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水がないから乳で練る モンゴル遊牧民の蒸し焼き麺「ツイヴァン」

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
乳で練った生地の、太く短いモンゴルうどん=竹内章雄撮影

◉塩も野菜もなくて大丈夫な暮らし

「ふだんはどんなパンを食べているの?」ときいてみると、「これだよ」と餅(ビン)という乾パンのようなものを見せてくれました。すごく硬くて、スープに浸したり、遊牧にもっていけるような保存のきくものです。数種類の異なる形に成形した「ゴリルタイホール」という生地を、肉汁や湯などに加えて煮込むのも定番で、滞在中何度も出てきました。

モンゴルの遊牧民は昔から、家畜の肉と乳製品、粉もので生きてきたのね。草原に小麦畑を作っているのは、中国側の内モンゴル。砂漠に近い地域は何も育たないので、輸入に頼っています。食用の油は、羊の尾油がたくさんあるので、肉や乳製品と同じく自給。屋外に置くと寒さですぐに固まるので、ラードのように溶かして使っていました。都市ではペットボトルの水も普及していますが、お金もかかるので、遊牧民は家畜の乳で代用することが多いようでしたね。雪解け水の川があるのは、自然の偶然に恵まれたケース。川で水を汲めますからね。

それから、彼らは野菜を少ししか食べないんですって。ナトリウムとカリウムは、摂取のバランスがとても大切で、カリウム(野菜)を取ったら、ナトリウム(塩)が必要です。でも、生き物の体はよくできたもので、野菜を食べなければ塩も必要ないということになるのね。私にしてみたら、もっと塩が効いてスパイシーだったらおいしいのにと思うけれど、煮込みもスープもモンゴル岩塩を薄く加える程度で、どこかぼんやりとした薄い味つけ。「なるほどなあ」と納得しました。

一方で、遊牧している家畜は草を食べるでしょう。それで、家畜に塩を舐めさせるんですよ。人間の側は、草を食べた家畜の乳を飲んでいるから、野菜はそこから摂っているという考え方。頭がこんがらがりそうだけれど、誰に教わったわけでもないのに暮らしが理にかなっているの。これには感心しましたね。

◉知恵にあふれたモンゴルうどん

ひとつ、私を唸らせた料理がありました。それは、水を使わずに乳で練って、野菜の水分で蒸し焼きにする麺。生地は大きな洗面器のようなものに、粉をドバッと入れてそこに乳(水のときも)を注いで練り、適当に休ませます。

1、2キロ分はあったかしらね。伸ばして表面に油を塗り、生地を重ねて伸ばし、包丁で短く切ります。油で炒めた肉と、千切りにした野菜の上に生地をのせ、蓋をして野菜から出る水分の蒸気を利用して、蒸し焼きにしていました。油を多めにして、炒め揚げのようにすることで、焦げを防ぐの。「ツイヴァン」という名前の「ゆでないモンゴルうどん」です。

モンゴルでは大皿料理を各々箸でつまむスタイルなので、取り分け皿の文化がありません。なぜ生地を短く切るのか気になっていたのですが、太く短い生地にすることで、箸でつまみやすく工夫しているんですね。生地が濃厚で甘く、食べ応えがありました。「水がなくても、こんな風に美味しく食べられるなんて!」と目から鱗が落ちる思いでしたよ。

彼らの暮らしは、生地をベースに循環していて、計量もきっちりしていないので、大きな洗面器には、いつ見ても使い切れない生地が残っていました。ハエがたかっていても気にしないわね。それで翌日、ぶわぶわに発酵した生地に、また粉を継ぎ足すの。水もないから、容器を洗うという発想もない。常に天然酵母ができている状態で、それが面白かったわね。

御察しの通り、レシピなんてないし分量も適当ですから、生地の作り方を尋ねたりすると、「こんなの、ただ練ればいいのよ」って言うんです(笑)。遊牧は男の仕事。水汲みは女子供の仕事。料理は主には女の人がやっていましたけど、男の人も手伝っていました。日々の仕事量は大変なものですが、彼らは客人は徹底して客として扱うの。でも、暮らしを体験しようと思ったら、一緒に過ごさないことはわからないですからね。「私は居候ですから。客人ではないですから」と何度も言って、やっと手伝わせてもらうことができました。 

◉粉もの料理はモンゴル帝国の置き土産

ゲルに暮らす遊牧民、現地の学校の先生、ホテルのキャンプなど、いくつかの場所で家庭料理を教わりましたが、ウランバートルの都会人と遊牧民とでは、食習慣も違います。このときは、都市では家畜の乳ではなく、水を使って生地を仕込んでいたのが印象的でしたね。

それから、モンゴルの粉ものは、私がそれまで、旧ソビエト連邦や中央アジア、中国全土を旅して出会った料理によく似ていました。揚げ餃子「ホーショール」はロシアの馬蹄の形の揚げ餃子「チェブレイキー」やトルコの「チーボレッキ」にそっくり。帽子型の水餃子「バンシー」は、ロシアの水餃子「ペリメニ」、韓国の「マンドゥ」と同じ形。モンゴルの「餅(ビン)」は、中国や台湾でおなじみの「葱餅」と同じ作り方でした。

国が違うと、呼び方も中身もちょっとずつ違いますが、いろんな国の粉もの料理の共通点が、モンゴルを介して頭の中で一本に繋がった気がしましたね。これらはおそらく、かのチンギスハーンが世界征服をするなかで広まった、モンゴルの置き土産に違いありません。こんな風に、時を超えたワクワクする気づきが、私を次の旅へと繋げてくれるのです。

モンゴルうどん「ツィヴァン」の作り方

①粉と水分の配合は主に2:1(粉300gずつがつくりやすい)にし、塩を少し加えてこねて休ませる。

乳で生地を仕込みます=竹内章雄撮影

②生地をのばして油をぬり、生地を重ねてまとめ

尾油を広げます

③打ち粉をしながら短い細切りにする

生地を短く細く切ります=竹内章雄撮影

④肉は牛または羊、野菜はキャベツ、じゃがいも、にんじん、ピーマン、玉ねぎなどあるものを炒め、うどんをのせて多めの油で蒸し焼きに(油を多くしたくない場合は水分を加えると焦げずに蒸しあがる)。

野菜の蒸気で麺を蒸します=竹内章雄撮影