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ナイル川は豊かなのか? 釣り人的な視点で眺めてみた

中東を丸かじり
大量の魚を前に満足げな南スーダンの子供

釣り人視点で

「ナイルの賜物」と言われて古代エジプトの文明や国土の繁栄をもたらしてきたナイル川が貫流するエジプト。1902年に完成したアスワン・ロウ・ダムや1970年に竣工したアスワン・ハイ・ダムによって、洪水が制御された一方、古来から上流域からもたらされた沃土が大幅に減少し、土壌の衰退や塩害などの弊害も生じている。今、エチオピアでグランド・エチオピア・ルネサンス・ダムが間もなく稼働することになり、エジプトは新たな転機を迎える。青ナイル川の源流であるエチオピアや白ナイル川が流れる南スーダン、エジプトのナイル流域を釣り人的な視点で眺めてナイル川の豊かさを探ってみた。

南スーダンを流れる白ナイル川

肥沃な土壌を運んだナイル川

ナイル川の水源は、エチオピア高地を源とする青ナイル川と、赤道周辺の湖沼高地から流出する白ナイル川の2つであり、青ナイル川が約7割の水を供給する水源となっている。青ナイル川の流域に降った大量の雨が毎年8~10月になってエジプトに押し寄せ、洪水を引き起こす。

古代4大文明の一角を成すエジプト文明は、この洪水によって発達したと言っても過言ではない。近代に入ってダムによる水の制御により、農業生産を飛躍的に拡大するなど経済発展につなげてきた。エジプトは古代から、ベイスン農業と呼ばれる農法で人口を養ってきた。ベイスン農業では、ナイル川の流域に水路や堤防を建造し、堤防で囲んだ農地を洪水期に冠水させ、洪水の終わりとともに排水して小麦などの種をまいて生産量を拡大させた。

牛の群れを移動させる南スーダンの男性

こうした農法は、エチオピア高原の肥沃な土壌が洪水によってエジプトにもたらされ、農地を冠水させることで無肥料でも豊かな実りを人々に与えてきた。訪れた青ナイル川の源流に当たるエチオピアの北部では、大量の雨で土壌が削り取られ、川がむの濁流と化すのを目にしたことがある。エジプトには、肥沃な土壌の多くがエチオピアからやってきた。

ナイル川を通じて豊かな恵みをエジプトにもたらしてきたエチオピアなどの土壌も、ダムや堰の建設によって下流に到達しなくなった。その代わりに、エジプトは年間を通じた安定的な灌漑用水や水力発電によるエネルギーの確保という恩恵を享受した。農業生産は拡大し、人口も1960年の3000万人弱から今年は1億人を突破した。

ダム上流部は今も大漁間違いなし

ナイル川の豊かさを測る一つの指標は、釣り糸を垂れることではないだろうか。エジプトのナイル川で何度か釣りをしたことがある。だが、釣れるのはブルティーと呼ばれるティラピアの子どもや小さなナマズ程度。大都会の首都カイロでも太公望が釣り糸を垂れているのをよく見たが、大物を釣り上げているのに出くわしたことはない。川漁師の漁獲をのぞかせてもらったことがあるが、30センチに満たないブルティーやナマズがせいぜいで、大漁とは言い難い。古代エジプトの風景が描かれたパピルスを紙にした絵は、大量の漁獲があったことをうかがわせる。

ところが、今も沃土が流れ込むアスワン・ハイ・ダムには数十キロのナイルパーチや、サメのような歯をした大きなタイガーフィッシュなど釣り人の憧れの巨大魚がうようよしている。そして、さらに上流の魚の豊富さは、釣り人にとってはたまらない魅力だろう。南スーダンの白ナイル川では、子供たちが10匹近い比較的大きな魚を釣っているのに出くわした。

南スーダンの白ナイル川で子供が釣った魚

首都ジュバから小型ボートで約30分の中州で暮らす南スーダン人は、巨大なナイルスッポンを釣り上げていた。長引いた内戦で開発から取り残されてきた南スーダンは、「野生動植物の宝庫」(政府高官)。ジュバ近くの白ナイル川の川面には、1メートルほどのワニが横たわる。下流の湿地帯には数メートルのワニがいるという。

釣り上げられたナイルスッポンは15キロほどの大きさ。さらに、巨大なものがいると聞いた。足のもも肉を1本売ってもらい、レストランで調理してもらった。4人分は優にある大盛りの唐揚げになって運ばれてきた。鶏肉と牛肉を足して2で割ったような濃厚な味わい。栄養価が高そうで、赤ワインとの相性は抜群だった。

ナイル川で獲れたナイルスッポン=ジュバ近郊

ジュバの釣りガイドによれば、小型の魚を釣っていると、1メートル近くの肉食魚が襲いかかってくることがあるほどに魚影は濃い。実際、川面に餌を投げると、無数の魚が餌を奪い合う光景が目の前で展開され、釣り人的な興奮を覚えたことがある。

ナマズはエジプト庶民の味

ナイル川下流部のエジプトは上流部に比べて魚類の豊かさには欠けるものの、ウナギ好きの日本人としては、漁獲される天然ウナギは見逃せない。丸々と太った80センチ前後のウナギがカイロ下町の市場で売られている。炭火を熾して下焼きすると、脂がにじみ出てくる。ある程度焼けたら、醤油とみりん、砂糖で作ったタレを塗り、さらに焼き続ける。日本人に生まれてよかったと思えるような芳香が漂ってくる。近くでこの様子を見ていたエジプト人の友人は、大の日本贔屓で和食も大好きだが、ウナギだけはグロテスクだと言って口にすることはなかった。

ウナギはエジプトでも高値で売られており、庶民の魚はナマズだ。カイロの下町では、よく金属製の洗面器に入れられたナマズが生きたまま売られていた。人々はこれをトマト煮込みなどにして食べるらしい。このトマト煮込みはエジプトのアラビア語方言でターゲンという。モロッコのタジンと同じ名前だが、濃厚なトマトのシチューであり、料理法は随分と異なる。ラムなどの肉が使われることが多いが、魚バージョンもあり、庶民はナマズをよく使う。

モロッコの代表的な料理クスクス

カイロでは海の魚も手に入るので、ナマズは食べたことがない。日本で暮らす今、ナマズ料理屋があるのは知っているものの、身近なところでナマズを売っている魚屋やスーパーには出会ったことがない。先日行ったウナギ釣りの外道として食べ頃サイズのナマズが2匹釣れた。しばらく沢水を引いた池で生かしておいた。そろそろナマズのエジプト風トマト煮込みでも作ろうとしたら、ナマズに愛着を持った家族からストップがかかった。ナマズは白身で、天ぷらなんかにするとホクホクして美味しい。蒲焼もウナギよりも淡白だが、よろしい。今回はナマズ料理を諦め、白身の似たような味わいの太刀魚で、エジプトのタジンを作ってみた。

【動画】タジンの作り方