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天才モーツァルトは「父親の作品」 中野雄さんに聞く「音楽家の育ち方」

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6歳のとき、女帝マリア・テレジアから下賜された大礼服を着たモーツァルト ゲッティ/共同通信イメージズ

常人とは隔絶した能力を持つ「天才」はなぜ生じるのか。長年、音楽の世界に身を置きつつ考えてきました。

作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの天才性の証しとして多くの人が挙げるのは、その早熟ぶりです。5歳で作曲を始め、6歳で女帝マリア・テレジアに演奏を披露するなど、枚挙にいとまがありません。

実はクラシック音楽の世界では、モーツァルト以外にも「神童・天才伝説」は結構存在します。現代の指揮者・ピアニストのダニエル・バレンボイムは、5歳でピアノを始めて7歳でリサイタルを開催。モーツァルトより後の時代の作曲家・メンデルスゾーンやビゼーが17歳の時に書いた作品は、同時期のモーツァルトの作品の水準を上回っています。

天賦の才では上だったかもしれない彼らよりも、モーツァルトがはるかに抜きんでているのはなぜか。

モーツァルトは「父親の作品」

私は、モーツァルトを「父親レオポルドが心血を注いだ作品」と考えています。レオポルドは息子の中に尋常ではない音楽の才能を見いだし、その才能に磨きをかけ、宮廷社会に売り出すために、5歳の頃から欧州中を旅させた。大抵は「親バカ」で終わってしまいますが、レオポルドの目は正しかったのです。

幼い頃から公衆の前で演奏して場数を踏んだことと、旅先で受けた一流の音楽家たちの教えが、モーツァルトの才能を開花させる上で決定的な役割を果たした。レオポルド自身、バイオリンの有名な教則本を執筆するなど、教師として優れていたことも見逃せません。才能の56割は遺伝的資質で決まるかもしれませんが、「環境」と「運」という要素を抜きに天才を語るのは不可能です。

そして、モーツァルトは25歳で父親と決別し、ウィーンで独立した作曲家として活動を始めます。この時点を境に、モーツァルトの音楽は別次元の冴えを見せ始める。「師からの決別と自立」という決断も、才能の開花には必要です。

「何を学ぶか」を自分で知る

政治思想史学者で、クラシック音楽への造詣(ぞうけい)が深かった丸山眞男は、モーツァルトの最大の資質を、卓越した「自習の能力」と見抜いていました。

20世紀の大指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンも若い頃、名指揮者トスカニーニの演奏に衝撃を受け、自宅から片道200キロの距離を自転車で走破してトスカニーニのリハーサル会場に忍び込み、パイプオルガンの中にこもって演奏の極意を学ぼうとした。人から直接教わるのではなく、「この人から何を学ぶべきか」を自ら直観し、それを会得できる「自習能力」こそが、「一流」と「二流以下」を分ける差なのです。

私自身、若手の演奏家とベテランの大家がコンサートで共演する機会を作ろうと努力しています。演奏会という真剣勝負の場で「本物」と対峙(たいじ)することで、突然資質を大きく開花させる若手が現実に存在するからです。人との出会いを自ら生かせるかどうかも、「天才に育つ」条件の一つでしょう。(聞き手・太田啓之)

中野雄さん

 中野雄(なかの・たけし)1931年生まれ。東京大学法学部で丸山眞男に師事し、日本開発銀行を経てオーディオメーカー・ケンウッド代表取締役、ケンウッドUSA会長を歴任。現在は音楽プロデューサーとして多くのコンサートやCDの制作に携わる。