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なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する②

ミリタリーリポート@アメリカ
キャンプ・ペンドルトンで訓練中の海兵隊員と海軍揚陸艦(筆者撮影)

普天間航空基地の辺野古への移転は、日米間(+沖縄)の高度に政治的な問題であるが故に、米海兵隊関係者とりわけ現役の指導者たちは、少なくとも公式には、辺野古移設という特定の問題について「軍隊は連邦議会の決定やホワイトハウスの命令に従うだけ」というシビリアンコントロールの大原則を口にするのが常だ。ただ「米海兵隊の沖縄駐留の必要性」の軍事的説明を、公的な場で語るにやぶさかではない。

以下に、筆者が公的あるいはプライベートな場で、現役・退役の米海兵隊関係者らから耳にした「米海兵隊の沖縄駐留の必要性」についての軍事的説明を順不同で列挙する。賛成・反対それぞれの立場からの論評は加えず、単に意見の紹介と補助的説明を記すにとどめる。それらは米海兵隊が公式に声明したものではないが、もし読者の皆さんが米海兵隊の指導者たちに「沖縄に駐留する軍事的理由」を尋ねると、下記の説明のいくつかを耳にすると思う。

理由① 太平洋の西に前進拠点を確保する

前回触れたように米海兵隊は、アメリカの国益が脅かされるような緊急事態に対処するため、連邦議会の承認以前に大統領命令で出動するアメリカの“911フォース”、すなわち緊急展開軍と位置づけられている。米海兵隊は、緊急出動命令とともに海外に素早く部隊を展開させなければならない。

【前回記事】なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する

そのため、アメリカ大陸の東海岸と西海岸に主要司令部を配置しておく必要が生じる。アメリカ本土からヨーロッパや中東、アフリカ方面に出動するには、大西洋ならびに地中海を渡る必要があるからだ。また、アメリカ本土から東アジアや南アジア方面に出動するには、太平洋ならびにインド洋を渡る必要がある。

そこで米海兵隊は、第1海兵遠征軍司令部を西海岸カリフォルニア州のキャンプ・ペンドルトンに、第2海兵遠征軍司令部を東海岸ノースカロライナ州のキャンプ・レジューンに配置。ただし大西洋(+地中海)に比べ、太平洋(+インド洋)は遙かに広大だ。そのため、西海岸の第1海兵遠征軍司令部に加え、太平洋を渡った西側に前進司令部を構えておけば、東アジアはもちろん南アジア方面にも迅速に展開させることが可能となる。

米カリフォルニア州キャンプ・ペンドルトンで訓練中の米海兵隊(筆者撮影)

このように「太平洋・インド洋沿岸地域での緊急展開に、できるだけ有利な前進拠点を確保しておきたい」という理由で、太平洋の西側に位置し、かつ極めて政治的、経済的に安定した同盟国・日本の沖縄に第3海兵遠征軍司令部が設置されたのだ。

理由② 日本防衛と極東平和維持に関する確固たる姿勢を明示する

日本に駐留する米軍が、日本防衛だけでなく、東アジアをはじめ太平洋・インド洋沿岸地域全体の平和維持のためにも投入されることは、日米安保条約に明記されている。米海兵隊の日本での本拠地は、日本防衛はもちろん東北アジアや東南アジア方面での様々な作戦行動にもできるだけ迅速に対応できる場所に設置する必要がある。

沖縄(沖縄本島)は、日本列島、朝鮮半島、台湾、南シナ海沿岸域に対して、まさに「扇の要」の位置にある。たとえば、沖縄(普天間基地)から東京までは約1500km、稚内まで約2500km、朝鮮半島の南北国境地帯まで約1300km前後、台湾東岸地域まで650km-850km。かつて米海軍が拠点にしたフィリピンのスービック基地まで約1500km、ベトナムのダナンまで約2350km、そして米海軍基地と米空軍基地があるグアム島まで約2250kmだ。そのため沖縄から出動する海兵隊部隊は、航空機なら数時間以内、揚陸艦を用いた場合でも72時間以内に、東アジアのあらゆる場所に先鋒部隊を到着させることができる。

西太平洋の「扇の要」ともいえる戦略的要衝の沖縄に、アメリカの“911フォース”たる米海兵隊部隊が展開することは、アメリカが日本の防衛ならびに太平洋・インド洋沿岸地域の平和維持に本腰を入れて取り組む姿勢を明示することになる。

第1海兵航空隊のAH―1Z攻撃ヘリコプターとUH―1Y汎用ヘリコプター(提供:米海兵隊)

理由③ 対日軍事攻撃への抑止力となる

米海兵隊は緊急展開能力に優れているとはいえ、基本的に陸上戦闘部隊だ。第3海兵遠征軍の主力や第31海兵遠征隊が沖縄に駐留しても、沖縄や南西諸島を含め日本領域に接近してくる敵侵攻部隊を、海洋で撃破することはできない。米海兵隊は、中国が日本に向けて発射した弾道ミサイルや巡航ミサイルを迎撃する手段を持たず、反撃するための弾道ミサイルや巡航ミサイルを保持しているわけでもない。

