「創造力」は一体どこから生まれてくるのでしょうか。創造性をめぐる議論は脳生理学などの最先端科学分野で盛んに行われていますし、またそれは哲学や教育学でも取り上げられることがよくあるトピックスでもあります。
遠い昔からOXONは歴史に名を残すような天才や偉人を多く輩出しています。
例をあげると枚挙にいとまがありませんが、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作『指輪物語』の著者J・R・R・トールキン、「驚嘆的博士」との異名をとる哲学者のロジャー・ベーコン、経済学の父と呼ばれるアダム・スミス、「鉄の女」政治家マーガレット・サッチャー、理論物理学者のスティーヴン・ホーキングなどもOXONの出身です。
OXONの教育では、どのような事実であれ、まず疑ってみること、批判精神を持つことの大切さを教えます。チュートリアルのときに指導教授が「日本人の学生はまじめで優れているが、現実に疑いを持って批判的な観点から分析することが苦手である」、と言ったことがあります。
つまり、OXONでは疑いや批判力を持たない秀才よりも、多少成績が悪くても批判力を持ち、独創的な考え方を持つ人物が評価されるのです。OXONに関する文献などを読んでいて気付くのは、歴史に名を残しているような人々はそのような性質を兼ね備えているのです。疑いや批判を持たない日本の秀才のように先生の話をよく聞いて試験で良い成績をとるのとは違うのです。
実のところ、創造力のある人になるためには、知識を豊富に持っているだけでは十分ではないのです。つまり最初からいろいろなことを知っていなくてもいい、たとえ「0」であってもかまわないのです。
肝心なことはさまざまなことに興味を持ち、果敢に行動する習慣を身に付けることです。その上でさまざまな情報を収集・分析し、思考を整理しながら、論理的に考えるという基本のプロセスを形成していくことです。
こうした基本を身に付けることを通して、新たな関心や発見が生まれ次第に創造力へと繫がっていくのです。
創造性は言語化して伝えることが必要
創造性を発揮することは、見方を変えれば、多くの人が共有している「常識」を打ち破り、ほとんどの人が共感してくれないことを考え出し、それを言語化して、周りの人々に伝える作業に他なりません。
感覚や価値観は人によって違うもので、究極的には分かり合えないものです。
「何もしなければ自分の考えは相手に伝わらない」という意識を持ち、筋道を立てて周りに伝えていく過程で思考が整理され、新たな発想を生み出すのです。
このプロセスの中で一見関係ないように見えていた問題が思わぬところでつながっていたりすることが分かったり、膨大な情報の中に隠れているきらりと光る新しい創造の小さな糸口を発見するのです。
行き詰まったらやり方を変えてみる
学業であれ、ビジネスであれ、いつも同じやり方が通用するわけではありません。その時の状況によって、さまざまな対応が求められるのですが、人は自分の慣れたやり方に固執するあまり、失敗してしまう傾向があります。このようなことが続いてしまうと、新たな創造性の芽を摘むことになりかねないでしょう。
インド独立の父、マハトマ・ガンジーは「世の中に変化を望むのならば、君自身がその変化にならなければいけません」という言葉を残しています。ビジネスパーソンとして「変化」を巻き起こすような人物になりたいのであれば、自分自身を変えることを通じて新しい人間性を創造できるかについて話し合う機会を設けることから始めましょう。
また、自分の考え方の「クセ(傾向)」を知ることも必要でしょう。いつも楽観的に物を見る人、反対に悲観的に見てしまう人、人には考え方に一種のクセがあるのです。
たとえば、天気が良い日であっても「晴れて最高」と思う人もいれば「日差しがきつい」と嫌がる人もいます。
実際に起こった「事実」とそれを解釈する「クセ」を分けて考えてみましょう。「天気の良い日」はすべての人にとって事実ですが、その解釈に自分の考え方のクセが入り過ぎると、物の本質を見失うこともあるからです。
考え方を変えたり、クセを理解したりするためには、普段は話さない相手と話してみる、読まない分野の本を手に取ってみる、新たな習い事を始めてみる、同じ仕事でもやり方を変えてみる。これらは、創造力を養ううえでも重要です。
創造力を養う身近な方法
OXONでは専門領域にかかわらず、教育と学習の中で次のような基本的姿勢が身に付きます。
①情報を一元化した「ストック」ノートを作成する
大量の情報を整理せずに蓄積しても利活用はできません。思いついたことや印象に残った文章などを一冊のノートに集約するのです。現在では電子機器が発達していますが、あえてアナログ的にノートを常に手元に置いておき、いつでも書き込めるようにする。
このような場合OXON人は「青色」のボールペンを使用することがよくあります。「青色」は思考に冷静さを与えると言われ、創造性が増すと考えられるからです。
②とりあえず書き出し、人に説明してみる
頭の中で考えているだけでは、ただ単に「考えている気になっている」に過ぎない場合があります。考えていることを書き出し、他者に分かるように説明する訓練をします。書き出すことで、アイデアを客観視することができ、かつ人に語ることで自分の考えが整理され、その過程で新たなアイデアが生まれるのです。
③区切りのいいところではなく、「+α」で終わる
通常仕事や作業は「区切りのいいところ」で終わることが普通です。しかし、創造性を高めるために、アイデアのまとめなどは「区切りのいいところ」で終わってはいけません。なぜなら、そこで満足してしまい、思考がストップしてしまうことがあるからです。
新しい発想を書きまとめる際には結論で締めくくるのではなく、その後、どのような展開が予測されるか、どのような部分が欠如していたのか、「+α」として書き留めておくことが重要です。
「+α」を書き込むことによって、次のアイデア出しのときに一歩進んだところから開始することができます。研究論文では最後の部分で「今後の展望」を書くことがよくあるのは、こうした効用があるためです。
④「コピー・アンド・ペースト」は創造性の邪魔になる
たまに、研究者による論文の「コピー・アンド・ペースト(コピペ)」が問題になることがあります。これはアカデミー界だけではなく、ビジネスの世界でも許されざる行為です。
OXONでは教授や学生に対して、インターネットや関連文献を引用することをしないで、そのまま自分が書いたようにすることを厳しく罰する、つまりプレジャリズム対策が徹底されており、詳細のガイドラインが存在しています。これに違反した者は、辞職・退学措置になることもあるのです。
新しい創造は、自分自身の頭で考えてこそ「オリジナル」として評価されるのであって、他の人が書いたものや作成したものを、盗用するものではありません。コピペを繰り返していると、そのうち自分で考えて、文字化することができなくなってきます。
もし他者が書いたものなどを自分のオリジナルの創造のために使いたい場合は、必ず「○○(誰)による□□(本や作品、インターネットアドレス等)からの引用」という具合に「ノートテイキング」しておくことです。
こうすることによって、後でその文書がどこに記載されていたのかがすぐに分かりますし、またどうしても他者の文章などを使いたいときは「 」をつけて、引用元を明記することです。
「創造力」というと、なにかとても難しくて自分にはできない、と思われるかもしれませんが、創造力は日常の簡単な、それもすでに何気なく行っている行為から鍛えることができるのです。
本書は『人生100年時代の教養が身に付く オックスフォードの学び方』(岡田 昭人〔著〕、朝日新聞出版)のchapter3「非連続の発想を実現する『創造力』」の転載である。