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イスラエルとUAE国交樹立 さらに華やかに進化するドバイの食文化

中東を丸かじり 更新日: 公開日:
自宅で作ったババガヌーシュ

イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンが9月15日、国交正常化で正式合意した。長年対立が続いてきたアラブ諸国の中で、イスラエルが国交を持つのは、エジプトとヨルダンに続いて計4カ国となった。エジプトとヨルダンは「冷たい平和」が続いているが、イスラエルやUAEは技術協力などの「実利」で動いた面があり、イスラエルとアラブ諸国の関係構築への新たなモデルになる可能性もある。早くも経済協力関係の強化の取り組みが活発化。食をめぐる動きも出ており、ドバイを中心に多国籍な食文化が花開くUAEに、独特なコーシェルという食事規定があるイスラエル料理も本格的に加わることになった。

イスラム教とユダヤ教の食物戒律の違いは?

セム的一神教のユダヤ教は、キリスト教やイスラム教と共に、聖書の預言者アブラハムの宗教的伝統を受け継ぐとされることから「姉妹宗教」とも呼ばれる。イスラム教とユダヤ教には厳格な食物に関する規定があり、宗教的に豚肉は食べられないなど似ている部分もあるが、詳細は随分と異なる。

イスラム教ではアルコールの摂取が禁じられるのに対し、ユダヤ教ではワインは宗教儀式のアイテムになっており、幅広く飲まれている。ワイン醸造が盛んなイスラエルでは、小規模なワイナリー巡りも楽しみの一つ。そのほか、ユダヤ教では「4つ足の獣のうち反芻し、ひづめが分かれている」ものは食べてもいいとされ、イスラム教で許されるラクダやウサギなどは食べられない。ユダヤ教では、カニ、エビなどの甲殻類やイカ、タコ、貝は、ヒレや鱗がないので食べてはいけないが、イスラム教では食べてもいい。

両宗教ともに食べられる牛肉や鶏肉も、それぞれの宗教的な定めに基づいて処理した肉でないと、「宗教的に清浄」とは認められない。だから、ユダヤ人にとってはコーシェルが、イスラム教徒にとっては、ハラルの食事が必要ということになる。もちろん、宗教的な決まりを気にしない世俗的な人々もいる。イスラエルの商都テルアビブには、堂々と豚肉料理のメニューを掲げる店も目立つ。ただ、スーパーマーケットで売っている食品の多くは、コーシェル認証が付いている。コーシェルでないと、食物戒律を守る客層を自動的に失うことになるためだ。

イスラエルのレストランに掲示されたコーシェルの認証=テルアビブ

国際都市ドバイにはすでにコーシェルが

敬虔なユダヤ人が海外出張に出かける際には、かつては大変な経験をしたという。海外では、持ってきた缶詰のオリーブとパンで何週間も空腹をしのいだとの話も聞いた。だから、イスラム圏であるUAEとイスラエルの国交は、生活の基本である食事の面からも関心事。だが、そこは国際都市ドバイを擁するUAE。すでに2019年には、ユダヤ人がコーシェルのケータリングサービスを開業、ビジネスや観光で訪れるユダヤ系米国人やフランス人らを相手に盛況だった。新型コロナウイルスの感染拡大後は、ドバイに住む外国人や地元のUAE国籍の人たちが主な顧客になったという。

コーシェルは豚肉を使わないなどイスラム教の食事と重なる部分もあり、このケータリング会社は、コーシェルに基づいた料理にUAE的な要素も加えたメニューも提供。アラブ首長国連邦を意味するエミレーツとコーシェルを掛け合わせた造語「コシェラティ」という新たな食文化のジャンルも生まれている。

UAEは、火星探査機を打ち上げたり、脱化石燃料のエネルギー源多角化のため平和利用を全面に押し出して原子力発電所をアラブ諸国で初めて稼働させたりするなど進歩的な政策を進めている。UAE当局は、ホテル業界にコーシェルの料理をメニューの選択肢に加えるよう通達を出したことからも、イスラエルとの関係深化への真剣さがうかがえる。

世界一の高さを誇るブルジュ・ハリファ=ドバイ

技術とカネでビジネス拡大に期待感

平和条約を締結するイスラエルとエジプトやヨルダンだが、安全保障面以外の経済協力などはあまり進んでいない。これに対し、UAEは資源国ということもあり、財政的に豊かで国の政策も開明的。「湾岸のカネとイスラエルの技術力が結びつくことで新たなビジネスが生まれる」(日本の大手商社関係者)との期待も大きい。

イスラエルとUAEの国交に対しては、イスラム教シーア派の大国イランを警戒した「事実上の軍事・安全保障に関する同盟関係なようなもの」との見方があるものの、政治的な対立を乗り越えて、イスラエルは新たなビジネスの舞台を、UAEは、中東のシリコンバレーのような存在のイスラエルの技術を望んだ面も強い。

ユダヤ人は世界に広がり、イスラエル国民も旅行好き。だから、世界にはコーシェルのレストランも結構ある。スペインの地中海に浮かぶマヨルカ島を旅した時も、素敵なイスラエル料理店に出会った。最大都市パルマにあるイスラエル料理店「シンプリー・デリシャス」。素材の美味しさを引き出す中東の食事を端的に示したレストランの名前。イスラエルやパレスチナ、レバノン、シリアなどこの地域で共通して食べられるナスのペースト料理、ババガヌーシュは絶品だった。

ババガヌーシュは通常、丸焼きにしたナスと、タヒーニというゴマペーストを混ぜるが、ここのお店はマヨネーズでアレンジ。もちろん、ゴマペーストも濃厚で美味しいのだが、マヨネーズを使ったババガヌーシュは、よりクリーミーなタッチだった。これなら日本の家庭でも材料の入手に苦労せずに手軽に作れそうだ。

 

【動画】ババガヌーシュ・マヨネーズの作り方