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「若き天才候補」姫岡優介が挑む世界がわかる 研究テーマを本人が解説

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コペンハーゲンでの姫岡優介 Photo: Ota Hiroyuki
コペンハーゲンでの姫岡優介 Photo: Ota Hiroyuki

GLOBE6月号の記事 「若き天才候補はこうして生まれた 子育てで母が息子に伝えたことは」

細胞の休眠は「耐え忍ぶ時間」     

細菌は栄養状態や温度などの条件さえ整えば、爆発的に増殖します。仮に一つの細菌が20分後に二つに分裂し、それぞれが20分後に再分裂する、というねずみ算方式で増え続けた場合、一匹の微生物が地球と同じ重さになるまでにかかる時間はわずか2日程度です。

しかし、現実には細菌が利用できる栄養分には限りがあります。栄養分が不足した場合、細菌は増殖を停止し、最低限のエネルギー消費で耐え忍ぶ「休眠」モードへと移行します。栄養がなくなったからといってすぐに全滅してしまうと、子孫を残すことができません。「休眠」の能力は「種の存続」という観点からも、非常に重要な機能と言えます。

細菌の増殖については、すでに理論的なモデルがいくつも発表されていますが、「休眠」モードについては未解明のままでした。私が、恩師である東京大学生物普遍性研究機構・機構長の金子邦彦教授と共に目指したのは、細菌の「増殖モード」「休眠モード」の双方をうまく説明できる理論的モデルを作り上げることでした。

いつ増殖から休眠に移る?をモデル化

専門的な説明は省略しますが、私たちのモデルは、細菌の増殖モードから休眠モードへの移行を、「細胞に必要な物質を合成するたんぱく質(リボソーム)の量(A)」と「たんぱく質の合成を妨げる物質の量(B)」という二つの要素から説明しています。Aに対するBの割合が増えると、細菌の活動は鈍り、休眠モードに入る、というわけです。

私たちのモデルによれば、「細菌が休眠に入っていた時間の平方根(たとえば、2時間であれば√2≒1.414時間)」と、「細菌が休眠後、増殖活動を本格的に再開するまでにかかる時間」との間には、比例関係がなりたちます。
このことは、実際の実験結果とよく一致しており、モデルの正しさを示す重要な証拠の一つと言えるでしょう。

実は、「休眠」モードは、バクテリアのような単細胞生物だけに見られるものではありません。人間をはじめとする多細胞生物のさまざまな細胞も、大半が「本来のポテンシャルよりも分裂の能力を大幅に抑制・あるいは完全休止」することで、生体内のバランスを維持してます。

休眠モードがあるから生物は進化した

たとえば、人体の神経細胞は、誕生後はほとんど分裂しません。仮に神経細胞がどんどん分裂したら、自意識を形作る脳内の神経細胞ネットワークはむちゃくちゃになり、私たちの自我は崩壊してしまうし、脳や神経系自体も機能しなくなって死んでしまうでしょう。

逆に言えば、生命が「休眠モード」に入る能力を獲得したからこそ、細菌のような単細胞生物から複雑な多細胞生物へと進化することができた、と考えられます。

「細胞が眠る=分裂を自己抑制する」ことは、生命現象の中でも根本的な機能の一つであり、それを理論化できたことは、「生命現象の謎」の解明につながる大きな一歩と言えると考えています。

さらに言えば、「癌」の一部は、そうした「細胞の自己抑制」がうまくいかなくなり、「ブレーキが効かない爆発的な自己増殖を始めた状態」という仮説も成り立つかもしれません。「細胞の休眠」についてさらに精緻な理論化を進めることで、こうした一部の「癌」を、従来とはまったく別の観点から理解できると考えています。