【この連載の前の記事】
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自分で創造したアイデアが実用化されても、一年後には次のものにとって代わられ、すぐに陳腐化してしまうのが現代の産業社会です。常に何かを生み出していくためには「創造力」に持続性がなければならないでしょう。
持続可能な創造力を持つためにはどうすれば良いのでしょうか。
日本で大学を卒業してすぐ私は修士号を取得するためにニューヨークに渡りました。その後にOXONに入学し博士号を取得するまで合計して約7年近くかかりました。
海外の一流大学には自分のキャリアを中断し、高額の学費を工面して世界中から集まるエリートたちが大勢います。日本の大学を出た当時の私は、その中でも最年少グループに入っていたこともあり、彼らと切磋琢磨し、かつ協力し合ったつながりが、厳しい学業生活に耐えうる何にも代えがたい財産だったのです。
OXONのチュートリアルの経験や、さまざまなバックグラウンドを持つ同窓生たちとの国を超えた交流により、私は創造力を身に付け、持続させることができたのです。
①常識や固定観念にしばられない
116ページでも触れましたが、新鮮かつ役に立つものや考えを世の中に出していくためには、常識や伝統にとらわれない発想力が大切なのは言うまでもありません。常識や伝統は自身の生まれ育った社会や文化、自身が所属する組織の風土に深く根付いて無意識に考えや行動様式を制約し、「創造力」を持続するうえで最大の障壁となります。
ですから、日頃から外の世界を見る機会を多く作るべきだと思います。学生なら、なるべく早い時期に海外旅行を経験し、経済的・時間的余裕があれば海外で生活してみるのが良いでしょう。
海外の経験が早いほど、見聞を広げるキャパシティーが大きいと思います。社会人であれば、異なる業界の人達と積極的に交流して友達をつくる、また休みを利用して旅行に行くことも普段とは全く違う世界を知る機会となるのでお勧めします。
②世の中の動きに敏感になる
世の中では「Who(だれ)」「What(なに)」を問題としているのか、そして「How(どのように)」して対応しているのか、そういった時代のニーズを把握することが、時勢にあった創造性の育成に役に立つでしょう。
私は仕事柄、必然的に研究書や論文を読むのに多くの時間を費やしてしまいます。さすがに専門分野である教育のことについては多少の知識を持っていると思うのですが、それ以外のことになると何も知らない「専門バカ」にならないように注意しています。
そのため、私は毎日2種類の大手会社の新聞を読み比べるようにしています。またこの他にも、インターネットで配信されるニュース、海外メディアの情報など、可能な限り多様な情報ソースに触れるようにしています。
優れたアイデアを創造することは、実は大衆動向や社会全体の動きに敏感になり、常に関心を持っているということと表裏であると考えています。
③自分のやりたいことをはっきりさせ、周りに公表する
「好きこそものの上手なれ」という諺があります。興味があるものには時間が経つのも忘れ、没頭してしまいます。自分自身が本当にやりたいことを見つけ、実際に1年先、3年先、10年先の具体的なビジョンを計画します。そしてそれを家族や友人などに公言することも大切です。自分のしたいことを周りの人々が分かってくれていることは応援を得ることもあり持続力に繫がるのです。
④自分の時間を大切にする、健康管理に気を付ける
自分の時間を大切にすることは本書で繰り返し述べて来ました。過去に蓄積してきた問題意識を実際に応用してみることや、普段とは異なる視点も取り入れて解決策や新しいアイデアを生み出すためには、一人で過ごせる落ち着いた時間が必要です。
また日頃の健康管理も創造性を持続させることに繫がるでしょう。歳を重ねて組織で責任あるポジションに就くと、忙しさのあまり自分の健康状態に疎くなってきます。
早寝早起き、三食をきっちりとる、身の回りを清潔に保つ、適度な運動をする、など昔からよく耳にする基本的な健康管理を怠らないことです。私は健康維持のため「頭冷足熱」(頭部は冷やして、足部は温める)を心掛けています。ですが、疲労がたまっているときは思い切って休暇をとり、ゆっくりと静養するようにしています。
⑤自分を称え、「ご褒美」を与える
到達目標が高く、時間を要するものであればあるほど、その実現化には持続可能な創造力が必要となります。結果が出るまでに労力がかかるようなプロジェクトや研究は、達成するまでにいくつかの「峠」を設けることです。そして各「峠」にたどり着いた時点で、自分をおおいに褒めてください。またご褒美として、旅行にでかける、趣味を楽しむ、買い物をするなど、自分を喜ばせることが、次の創造に向けた活力になります。
ただ、思う存分ご褒美を堪能した後は、また次の目標に向けてきちっとスケジュールを組んでください。ご褒美に満足してしまって、そこで「燃え尽きて」しまわないためです。
以上述べたことは、私自身の実際の経験に基づいています。ニューヨークに留学した頃はまだ若く、マンハッタンのカフェで将来の夢に向かって熱い思いを巡らせていました。
自分自身が理想とする各年齢での到達目標をノートに書き出し、ちぎっては部屋の壁などに貼ることもありました。時にそれを声に出して読み上げ自分を鼓舞していたのです。今思えばそうした行為も効果があったと思われます。驚かれるかもしれませんが、この歳になった今でも一人でこっそり自分の目標を手帳に書き出し、時折音読しています。
本書は『人生100年時代の教養が身に付く オックスフォードの学び方』(岡田 昭人〔著〕、朝日新聞出版)のchapter3「非連続の発想を実現する『創造力』」の転載である。