1. HOME
  2. World Now
  3. 「辺野古移設で抑止力維持」政府説明のおかしさ

「辺野古移設で抑止力維持」政府説明のおかしさ

ミリタリーリポート@アメリカ
埋め立てが進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=2019年1月13日、沖縄県名護市、朝日新聞社機から、金子淳撮影
埋め立てが進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=2019年1月13日、沖縄県名護市、朝日新聞社機から、金子淳撮影

なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する①海兵隊を解剖する

なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する②海兵隊が考える「沖縄駐留の必要性とは」

なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する③軍事的合理性から考えた、沖縄駐留への疑問の声

なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する④抑止力は沖縄の海兵隊でなく空軍だ、と言えるこれだけの理由

上記の連載記事では、アメリカ海兵隊の沖縄駐留に関する軍事的意義について概念的な議論を紹介し、普天間航空基地の辺野古への移設といった具体的問題には触れなかった。しかし、アメリカ海兵隊関係者、とりわけ沖縄の状況を熟知する前線司令部に近い将校たちや研究者らにも、辺野古新施設建設に疑義を呈する人が少なくない。

■抑止力は間違いなく低下する

日本政府は繰り返し「普天間基地を辺野古へ移設することにより抑止力が維持される」と説明するが、これは不誠実な言説とみなさざるを得ない。「抑止力が維持される」ということは、少なくとも「現状より抑止効果が低下しない」ことを意味する。しかし、普天間航空基地と計画されている辺野古新施設を比べると、明らかに「現状より抑止効果が低下する」と考えられているからだ。もっとも、上記連載で紹介した議論のように、沖縄のアメリカ海兵隊がそもそも抑止力になっているかについても議論はあるのだが、今回は何らかの抑止効果を発揮していることを前提とする。

抑止力が減少する最大の理由は、滑走路が大幅に短くなってしまうからである。現在海兵隊が使用している普天間航空基地の滑走路は2740メートルだが、辺野古に新設される滑走路は1200メートル(オーバーランを加えると1800メートル)しかないのだ。

普天間の場合、海兵隊が使用している全ての航空機(F/A-18戦闘機、AV-8B垂直離着陸(VTOL)戦闘機、F-35B短距離離陸垂直着陸(STOVL)戦闘機、EA-6B電子戦機、KC-130空中給油/輸送機、MV-22ティルトローター中型輸送機など)の発着が可能だ。

辺野古に予定されている滑走路の場合でも、F-35BやKC-130の運用は理論的には可能だ。だが安全性の観点から、実際には戦闘機や輸送機などの固定翼機の運用は避けられることとなり、現実的にはヘリコプターとMV-22オスプレイだけを運用するための大型ヘリポートという位置付けになってしまう。

したがって、普天間から辺野古に移ることは、運用可能な航空機が減ることを意味し、本コラム連載で説明したような海兵空地任務部隊(MAGTF)の原理を持ち出すまでもなく、一般常識的に考えても沖縄に駐留する海兵隊の戦力が低下することは容易に想像がつく。

ミリタリーリポート_辺野古_2
米軍普天間飛行場。海兵隊に必要な固定翼機の大半は、移設予定の辺野古では使えなくなるとみられている(写真:米海兵隊)

それだけではない。普天間航空基地は朝鮮半島有事をはじめとする東アジアでの軍事的危機に際し、国連軍が使用する航空基地に指定されている。そのため、アメリカ海兵隊機だけではなく、国連軍に参加する各国の戦闘機、爆撃機、大型輸送機、哨戒機、早期警戒機や大型旅客機などありとあらゆる航空機の発着が可能でなければならない。ところが、辺野古に移設した場合、滑走路が短く制約を受けるため、国連軍が使用することは不可能になる。すなわち、辺野古への移転で国連軍の航空基地が一つ、日本から消え去ることになるのだ。

以上のように、滑走路の問題一つを取り上げても、普天間航空基地の辺野古への移設によって、海兵隊の戦力が削がれることは明白だ。そのことを知る人ならば誰でも、日本政府の「抑止力を維持するために移設する」という説明には違和感を覚えざるを得ないのである。

■解決策は唯一ではない

日本政府による「辺野古移設は唯一の解決策」という“お題目”にも、大きな疑問符が付けられている。すなわち海兵隊関係者も辺野古以外の選択肢はある、と見ているのだ。例えば元在日米海兵隊基地外交政策部次長のロバート・エルドリッヂ博士は、沖縄県うるま市の勝連半島沖合に人工島を造成する「勝連半島案」を提示している。かつて議論された「嘉手納基地統合案」について再検討の余地はあるとみる人もいる。沖縄県外になるが、岩国基地への移転案なども海兵隊関係者やシンクタンク研究者の中には存在している。

しかし、日本政府はそれらの軍事的視点から練られた代替案を検討する努力を放棄し、政治的に辺野古への移設が唯一の解決策と結論づけてしまった。太平洋海兵隊司令部のような直接当事者の米軍機関と違い、沖縄や日本事情に疎いワシントンDCの海兵隊総司令部やペンタゴン、それに国務省やホワイトハウスも、日本政府の言う「唯一の解決策」をそのまま受け取り、現場に近い海兵隊関係者や研究者らの軍事的分析に基づいた代替案に耳を塞いでしまっている。

その結果、日米両政府にとって辺野古移転こそが「唯一の解決策」となってしまっているのだ。今回はそれら代替案の軍事的説明内容には触れないが、いずれ機会を見つけて代替案を紹介したい。

上記のように日本政府が主張する「抑止力を維持する」ならびに「唯一の解決策」という説明は不誠実である。

それにもかかわらず、辺野古移設を強行しようとしているのは、普天間移設問題を解決しないとアメリカ海兵隊やアメリカ軍、そしてアメリカ政府の怒りを買い、日本政府が頼みの綱とする日米同盟が危機に瀕すると考えるからだろうか?

実際のところ、上記のような疑問点を指摘する海兵隊関係者たちにとって、辺野古に誕生するかもしれない新施設は「誕生しないよりはマシかもしれない」といった程度のものであることを、日本政府は再認識すべきである。