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中国の進出、台湾支配がカギ ロバート・カプランさん(米ジャーナリスト)に聞く

World Now

ロバート・カプラン



中国の過去20年間の軍事的な拡張は、長い歴史から読み解かないといけません。南北戦争が終わった1865年から米西戦争が始まる1898年までの米国の状況とよく似ています。19世紀後半に経済的に飛躍し、その後、世界最大の海軍力をつけていきます。

巨大な王朝が築かれた中国大陸は19世紀から20世紀にかけて混乱し弱体化しました。毛沢東は中国を統合し、鄧小平は経済大国へと成長させました。次の段階として軍事力の拡大をめざすのはごく自然な流れです。単に我々が過去200年近く「弱い中国」に慣れてしまっていただけなのです。

中国側からすると、南シナ海や東シナ海は中国に近接しているのに、地球を半周してまでやってくる米海軍の方がおかしいと映ります。米海軍はいま西太平洋を完全には掌握していません。最終的にはこれらの海から米国を追い出す帝国主義的な長期戦略を立てています。ただ、米海軍といま対峙(たいじ)しても負けるのはわかっている。一進一退しながら、戦争せずに覇権国家を目指しているのです。
     

インドまで含む「太平洋」


この地域の未来は、台湾が最終的にどのような形で中国に支配されていくかによって左右されます。つまり中国が南シナ海と東シナ海を支配すればするほど、これらの二つの海の間に位置する台湾も支配しやすくなります。台湾問題と海洋進出は互いに作用し、切り離せません。

中国が強くなり、地域のバランスをとるために、日本が相当な役割を果たさなければなりません。

自衛隊の防衛装備の近代化や台湾やベトナム、シンガポール、インドネシア、フィリピン、マレーシアとの関係強化も待ったなしです。そのためには、第2次世界大戦の過去とも向き合わなければいけないでしょうね。

私はいわゆる「太平洋」を、日本と米国本土の間の海域に限定せず、インドまでを含む「Indo Asia Pacific(インドアジア太平洋)」という一体の地域としてみています。

ここ数十年間を振り返ると、ベトナムでは戦争があり、中国では改革による大変動があり、インドは貧しい農業国でした。こうした国々が政治・経済の国内基盤を固め、軍事力をつけ、そろって台頭してきています。互いに結びつきを強めているため地域全体の重要性が増し、目を離せない、ある意味、魅惑の地域となってきています。


「予測不可能」と「正しい恐れ」


米国の歴代政権による米中関係やアジア戦略はニクソン大統領からオバマ大統領まで、共和党、民主党政権を問わず、大差ありませんでした。ホワイトハウスの住人が代わると、大きく政策転換した中東政策とは違い、長期的な視点で計画が練られ、目的があり、ルールがあり、政権がとる方向性はどれも予測可能な範囲でした。

オバマ政権の中国への関与は弱く、人工島の造成、軍事拠点化が一気に進んだのは紛れもない事実です。ただ、それでも「現状維持」という明確な戦略と政策の方向性があったわけです。

ところがいま、「予測不可能」という歴史的には興味深い場面に直面しています。これまでの経緯や歴史にとらわれないトランプ大統領は週替わりで政策を転換することもできます。つまり劇的な変化を起こす力を秘めているともいえます。

北朝鮮の核・ミサイル開発問題を巡り、中国から協力を引き出すために米国が南シナ海では譲歩する――。そんな駆け引きをするのではと危惧するのは「正しい恐れ」です。この地域の国々は成熟した米国とつきあってきましたが、もう状況は変わったのです。

 


Robert Kaplan


1952年生まれ。米国防総省・防衛政策協議会メンバーなど歴任。著書に「インド洋圏が、世界を動かす」「地政学の逆襲」など。

(このインタビューは2017年7月28日付朝日新聞朝刊「耕論 太平洋 覇権の行方」に掲載されました)