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なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する③

ミリタリーリポート@アメリカ
米海軍のLCACで金武ブルービーチに上陸する第31海兵遠征隊(提供:米海兵隊)
米海軍のLCACで金武ブルービーチに上陸する第31海兵遠征隊(提供:米海兵隊)

 【これまでの連載】

①海兵隊を解剖する

②海兵隊が考える「沖縄駐留の必要性とは」

 

しかし、普天間航空基地移設をはじめとする沖縄基地問題は高度な政治問題となり、ホワイトハウスや連邦議会のコントロールに服さねばならない軍事組織が公に意見を差し挟む問題ではなくなっている。そのため前回紹介したような「存在意義」は別として、沖縄の海兵隊基地存続に賛成する意見も反対する意見も、とりわけ存続を疑問視する意見に公的な場で触れることは殆どない。 

とはいえ、純軍事的議論に限定して、沖縄の米海兵隊駐留に疑義を呈する議論はあるにはある。それらを一言で言えば「海兵隊が沖縄に駐留することで、海兵隊自身が誇る柔軟性や機動性などを大きく損なう結果になっているのではなかろうか?」といった疑問だ。

以下本稿では、米軍関係者から漏れ聞こえてくる「在沖縄海兵隊の現状に関する疑義」のうちのいくつかを要約してみたい(ただし、それらは筆者の意見とは無関係である)。 

■疑義① MAGTFの理想に反する在沖縄海兵隊の配置状況

ミリタリーリポート_沖縄海兵隊3_1
岩国基地の海兵隊F-35B戦闘攻撃機とKC-130J空中給油機(提供:米海兵隊)

米海兵隊が独自に生み出した戦闘組織構造のMAGTFは、司令部部隊、陸上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊のそれぞれが、出動事案に応じて必要な内容と規模を変化させて作戦部隊を編成することが最大の特徴だ。したがって、MAGTFを構成する各要素の本拠地はできる限り同じ場所にある方が、緊急出動部隊の編成や、日常訓練、またいかなる組織にも欠かせない構成員間の相互理解の増進にも好都合である。

このような視点からすると、在沖縄海兵隊の配置状況は、極めて条件が悪いと言わざるを得ない。

たとえばカリフォルニア州キャンプ・ペンドルトン基地に司令部を置くMAGTF(第1海兵遠征軍、第1海兵遠征旅団、第11海兵遠征隊、第13海兵遠征隊、第15海兵遠征隊)の場合、それぞれの司令部部隊、陸上戦闘部隊、兵站戦闘部隊の主力、それに航空戦闘部隊の一部が同基地を本拠地にしている。

航空戦闘部隊の主力と兵站戦闘部隊の一部は同基地から30kmほど離れたミラマー航空基地を本拠地とする。25km四方以上もある広大なキャンプ・ペンドルトン基地では、水陸両用兵員輸送車による上陸訓練、戦車や軽装甲車の機動訓練、砲撃訓練、航空機からの爆撃訓練など、様々な訓練が実施できる。海兵隊と行動を共にする海軍の揚陸用ホバークラフト部隊も基地内を本拠地としている。 

アメリカ東海岸ノースカロライナ州に配置されているMAGTF(第2海兵遠征軍、第2海兵遠征旅団、第22海兵遠征隊、第24海兵遠征隊、第26海兵遠征隊)の場合も似たような配置状況だ。それぞれの司令部部隊、陸上戦闘部隊、兵站戦闘部隊がキャンプ・レジューン基地を本拠地とし、航空戦闘部隊のうち各種ヘリコプター部隊とオスプレイ部隊はニューリバー航空基地(キャンプ・レジューン基地から約10km)を、戦闘攻撃機をはじめとする固定翼機部隊はチェリーポイント航空基地(キャンプ・レジューン基地から約50km)を、それぞれ本拠地としている。

こうしたアメリカ本土での海兵隊配置に対し、沖縄に司令部を設置するMAGTF(第3海兵遠征軍、第3海兵遠征旅団、第31海兵遠征隊)の配置状況は全く異様だ。

司令部部隊、陸上戦闘部隊と兵站戦闘部隊の主力は沖縄各地に点在する海兵隊施設の総称であるキャンプ・バトラーを本拠地とし、各種ヘリコプター部隊とオスプレイ部隊などの航空戦闘部隊の一部と兵站戦闘部隊の一部は沖縄の普天間航空基地(キャンプ・バトラーとは別扱いになる航空基地)ならびに隣接するキャンプ・フォスター(キャンプ・バトラーの一部)を本拠地にしている。

ミリタリーリポート_沖縄海兵隊3_1
第3海兵遠征軍の配置(筆者作成)

しかし、航空戦闘部隊の一部の戦闘攻撃機や空中給油機などの固定翼機部隊は、普天間基地から970kmほど離れた山口県の岩国航空基地を本拠地にしている。この距離は同一のMAGTFの配置状況とは考えがたい。

さらに、陸上戦闘部隊の一部、兵站戦闘部隊の一部、航空戦闘部隊の一部は、沖縄から7500kmも離れたハワイ州オアフ島の海兵隊ハワイ基地ならびに同一場所にあるカネオヘ航空基地が本拠地なのだ。 

このように在沖縄海兵隊のMAGTF構成要素の本拠地が沖縄、岩国、オアフ島に分散していることは、常に緊急出動に備える米海兵隊にとって、迅速かつ柔軟にMAGTFを編成するという根本哲学を無視した状況だと言わざるを得ない。

■疑義② 緊急出動に沖縄は適しているか?

