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モンゴル遊牧民の伝統食 夏は「白」くて冬は「赤」とはこれいかに?

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
保存のため乾燥させたモンゴルのチーズ(荻野恭子さん提供)

◉ホーミーちゃんはお腹の中に

ゲルを訪ねると、生まれたばかりの仔羊をプレゼントされました。春から初夏にかけては、家畜の出産ラッシュなんですね。連れて帰るわけには行きませんから、「滞在中可愛がってね」という意味なのでしょう。モンゴルの歌唱法「ホーミー」にちなんで「ホーミーちゃん」(笑)と名前をつけ、首に目印のスカーフを巻くと愛着が湧いてきました。年甲斐もなくはしゃいだ私は、大草原で本気の追いかけっこ(笑)。でも、素早くて全然捕まらないの。立ち止まると、そーっと近寄ってきます。クリクリした目でこちらの様子を覗ってきたら、サッと抱きかかえてフワフワの毛を撫でる。すると、ペロペロと顔を舐めてきます。なんて可愛いんでしょう!

でもある朝、「いないなぁホーミーちゃん、一体どこにいったのかしら」って探していたら、お父さんが「あなたのお腹の中ですよ」って。なんと!昨晩夕食でたべちゃったのね……。あれは本当にショックな出来事でした。

◉乳製品、家畜の肉には旬がある

「一家族が一年間にさばいていい家畜の頭数は決まっているんだよ」 彼らにとって、家畜が、命と同じくらい大切なのだと改めて思いました。そしてそれは、生活の糧でもあるのです。家畜をさばくのは、自然の摂理では秋。モンゴルでは、夏は「白い食事(乳製品)」、冬は「赤い食事(肉)」といって、家畜と乳製品に旬がある。生まれたばかりの仔羊を夏に食べるなんて、通常では考えられないもてなしなのですよね。

家畜たちは、春夏の遊牧で栄養を蓄え、寒くなると家畜小屋に入れられます。すると、狭くてひしめき合っている中で愛が芽生えて交尾をするわけ。若者は交尾をして子供を作る。つまり、さばかれるのは年老いた家畜なのです。

◉大地を血で染めてはならない

「解体は、本来女性は見てはいけないそうですが、料理の研究を生業にしていまして、見せてもらえないでしょうか?」そうお願いしたところ、目の前でさばいて下さいました。

モンゴルにはチンギスハンの「大地を地で染めてはならない」という教えがあり、本当に綺麗に解体するの。お腹から、まずは毛皮の部分だけ切る。内臓は膜を切らなければ血は出ないの。膜の間から手を入れて、心臓を手できゅっとつかんで息の根を止め、頸動脈を切ると、ぐたっとなる。開いて、中の膜を切ると内臓が出てくるので、皮から骨を外していく。足は足、頭は頭。内臓も血も洗面器にかき出して、各部位ごとに処理します。わずか30分足らずで終了しました。

「男の子は10歳になったら家畜の一頭も解体できないと男じゃないんだよ」手際よくさばく父親の横には、短刀を握りしめた小さな男の子が立っていました。

「男の子は3〜5歳になったら馬に乗れないといけない」そうで、馬にくくりつけて羊を誘導する訓練をするのだとか(荻野恭子さん提供)

◉家畜の活用は、捨てるところなし!

さばいたあとは毛皮の活用はもちろん、肉端がこびりついた骨は、少しの塩で煮て出汁をとり、肉は小刀で剥がしてかじりついて食べます。解体した肉は干し肉にして春まで持たせるほか、マイナス30度の外気で冷凍して保存するの。

春夏には乳を使い、ヨーグルトやチーズ、バター、馬乳酒(アルコール分の低い乳酸菌健康飲料のようなもの)など、乳製品を作ります。それらが、「白い食事」と呼ばれる夏の食べ物。チーズも、固めてゲルの屋根などに干して水分を抜き、保存します。スープなどに入れるチーズには塩を、お菓子として食べるものには砂糖を少し入れます。こうして見てゆくと、実に捨てるところなく使い切って生きていることに、感動させらるのです。

(次回は、6月21日更新予定です)

チーズを干しているところ(荻野恭子さん提供)
干し終えたチーズ(荻野恭子さん提供)