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ロシアの「ダーチャ」に学ぶ暮らしのヒント<後編>週末農業から究極のレジャーへ

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
一般的な庶民ダーチャ。畑の先にダーチャ小屋が見える=荻野恭子提供

第11回 ロシア 長年、年に暮らすロシア人のスタンダードだった「ダーチャ」に 近年変化が生まれています。別荘的に楽しむ人から庶民まで、 様々な「ダーチャ」の活用があります。

「お金持ちダーチャ」も増加 「究極のレジャー」に?

もともとは自給自足生活の奨励から始まったダーチャですが、今では、夏の楽しみも交えた避暑的な取り入れ方も加わり、なくてはならない文化へと進化しているように思います。近年は「究極のレジャー」とも言われるほどで、簡単な作業小屋付きのある菜園レベルから、セキュリティつき、バーニャ(サウナ)つきの富裕層向けまで、様々なものが登場しています。友人のダーチャも様々です。

ごく一般のダーチャは夏の週末仕様です。暖房施設がなく、冬は滞在が難しい。前回もお話ししたように、畑作業を行う5月半ばから10月半ばまでしかいられない、キャンプ場のログハウス的な設備に近いものです。トイレや水周りが共同のこともありますし、お風呂などもなく、畑仕事の後は金盥に水を張って流したりする程度のことも多いですね。室内には簡素なテーブルがあり、ちょこっと調理ができたり休息用のソファなどがあるのが一般的です。

富裕層のダーチャは別荘的なスタイルで、のんびり休息を取る目的のものが多いですね。300~500坪もの広大な敷地で売り出されていたり、セキュリティ付きのものも。バーニャ(サウナ)もあればプールもあり、年間通して利用できるので、リタイア後に長期間住んでいるお年寄りもいます。自然が豊かな場所に作られていますので、周囲の森や川でバーベキューをしたり、ベリー摘みや、キノコ狩りをした後で保存食を作るなど、色々な楽しみ方があります。

ごく一般的な庶民ダーチャ=荻野恭子提供
実業家のご夫婦でモスクワにも自宅のあるワーリャさんの高級ダーチャ。セキリュティ付きで、バーニャ(サウナ)もある=荻野恭子提供

◉ダーチャの真髄は菜園 収穫も保存も大忙し

夏のダーチャの仕事はとにかく収穫です。とれたての野菜はサラダ的に生で食べたり、さっと煮たり。農作業の合間に夏のダーチャで飲むのは、摘みたてのハーブティー。消費しながら保存もしつつ、過ごします。

秋口になると、ダーチャシーズンの終わりに向けて、本格的に保存食を仕込みます。野菜は冬に備えて塩漬けにして発酵させ、漬物にしたりして保存瓶に詰めたり、乾燥させたり。ハーブも乾燥させます。また、きのこは塩漬けにしたり干したり。

ベリー類はカンポートやヴァレーニエにします。ブルーベリーを始め、ラズベリー、グズベリー、ハスカップなど様々なものがあり、近くの森や林(敷地内にあることもある)で取り放題。持ち帰ってよく洗い、砂糖をまぶして短時間煮ると、フレッシュさを味わえるロシア風のジャム「ヴァレーニエ」に。フランスのジャム「コンフィチュール」の場合は長時間煮ますが、ロシアの場合はさっと煮るだけです。

カンポートはフランスで言うところのコンポートと同じものですが、ワインなどは使いません。ロシアでは、お酒は飲むためのもの。ですので「カンポート」は砂糖だけで果物を煮ます。実はそのまま砂糖やサワークリームをかけて食べ、汁はジュースとして飲みます。大きな瓶に何本も作りますので、ダーチャ好きのお宅に行くと必ず「カンポートのむ?」と聞かれるほど。数種のベリーをミックスしたり、さくらんぼ、いちご、りんご、洋梨、すももなど、いろんな果実で作ります。とにかく、収穫したものでできるものを作るという、無理のないスタイルです。収穫物はどんどんできるので、人にあげたり保存したりと、大変なのです。

ベリー摘みの後は、ダーチャでヴァレーニエを作る作業=荻野恭子提供

無理なく身の丈に合った形で、私なりの「ダーチャ」を

ロシアでたくさんのダーチャを見てきましたが、他の国の例に漏れず、ロシアも若い人は料理をしなくなっていますし、ダーチャも親に任せている人は多いです。今はまだ続いている文化ですが、この後の世代でどのように受け継がれてゆくかは未知数ですね。

今、日本でも都会の人が畑仕事を楽しんだり、2拠点で田舎暮らしを推奨する流れもありますが、これは、自然と触れ合ったり、畑仕事そのものに幸せを感じる人が増えている表れのような気もしていて、物質的な豊かさの先にある豊かさが求められている部分も大きいのでしょう。けれども日本人は、熱し易く冷め易いですし、持続的な自分のライフスタイルとして昇華するところまで行くのは至難の技のような気もします。

実は私も、自宅の屋上を畑にしていた時期があるのですが、忙しくなると水やり1つ取っても大変でした。途中で続かなくなってしまうんですよね。都会で再現するならコンパクトにベランダ栽培をしていたほうが気楽で無理なく続くかもしれません。少し保存して楽しんで食べるみたいなね。こじんまりであっても、何かを育てることは癒しにもなりますし、自分のお家でできる範囲で、自分の首を絞めないようなライフスタイルを作る。生きるとはそういうことかなと思います。

→次回は2月28日更新予定です。

参考文献 地図で読む世界の歴史 ロシア ジョン・チャノン/ロバート・ハドソン著 外川継男監修 桃井緑美子訳(河出書房新社)/ロシア文化の方舟 野中進編(東洋書店)/図説ソ連の歴史 下斗米伸夫著(河出書房新社)

●カンポートの材料と作り方(作りやすい分量)

いちご(または好みの果実)300g、砂糖150〜200g、水2Lを鍋に入れて火にかけ、煮立ったら弱火で3〜5分煮る。レモン汁1個分を加えて火を止める。煮沸消毒した瓶に入れ、冷蔵庫で保存する。

汁はそのままジュースに=竹内章雄撮影
実にはサワークリームを添えてデザートに=竹内章雄撮影