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創造的思考は、『マニュアル化』できる

オックスフォードの学び方 更新日: 公開日:

「世界大学ランキング」で3年連続トップの座に輝いたオックスフォード大学(以下、OXON)。世界最高学府の教育は、私たちが知る大学教育と何が違うのか。人生100年時代を豊かに生き抜くために必要な「創造力」を身につけるオックスフォード流の学び方を、同大学で日本人初の教育学博士号を取った岡田昭人氏(東京外国語大大学院教授)が紹介する。<第5回目/全6回>

【この連載の前の記事】

  1. 創造力とは、どこから生まれてくるのか
  2. 創造力を育むために、絶対につくるべき時間とは
  3. 人が必ず突き当たる、『やる気が出ないとき』の対処法
  4. オックスフォードの数学教師が、なぜ『不思議の国のアリス』を書けたのか


最近、ファストフード店だけではなく、さまざまな業界で接客やデータ管理など仕事の「マニュアル化」が進んでいます。マニュアルを作ることによって、個人が状況に即してどのように対応すべきかが明確になり、全体に統一性のある行動をとらせることができる点において、有効性が認められています。

では、「創造力」はマニュアル化できるのでしょうか。

英国の心理学者ワラスは創造的思考を4つの段階(準備・あたため・ひらめき・検証)に分けることができると主張しています。以下ではその理論に従ってあなたの部下や子どもを創造的な人物に育てるうえで役に立つ方法をご紹介します。

創造の「準備」につながる日常

まず、「準備」は文字通り、自身の中で創造的な思考の土台となる部分を養う段階です。日々の勉強や仕事の中で、それまでに身に付けた知識や技能を使ったり、過去の経験を活かしたりするなどして、試行錯誤しながら創造すること、また問題解決の糸口の発見に取り組んでいきます。

たとえば学生であれば、新しく覚えた公式を用いて、今までより高度な計算問題を解いたりすることや、ビジネスパーソンであれば、前回の営業でのミスを教訓に、より効果的に製品の魅力をアピールするために、新しいアプローチの提案方法を考えたりすることなどです。

このようなプロセスは真面目な学生や普通のビジネスパーソンであれば日常的に取り組んでいることで、目新しさがないように見えます。しかし、実はこれが自身の「創造力」のベースを養っていく上で大切な過程なのです。

iPS細胞を発見し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授も高校生に講演をした際、「1回成功するために、9回ぐらい失敗しないと幸運は来ない。若い皆さんには、いっぱい失敗してほしい」と述べているのです。失敗とそれに伴う試行錯誤が劇的な発明や飛躍の条件であることは多くの成功者の共通した認識です。

課題から離れることで発想を「あたためる」

次の「あたため」の段階は、試行錯誤を重ねる中で得られた経験を整理し、来るべき「創造」に備えて醸成していく過程といえるでしょう。

課題についてある程度の時間考え続けた後、あえてそれから離れ、しばらく頭を休める、全く別のことをして心を落ち着けるなどしましょう。そうすることで一度リフレッシュした所で、思わぬ発見がやってくるものです。

今取り組んでいる課題や仕事とは全く関わりがない行動をあえてとることにより、違った角度から「ひらめき」が浮かんでくることがあります。普段物事を考えている額縁を外すことが大切です。

たとえば営業マンなら、仕事を離れて何気なく店で買い物をする、レストランで食事をすれば、普段とは違って自分がお客様としてサービスを受ける立場になるわけですから、営業する側の立場で試行錯誤するのとは全く違う角度から問題を考え、商品やサービスをもっと良くする方法、あるいは売れない理由等を思いつくチャンスを得られる可能性があります。

ふとした瞬間につながる「ひらめき」

このような過程を経て、第三の「ひらめき」が生まれてきます。皆さんもこれまでに、大なり小なり自分自身が「我ながらすごい!」と思えるようなアイデアが浮かんだ経験はありませんか。そのときの状況を思い出してみてください。

突然グッドアイデアが浮かぶのは、仕事の真っ最中というよりは、通勤・移動時間や、一人で本や新聞を読んでいる時間にふと思い浮かんだというケースも少なからずあるのではないでしょうか。

私はスーパーなどで日常の食料品などを買い物しているときに「ひらめき」が生まれるときがあります。商品のパッケージデザイン、陳列の仕方、キャッチコピーなどが自然と目に入ってくるので、そうしたものが無意識の内に脳を刺激して新しいアイデアにつながることがあります。

先に述べた「散歩」も新たなひらめきを生み出すための一つの方法であると思います。

普段からの現状認識が正確な「検証」を生む

最後に「検証」の段階ですが、浮かんできたアイデアを、実際に課題解決のために役に立つものかどうかを確認することが必要になります。

また独創的な研究、新しい製品、サービス、プロジェクト案を思いついても、組織が持っているリソースや与えられた時間の範囲内で本当に実現可能なものなのか、誰に対してどの位役立つものなのか、またそれを現実の条件に即した形で実行するためにはどうすれば良いのかをよく検討しなければ、せっかくの創造的なアイデアに行き着いても役に立たず終わってしまいます。

この「検証」の作業の質を高めるためには、普段から自分の能力、所属する組織の環境、他者との競争的状況などを理解しておく必要があります。自分自身で思いついたアイデアと現実の間にあるギャップをいかにしてすり合わせられるのかが、結局、新しいプロジェクトを創り出したり、仕事の質を高めたりするために決定的に重要になるのです。

以上、創造的思考の4つの段階を紹介しましたが、いずれも現在あるさまざまな課題を解決したり、新しいものを生み出したりするためのステップとなることがお分かりいただけたのではないかと思います。

この他にも私は文房具の一つである付箋を上手に使って、創造力を高める時間管理のマニュアル化をしています。
そんなに難しいことではありません。まず色の違う付箋をいくつか用意し、縦横軸からなる簡単な表を作成します。縦軸は一日の時間、横軸は自分自身やパートナーなどの名前を書きます。縦軸(時間単位の軸)に沿って自分やパートナーの行動(勉強、仕事、プライベートなど)を色分けした付箋に記入し貼っていくのです。

こうしてでき上がった表から各自の行動全体を見ると、さまざまなことが見えてくるのです。「平日でも使える時間がある」「休日も仕事で家族との時間がなかなかとれていない」などが把握できます。

また付箋は貼り剝がしが自由にできるため、その日のさまざまな行動(食事、仕事、休息、外回りなど)の順番を組み換え、効率的な時間の使い方を工夫することが可能です。読者の皆さんも是非一日の中で「創造性」を生み出すための時間を工夫するようにしてください。




本書は『人生100年時代の教養が身に付く オックスフォードの学び方』(岡田 昭人〔著〕、朝日新聞出版)のchapter3「非連続の発想を実現する『創造力』」の転載である。