピを公開しています。イスラエル料理はオリーブや野菜をたくさん使ったヘルシーフードとしても注目されており、日本でも広まってきています。是非レシピにも挑戦してみてください。

イスラエル大使公邸の玄関に施されたステンドグラス=吉野太一郎撮影

来年の東京五輪・パラリンピックに向けたホストタウンプロジェクトにも取り組んでいます。イスラエルの商都・テルアビブとイノベーション関連の関係が深い横浜市や、東日本大震災後の支援が縁で交流のある宮城県亘理町、第二次世界大戦時に多くのユダヤ人を救った「命のビザ」で知られる杉原千畝氏の故郷である岐阜県八百津町と協力して、交流計画を進めています。

――なぜ外交官になったのですか?

私が外交官の仕事に興味を持ったのは、海外生活が長かった祖父母の影響もあるかもしれません。祖父母は農産物の輸出入に携わっていて、スイスやイタリア、ドイツ、オランダなどヨーロッパでの生活が長く、いつも外国のおもしろい話をしてくれました。子どものころ、寝る前に世界地図や百科事典を読むのも好きでしたね。

大使館内の至る所にあった、ユダヤ教の聖書の一節を書いた巻紙を入れた「メズーザ」。入り口に斜めに取り付けられ、部屋に出入りする際に手をあてて祈る=吉野太一郎撮影

日本は、私が初めて住んだ「外国」です。ニュースなどで見聞きする世界と、自分の目で見る現実は、大きく異なります。世界を飛び回って、色んな人や文化に出会い、色んな仕事ができる。外交官という仕事の魅力です。

――イスラエルは、国際ニュースに登場することが多い国です。

ユダヤ教の祭りで使う燭台「ハヌキヤ」=吉野太一郎

イスラエルは、今年で建国71年の比較的若い国です。一方でユダヤの歴史は長く、伝統や歴史を大事にしている点で、日本と通じる部分もあります。日本とイスラエルには、現在は直行便がないのですが、9月に成田―テルアビブ間の直行チャーター便の運航も計画しています。

ニュースで見るイスラエルは、危険な場所というイメージが先行しがちかもしれません。でも実際は、IT産業などが盛んな先進国。ユダヤ、キリスト、イスラムの3大一神教の聖地があり、世界中からたくさんの巡礼者や観光客が訪れます。みなさんにもぜひ自分の目で見て、体験してほしいですね。

東京ラーメンストリート>東京駅の八重洲側にある「東京駅一番街」地下1階に2009年6月、「東京で真っ先に食べたいお店」をコンセプトにラーメン店4店でオープン。2011年に全8店舗に拡大した。定番の煮干しだしや豚骨スープ、つけめんから、卵や乳製品などを含めた動物由来食品を食べない「ビーガン」向けまで、多様なメニューの名店が並ぶ。

イスラエル大使館>所在地は千代田区二番町。金曜の日没から土曜の日没まではユダヤ教の安息日「シャバット」のため、金曜日の業務時間は通常より2時間早い午後3時まで。公式マスコットは親善大使でもある「シャロウムちゃん」。