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より高い生産性、創造性のために 出口治明氏に聞く「日本に必要な働き方」

LifeStyle 更新日: 公開日:
出口治明さん=東京・丸の内の立命館大学東京キャンパス、市川美亜子撮影

戦後の復興、高度成長期、バブル景気。豊かになるためにがむしゃらに働き続け、「休みベタ」と言われてきた日本の人たち。だが、いま、より生産性、創造性の高い働き方のためにこそ、「休み方」を変える節目に来ているのではないか。古今東西の歴史に詳しく、「ライフネット生命」創業者として働き方に関する提言も数多くしてきた立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんに、これからの日本に必要な働き方について話を聞いた。

人間は動物なので、休まなければ何もできません。集中力は養われず、仕事も、読書も、遊びもできない。休むことは、人間にとって何かをするためのマストなインフラだと思います。そのことを人間は古代からよく知っていました。

「休日」の始まりは、古代の人間が自然発生的につくった「インターバル規制」にほかなりません。紀元前にユダヤ教が金曜の日没から土曜の日没までを安息日にしたのが始まりですが、キリスト教もイスラム教も、洋の東西を問わず「人間は休まなあかんで」という経験論を理屈づけるかたちで「休日」をつくってきたのです。

それが、18世紀後半に英国で産業革命が起き、働けば働くほどもうかる時代になった。人々はみさかいなく休日を無視して働きましたが、しばらくすると労働者がどんどん倒れ、長期的に見ると労働力の再生産ができないことがわかってきた。これじゃまずいと英国で工場法が制定され、伝統的な「休日」の概念と結びついて、世界に伝播していきました。

出口治明さん=東京・丸の内の立命館大学東京キャンパス

日本で「日曜日が休日、土曜日が正午まで(半ドン)」とする太政官達が出たのは、1876年(明治9年)のこと。江戸時代の「でっち奉公」では休日もなく、働きながら仕事を教わり、合間に休む「仕事=生活=勉強」だったのですが、産業革命で生まれた工場モデルが日本にも導入され、均一な工場労働者を大量に育てるために仕事場と家、学校に切り離されていったのです。休日はできましたが、働き方も一変。画一的なプロセスで均一な人材をひたすら養成し、長時間働かせる工場モデルは、その後も生き続け、戦後の復興を支えました。

角野貴之撮影

しかし、平成が終わろうとしている今も、日本はこの工場モデルに固執し続け、世界的な競争力を失っています。世界のトップ企業GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を見てください。どれも考え、創造する「頭を使う仕事」でしょう。そういう仕事では、「休むこと」がめちゃめちゃ大事になってくる。本当に集中して何かを生み出すには、1日に連続2時間×3コマが限度。長時間労働と画一的な休日を繰り返すのではなく、多様性を重んじながら、それぞれが「集中して頭を使い、働き、しっかり休み、学ぶ」。そういう社会をつくらなければ、日本はどんどん競争力を失っていくでしょう。(構成・大室一也)

でぐち・はるあき 1948年生まれ。日本生命で経営企画を担当した後、ライフネット生命を創業。今年1月から立命館アジア太平洋大学(APU)学長。『「全世界史」講義(Ⅰ)(Ⅱ)』(新潮社)など歴史に関する著書が多数ある。

休みの反対は『集中』。スポーツ、読書、仕事。真剣にするにはエネルギーがいる――出口治明