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水が乏しい砂漠で生まれた料理、 タジンとクスクス

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
(竹内章雄撮影)

第6回 モロッコ編② ベルベル人、ローマ人、カルタゴ人、アラブ人、トルコ人、スペイン人、フランス人などの住民先。多民族が重なり合うモロッコは、調味料や料理もまた、複雑な文化が絡み合って生まれています。どこに行っても出てくるのが「タジン」と「クスクス」。今回は、モロッコの料理についてのお話です。

◉モロッコのどこへ行っても、タジン鍋とクスクス鍋。

モロッコ料理といえば、野菜をキュービック状に切って盛り合わせたモロカンサラダ、ラマダン明けに飲むスープのハリラ、串焼きのシシケバブ、パイ包みのパステーラなど色々ありますが、クスクスとタジンを抜きにしては語れません。私がモロッコを最初に訪れたのは40年前、そして昨年も今年もと、時間をかけてぐるりと全土を巡って参りましたが、先に伺ったベルベル人のお宅を始め、レストランや町の食堂、あらゆる場所で親しまれているのは、今も昔も変わらないような気がします。

◉砂漠の民の知恵が詰まった料理

タジンは、とんがり帽子のような形のふたの鍋です。旬の食材を豊富に使い、スパイスを効かせるのが特徴。多めの油と材料を入れてふたをし、火にかけると、食材から立ち上る湯気が水蒸気となって、先端部分に届きます。そこから水蒸気がポタポタと下に落ち、野菜などの水分で蒸し煮や蒸し焼きにできるというもの。水分を少なく油を多めに入れる、いわゆる重ね蒸し煮のような料理ですが、原理が素晴らしい。円錐形のふたをすることによって、水蒸気がポタポタ垂れて水がいらないとは、砂漠の民が考えただけのことはあります。 街のあちこち、迷路のようなモロッコの都市でも、大小様々のサイズが綺麗に並べて売られているのをみると、ついつい欲しくなるのですが、とにかく重たいですし、持ち帰るのが大変。

タジン鍋。蓋をとればそのまま器にもなる。青色はフェズブルーと呼ばれる鮮やかな青色。イスラムの文字とベルベル人の模様が描かれているそう=竹内章雄撮影

クスクスもまた、専用の鍋ケスカスで作りますが、2段式になっていること以外は、タジンと原理が同じです。鍋の下段では肉や野菜を煮てシチューを作り、上段にはクスクスを広げ、シチューを煮た際の蒸気が上に上がって、クスクスを蒸し上げるのです。ですから、これも水をほとんど使わず、野菜の水分の蒸気で煮炊きするという構造。クスクスは、硬質小麦粉に水をふり、一度火入れをしてからふるいにかけてパラパラな粒状にし、乾燥して保存するパスタの一種で、遊牧民ベルベル民族の生活の知恵です。扱いやすく火の通りが良いので、主食と主菜が一度に作れるんですね。

◉タジンもクスクスも、先住民族ベルベル人がルーツ

タジンは、先住民族のベルベル人がルーツです。先日伺ったお宅でも、少ない台所道具の中で、存在感を放っていました。モロッコは美しい模様の食器類も特徴的ですが、これもまた、モノが少ない暮らしの中で際立って、用の美となっていました。

そうそう、マラケシュで富裕層向けのカルチャー教室に参加。貴族の邸宅リヤドでの料理教室は、そこでも「タジン」がテーマでしたね。経営はフランス人で、教えるのはモロッコ人、アシスタントはベトナム人、生徒は外国人。多くの民族が入り混じっての開催していることを実感させられます。

一人一人専用のモニター、ガス台、シンク、調理台がセットされ、調理工程が目の前に映し出されるハイテク教室。解説は英語でした。試食は、オアシスのような屋上テラスにて民族音楽を聴きながら。合わせたのはモロッコワイン。いいお値段でしたが素敵なひと時でしたね。お土産に可愛いサイズのタジンがついてきました。観光都市としてのモロッコの顔と先住民族としての顔。同じ料理を扱っていても、状況が極端に違いますよね。

モロッコは食材が豊富なので、タジンひとつとっても、素材の組み合わせが色々あります。肉団子のタジンには卵を落として絡めるのが美味しかったですね。パエリャのようにご飯の入ったイカのタジン、鶏肉とオリーブとシトロンコンフィ(塩レモン)、ソラマメ入り、羊肉とプルーン、アーモンド入り、牛肉と野菜など様々。スパイスは、生姜、シナモン、クミン、パプリカパウダー、ニンニク、サフラン、コリアンダー、ターメリック、黒こしょう、唐辛子。ハーブは、ミント、ディル、イタリアンパセリ、タイム、オレガノ……とにかく豊富なのでたくさん使うのです。

→次回は、旬の時期に取れた分仕込む保存食。塩レモン、そしてアリッサについて取り上げます

*羊肉のクスクスの作り方

1 羊肉は食べやすく切り、シトロンコンフィ(※次回紹介予定)のつけ汁にまぶしておく。

2 鍋にオリーブ油、羊肉、茹でたひよこ豆、食べやすく切ったかぼちゃ、トマト、玉ねぎ、かぶ、キャベツを入れ、シトロンコンフィ、アリッサ(※次回紹介予定)、サフラン、水、塩、胡椒を加えて蓋をし、20分ほど煮る。塩胡椒で調味する。

3 ボウルに水、塩を入れて混ぜ、クスクスを加えて水分を吸わせ、オリーブ油をまぶす。鍋にはまる大きさのざるにクスクスを広げ、2の上に乗せてふたをして蒸す。シナモンパウダーとバターを加えて混ぜる。

4 3のクスクスに2の煮込み(シチュー)をかけて食べる。好みでアリッサを添えて。

※シトロンコンフィ(塩レモン)とアリッサのレシピは次回(8月23日)紹介予定です。

野菜と肉を炒め煮にしたところに、クスクスをのせる=竹内章雄撮影
このまま蓋をしてクスクスを蒸す。クスクスは下からの水蒸気で蒸される=竹内章雄撮影