米海兵隊が作戦行動する場合、出動部隊は各種航空機や装甲車両その他の装備資機材とともに、米海軍水陸両用戦隊の揚陸艦(基本的には強襲揚陸艦、ドック型揚陸艦、ドック型輸送揚陸艦の3隻の揚陸艦)に乗り込み、「水陸両用即応群」を形成して出動する。そのため、揚陸艦が出動部隊を積載する港湾施設が出動部隊の本拠地に近接していなければならないことはもちろん、揚陸艦の母港も積載港に近ければ近いほど海兵隊には望ましい。この点も在沖縄海兵隊の配置状況は、極めて条件が悪い。 

キャンプ・ペンドルトン基地を本拠地にする海兵隊部隊の場合、出動部隊を積載する第1、第3、第5、第9水陸両用戦隊の揚陸艦はサンディエゴ軍港を母港にし、キャンプ・ペンドルトン基地からサンディエゴ軍港までは高速道路で40分程度の距離にある。 

キャンプ・レジューン基地の場合、積載地点のモアヘッドシティ港まで60分程度だが、第4、第6、第8水陸両用戦隊に所属する揚陸艦の主力はバージニア州のノーフォーク軍港ならびに隣接するリトルクリーク統合遠征基地を母港にしている。それらの海軍基地からモアヘッドシティ港までは220海里離れており、揚陸艦が急行すると半日行程である。 

他方、沖縄に駐留する海兵隊が出動する場合、佐世保が母港の米海軍第11水陸両用戦隊の揚陸艦(強襲揚陸艦「ワスプ」を旗艦として、ドック型輸送揚陸艦「グリーン・ベイ」とドック型揚陸艦「ジャーマン・タウン」あるいは「アッシュランド」)が沖縄に急行し、ホワイトビーチ米海軍施設で兵員、車両、資機材を積載する。岩国を拠点にする戦闘攻撃機は途中の洋上で強襲揚陸艦ワスプに着艦する。 

キャンプ・ハンセンなどの出動部隊の本拠地からホワイトビーチまでは車で50分程度だが、佐世保軍港からホワイトビーチまでは450海里ほど離れていて、揚陸艦がフルスピードで急行しても丸一日以上要してしまう。このように出動する海兵隊主力部隊が沖縄、揚陸艦の母港が佐世保(それに固定翼機部隊が岩国)と遠距離分散配置していることは、米海兵隊に課せられた緊急展開には、極めて都合が悪い状態となる。 

■疑義③ 日本駐留兵力はMEUだけで十分

在沖縄海兵隊が緊急出動する場合、佐世保の水陸両用戦隊が強襲揚陸艦を1隻しか保有していないため、第31海兵遠征隊が最大規模の編成になる。 

海兵遠征隊は兵力2千人程度とはいえ、自前で戦闘攻撃機、オスプレイ、攻撃ヘリコプター、重輸送ヘリコプター、汎用ヘリコプター、戦車、重砲、水陸両用兵員輸送車、軽装甲車、戦術輸送トラック、高機動車、兵站資機材などを揚陸艦3隻に積載して出動するため、少数ながらも精強な水陸両用戦闘部隊である。しかし、いくら海兵遠征隊が自己完結型の精鋭部隊であるといっても、海兵遠征隊1個部隊の戦力だけで打ち勝てるミッションは、小規模な局地戦闘に限られる。 

ミリタリーリポート_沖縄海兵隊3_1
MEU戦力の構成(米海兵隊作成、筆者翻訳)

在沖縄海兵隊の担当地域内で、アメリカが地上部隊を派遣するような武力紛争は、北朝鮮軍による韓国への侵攻、アメリカによる北朝鮮への予防戦争(先制攻撃)、中国軍による台湾への侵攻、南沙諸島での戦闘、南西諸島での戦闘などが想定可能だ。いずれも発生する可能性は極めて低いが、北朝鮮軍あるいは中国軍との軍事衝突になり、現実となった場合は極めて烈度の高い戦争、すなわち国家間戦争になることは間違いない。 

それらの戦争は、とても第31海兵遠征隊が単独で緊急展開するレベルではなく、第31海兵遠征隊は大規模なアメリカ統合派遣軍の一部隊として送り込まれる。こうした場合、第31海兵遠征隊の主たる任務は、戦場と化して混乱状態に陥った韓国や台湾などの紛争地域から少しでも多くのアメリカ市民を救出する「非戦闘員退避作戦(NEO)」になる。 

実際、現在沖縄に駐留する海兵隊員の6割以上は、各種司令部機能などを担う非戦闘的要員で、第31海兵遠征隊以外の戦闘要員といえどもハワイ州・パールハーバーや、カリフォルニア州・サンディエゴから増援の揚陸艦が到着しない限り、戦闘作戦で出動することはできない。在沖縄海兵隊の大半がオアフ島のハワイ基地を本拠地にしても、サンディエゴ郊外のキャンプ・ペンドルトンを本拠地にしても、海兵隊の前方展開能力が大きく損なわれることにはならない。 

このような現実を踏まえ、いわゆる永続的前方展開部隊としての在沖縄海兵隊に必要な戦力を再吟味すると、海兵遠征隊1個部隊ならびに航空機や車両などの保守管理要員、それに基地管理・警備部隊で十分と言わざるを得ない。 

今回は、海兵隊も含む米軍関係者たちが口にしている米海兵隊の沖縄駐留に対する軍事的疑義のいくつかを簡約して紹介した。次回は米海兵隊が沖縄に駐留する意義として日本政府が強調する「抑止力」についての議論を紹介し、在沖縄海兵隊を軍事的に考える際の道標の一つを示したい。

 

(次回は10月11日(木)に配信します)