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日本でもブームになった 塩レモンは、モロッコの保存食

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
マラケシュのスーク(市場)で見つけた塩レモン。丸くて味もまろやか=竹内章雄撮影

第7回 モロッコ編③ タジンやクスクスに欠かせない調味料が、日本でも少し前に大流行したシトロンコンフィ(塩レモン)、そして、アリッサです。アリッサは赤唐辛子と青唐辛子の2種あり、まるで柚子ごしょう感覚で作られているのです。モロッコ料理についての続編です。

◉旬に仕込む保存食、塩レモン

調味によく登場するのがシトロンコンフィ(塩レモン)ですが、これはモロッコの人たちの大切な保存食でもあります。塩レモンは数年前、日本でも静かなブームがありましたが、レモンを塩でつけるというシンプルな作り方ながら、時間を置くことでレモンの酸味と塩の旨味が混ざり合い、乳酸発酵してなんとも言えない味わいになります。

こういった保存食はスーク(市場)でもマーケットでも買えます。都市によって様子も色々です。

特に有名なスークはマラケシュ、そしてフェズです。フェズの旧市街メデイナは、文化遺産にも登録されており、世界最大のスーク(市場)がある場所。迷路のように張り巡らされた道を歩いていくと、特産品でもある足先のとがったバブーシュという靴を売る店、店の裏には材料となる皮の鞣し工場があってもの凄いにおい。かと思えば隣は八百屋、その隣は洋服屋…。肉屋も果物屋も食器や雑貨店も、様々なジャンルの店が、雑多に軒を連ねています。だから、スークは迷う迷う。そして独特な香りが面白いのです。モロッコ人の生活がよく解る楽しい場所です。

そんなスークをテクテク歩いていて、お目当のシトロンコンフィを見つけた時には嬉しかった!自家製を、おじさんが大きな樽に漬け込んでいました。 使っているレモンは、日本のレモンとは少し違い、苦味があまりなくて綺麗なオレンジがかった黄色。形もまん丸なのです。皮も柔らかく酸味もまろやかで、とてもおいしいんですよ。丸ごと漬けたり、4等分に切り込みを入れて塩を埋め込んで仕込みます。イスラムの国では、面識がない男女が話をすることはめったにないのですが、客人として色々と訊いて、よく観察した限りは、シンプルにレモンと塩をまぶしているだけでした。

この塩レモンもベルベル人の文化です。レモンはインドや中国南部が原産。それを、アラブの商人たちが地中海に持って行ったのでしょう。地中海一帯は温暖で育てやすく、最初は貴族の庭園の観賞用の植物でした。そうしてのちに、食用やコロンとして使われるようになったそうです。トルコにも塩レモンがありますが、塩湖の塩に、レモン汁をまぶした塩レモン(見た目は塩)を売っていますね。繋がっているのでしょうね。

スーク (市場)=荻野恭子さん提供

◉アリッサは、緑と赤。日本の柚子こしょうと同様、年に2回仕込む

タジンやクスクスは、このシトロンコンフィで煮込むことも多く、食べる時にはアリッサという唐辛子のペーストの調味料を添えるのですが、これもやはり、北アフリカ、先住民ベルベル人がもたらしたものです。

先日アリッサを見つけたのは、マラケシュの迷路のようなスーク(市場)の、漬け物屋でのことでした。おじさんに「量り売りで500g!」といって買うと、ポリ袋に入れてくれ、さらに3重に包んでくれました。「この人、結構優しくしてくれる!」そう思って、もう少し別のものも買おうときょろきょろしていると、「これもあるよ!」と緑色のアリッサを出してきたのです。「これは?!日本の柚子ごしょうのように、青唐辛子と赤唐辛子で作っているのね!」とピンときました。赤いほうはポピュラーですが、緑色は初めてでしたので、買うしかないと思いました。「これも500g欲しい!」と私。すると、塩レモンの浅漬けや古漬け、オリーブの実、ケッパー、きゅうりやキャベツ、玉ねぎのピクルス、後から後から店中の漬け物を出してきました。ちょうど帰国が間近でしたので、「おー、いまこんなにいっぱい発酵ものを持って飛行機に乗ったらどうなるのよ?」と思い、「ノンノンメルシーメルシー、フィンフィン」と言っても、その後もアラビア語で色々と言っていました。お金を払ってサッサと店を出ました。

アラブの人は何でも褒めると自分の奥さんまでもくれてしまう」という笑い話もあるくらいなんですよ。油断大敵でしょ?!それがまた、楽しいのです。

マラケシュのスークで購入したアリッサ2種 旬の時期においしさを閉じ込める=竹内章雄撮影

唐辛子の原産はメキシコ、レモンの原産はインドです。唐辛子はやはり、新大陸発見の16世紀のスペインやポルトガルの人が持ち帰ったものと言われていますが、モロッコからメキシコは大西洋を渡ってすぐですので、そんなに遠い距離ではないです。

モロッコは砂漠でありながら、食材も原産のものもあって大変豊かなので、同じ砂漠地帯とはいっても、食材があるときに保存食を仕込んでおかないと食べるのに困るモンゴルのような場所とは訳が違います。そんな環境で生まれた保存食の意味とは? まさに一番美味しい「旬」のものを「旬」の時期に残す、ということなのでしょう。それで、完熟唐辛子と青唐辛子のアリッサ、両方を作っているのでしょう。保存してでもおいしく食べたいという思いは同じ。そこに関しては日本とも思いが繋がっていて、どこの国も同じで、なんだかジーンときましたね。

*シトロンコンフィ(塩レモン)の作り方
レモン2個を縦十文字に切れ目を入れ、塩大さじ2を切れ目にまぶす。(薄切りにしても良い)。
保存容器に入れ、塩をまぶしたレモンを詰め、湯をひたひたに注いで漬ける。1月ほどで馴染む。

*アリッサ(ハリッサ)唐辛子ペーストの作り方
生の唐辛子100g、にんにく2かけはみじん切りにしてすり鉢で潰す。塩大さじ1〜2、クミンパウダー、コリアンダーパウダー各小さじ1/4を加えて混ぜ、保存ビンに入れる。オリーブオイル大さじ1〜2を加えてなじませる。