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「必要なのは、次の流れを創る人」 MITメディアラボ・石井裕氏の「天才論」

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磁場に引き寄せられる逸材たち

「天才」をあまた輩出したイタリア・ルネサンス期。代表格のレオナルド・ダビンチ(14521519)は、メディチ家などが支援するフィレンツェの「工房」で、ボッティチェリら異才と競い合い、多彩な才能を花開かせた。

そんな「ダビンチ工房」と類似点が多いのが、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の「メディアラボ」だ。

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MITメディアラボ Photo: Tannai Atsuko

1985年の創設以来、キンドルなどに使われるEインク、ウェアラブルコンピューターなど画期的な発明を続々と世に送り出し、産業界から強力な資金援助を得ている。

ラボの客員教授を務めた慶応大学教授、中村伊知哉(57)は言う。「ラボが一つの磁場を構成し、とっぴな発想で何かをつくり出そうとする人たちが引き寄せられてくる」

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MITのグレート・ドーム Photo: Tannai Atsuko

「天才」が才能を開花させるのに適した環境とは何か。米東海岸ケンブリッジで4月、ラボ副所長の石井裕(62)に尋ねると、即座に否定された。

「スタジオとかアトリエがあれば、天才が生まれるわけではありません」

未来図を描けるか

石井はそもそも、「天才」という分類に違和感を抱くという。「優秀な人びとが切磋琢磨し、お互いに批判して鍛え合いながらアイデアや理念を研ぎ澄ませていく。それがやがて、人びとが天才と呼ぶ領域に達するのではないでしょうか」

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MITメディアラボ副所長の石井裕 Photo: Tannai Atsuko

ラボには世界中から「逸材」が集う。手で触れられるデジタル情報「タンジブル・ビット」の研究で世界に知られる石井の研究室にも応募が殺到するが、面接試験などでふるいにかけられ、採用は毎年23人。競争率は100倍にもなるという。

いったい、どんな資質が求められているのか。

「独創的な発想ができ、きちんとアイデアを形にすることができ、さらにアート、デザイン、サイエンス、テクノロジー、どの分野でも楽しみながら異文化コミュニケーションできることです」と、石井。

そして、そんな人材を育むには、異文化に身を投じて異なった考えを持つ者と議論し、自らの考えを鍛えていくこと、すなわち「他流試合」が大切だ、と説く。

「正解のある問題を人より速く解くことだけにたけた人間は、正解のない問いを前に無力になる」

人工知能(AI)の時代。テクノロジーの進歩で生活様式は変わり、人びとは時代のうねりを肌で感じている。そんな時代と人材の関係を、石井はこう見る。

「新しい地殻変動の波にのまれるのではなく、自ら変化を起こして次の流れを創り出していく。そうした次の時代をつくるためのディスラプティブ(破壊的)なイノベーター(革新者)は必要でしょう。ただ、それを天才と呼ぶ必要はないと思う。いま必要なのは、オリジナル・ビジョン(未来図)を描けるビジョナリーです」

一方、ラボの学習研究部門の教授、ミッチェル・レズニック(61)も、「創造性」の重要性を説く。

「世界の変化はかつてなく早い。子どもたちは不確定で予測できない新たな状況に常に対処していかなければならず、創造的に考え行動することが、これまで以上に重要になっている」

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「ライフロング・キンダーガーテン」著者のレズニック Photo: Tannai Atsuko

彼の研究室は、「スクラッチ」と呼ばれる子どもでも使える簡単なプログラミング言語を開発。世界中で数百万人の子どもや教育者に使われている。

将棋や碁の世界にはしばしば、「天才」が登場する。が、そうした「天才」が世界にブレークスルーを起こすわけではない。では、社会を変えるような、創造性には何が必要なのか?

レズニックはこう答えた。「最も大切だと思うのは、どうしたら各自が持ちうる創造性を十分に発揮できる機会を与えられるか、だ。創造性は、それぞれの生活や周りの人たちに、変化をもたらすものでいい。もしかしたらその中から、ブレークスルーを起こす人が出てくるかもしれない。でも、より大事なのは、みんなに機会を与えることです」

■MITメディアラボ

1985年、初代所長を務めたニコラス・ネグロポンテがMIT 建築学部に、「人工知能の父」と呼ばれたマービン・ミンスキーら著名教授らと設立。途上国向けの100ドルパソコン、デジタル制御が可能な電気自動車などを次々と開発している。学問の縦割りを廃し、デザインと芸術、科学と工学を一体化。民間企業が主なスポンサーとなって研究を支え、研究の成果物をスポンサーは無償で利用する権利をもつシステムがある。