しかし、沖縄に米海兵隊が駐屯しているのに、もし中国が沖縄に向けて弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射したら、その瞬間に中国はアメリカに軍事攻撃をしたことになる。この論理は沖縄だけでなく、日本全体にも拡大され得る。すなわちアメリカの先鋒部隊の海兵隊が、沖縄という日本領土に陣取って日本防衛に従事している以上、沖縄本島に限らず日本領域に軍事攻撃を加えることは、海兵隊に敵対行動を取ったものとみなされるのだ。このような事情を中国、北朝鮮、ロシアも十分承知しているので、沖縄に海兵隊が駐留していることは、日本への軍事攻撃の意図を挫く、抑止効果を発揮していると考えられる。

オーストラリアのシドニー上空を飛行中の第31海兵遠征隊オスプレイ(提供:米海兵隊)

非戦闘員退避作戦(NEO

緊急展開能力と水陸両用能力に優れる米海兵隊は、非戦闘員退避作戦のエキスパートだ。非戦闘員退避作戦(NEO)とは、外国で軍事紛争、クーデターや打ち壊しなどの政情不安、大地震や津波、噴火といった大規模自然災害、さらに原発事故などの緊急事態が生起した場合、軍隊を派遣して危険地域から自国民を救出し、安全な地域に引き揚げさせる「戦争以外の軍事作戦」である。

米海兵隊は、西太平洋の『扇の要』の沖縄に駐留することで、日本、韓国、台湾、中国、フィリピン、ベトナムをはじめ、東シナ海、南シナ海といった西太平洋そしてインド洋沿岸域で様々な緊急事態が勃発した場合、アメリカ国民を救出する非戦闘員退避作戦に緊急出動することが可能になる。

CONPLAN 5029(概念計画5029号)

北朝鮮で反乱、クーデター、民衆の大量脱走、大規模災害、核施設事故など様々な原因で独裁支配体制が崩壊の危機に見舞われた場合、アメリカ軍と韓国軍がどう対処するかという軍事作戦構想が、CONPLAN 5029(概念計画5029号)だ。

この軍事計画では、北朝鮮で戦争には至らない危機的緊急事態が勃発した際、南北国境に近接する沖縄の海兵隊部隊が緊急展開し、上陸作戦を伴う航空施設や港湾施設の占領、核兵器や核施設の確保、水陸両用能力を活用して兵員や物資の補給、戦術航空支援、地域の安定化作戦、海上阻止作戦などに従事し、極めて重要な役割を果たすことになっている。

OPLAN 5027(作戦計画5027号)

北朝鮮軍が南北国境線を越えて韓国に侵攻した場合、つまり第2次朝鮮戦争が勃発した場合を想定し、韓国防衛のためにアメリカ軍と韓国軍が策定した軍事作戦計画がOPLAN 5027(作戦計画5027号)である。

この軍事作戦計画では、沖縄から緊急出動する海兵隊部隊(このレベルになると第3海兵遠征軍を編成)は、国境線を越えて南下する北朝鮮軍の側面と背後を攻撃したり、侵攻部隊後方の兵站能力を破壊したりする水陸両用上陸能力を備えていて、北朝鮮軍は正面攻撃に全力を割けなくなる。こうした水陸空に跨がる機動性を持つ陸上戦闘軍の海兵隊部隊が沖縄から緊急展開できることは、北朝鮮侵攻軍撃退に決定的要素となっている。

HADRによる国際貢献

水陸両用能力と緊急展開能力に優れる米海兵隊は、大規模自然災害での救助活動や人道支援活動にも対応。沖縄を本拠地とする海兵隊部隊は、日本だけでなく東南アジアや南アジアでの人道支援・災害救援活動(HADR)に緊急展開し、国際貢献を果たしている。

フィリピンやインドネシアの台風や大津波、バングラデシュの大洪水など災害救援活動や人道支援活動には、毎年のように沖縄から第31海兵遠征隊が投入される。東日本大震災の際の米軍による災害救援活動「トモダチ作戦」には、普天間基地の航空戦闘部隊や兵站戦闘部隊などのほか、東南アジアで人道支援活動に従事中だった第31海兵遠征隊が日本に急行し、自衛隊が保持していなかった水陸両用作戦能力を活用して救援・支援活動を展開した(拙著『写真で見るトモダチ作戦』並木書房参照)。

米海兵隊が沖縄に駐留を続けようと考える上記のような理由について、米海兵隊を含む米軍関係者やシンクタンクなどの軍事専門家の中に、純軍事的理由から疑義を呈する人びとが存在しないわけではない。そこで次回は、米軍関係者らから聞こえてくる、そのような「疑義」を見ることにしたい。

(次回は10月9日(火)に配信します)