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なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する

ミリタリーリポート@アメリカ
沖縄・伊江島での訓練(提供:米海兵隊)

沖縄基地問題の根幹は国防戦略だ

20年以上も普天間基地移設を巡る問題が日米間の懸案であり続ける大きな要因の一つは、日本政府が確固たる国防戦略を打ち出していないことにある。日本政府は、日本の国防戦略の視点から、普天間基地移転問題というより、そもそも米海兵隊の沖縄駐留について説得力ある説明を国民に提供していない。

とはいえ、沖縄の米海兵隊に関わる諸問題は、純粋な軍事的論理だけで解決できるほど単純ではないことも事実だ。第一に、日本の領土に外国の軍隊が駐留することそのものが、外交的にも内政的にも複雑な問題を抱えている。米軍基地の存在によって経済的利益を確保している人びと(軍用地提供借地料、米軍基地での雇用、米軍基地周辺でのビジネスなど)も少なくないという事情に対する解決策も必要だ。 

何より深刻なのは、かつて沖縄では第2次世界大戦末期に、九州や本州への米軍の侵攻速度を遅らせるため、猛烈な砲爆撃を被り壊滅的損害が生じることが分かっていたうえで「地上戦闘」が行われた。このため現在に至るまで沖縄の人びとは日本政府の国防方針には懐疑的であり、こうした県民感情を納得させるだけの論理や施策を打ち出さなければならないのだ。もっともこの問題は、第2次世界大戦末期の本土決戦戦略への反省を、現代の国防戦略にどう生かすかという軍事的側面が大きいと考えられる。

このように多角的な要素が複雑に絡み合っている難問であるとはいえ、日本領域内に駐留する外国軍隊を巡る議論を、国防戦略の視点から切り離すことは不可能だ。本コラムでは、「米海兵隊はなぜ、沖縄に本拠地を確保しておこうとしているのか?」という問いへの軍事的説明、次にそれに対する「米海兵隊は沖縄に現在のような規模の兵力を展開させておく必要はない」という軍事的主張の双方を確認しようと思う。

 

それらの記述に取りかかる前に、今回は「沖縄に駐留する米海兵隊はいかなる組織か」を簡単に整理する作業から始めたい。米海兵隊の任務や作戦用組織構造は独特で、それらの理解抜きに、沖縄に駐留する海兵隊をめぐる軍事的議論を進めることはできないからだ。

米海兵隊(U.S.Marine Corps)

沖縄・伊江島で訓練中の第31海兵遠征隊(提供:米海兵隊)

米海兵隊というと、硫黄島攻防戦に代表される強襲上陸作戦を敢行する“殴り込み”部隊と考えられがちだ。しかし、現代戦では強襲上陸作戦は現実的ではなく、米海兵隊イコール強襲上陸部隊という図式は成り立たたない。

米海兵隊が表看板に掲げる水陸両用作戦とは、強襲上陸作戦だけを意味するのではない。作戦目的地の沖合まで海軍揚陸艦で到達し、そこから海上と上空を経由して陸地に殺到し、地上での様々な作戦を実施し、洋上前進基地の揚陸艦に引き揚げるという基本的パターンの軍事作戦全般を意味する。

世界中で頻発する軍事紛争や大規模災害などの現場に米軍が到達する場合、紛争頻発地や大規模自然災害頻発地は、海岸線から200km以内の地域が多く、海岸線側からアクセスした方が時間的にも距離的にも有利な場合が大半だ。そのため、海から陸に到達する水陸両用作戦能力を“お家芸”とする米海兵隊は、アメリカ政府が軍隊を投入(戦闘にせよ災害救援活動にせよ)することを決めた場合、真っ先に投入される「アメリカの国家としての911フォース」と考えられている(「911」は日本の「110番」や「119番」に相当するアメリカ全州での緊急通報用電話番号)。つまり、米海兵隊は、アメリカの国益を脅かすような緊急事態に対処するため、連邦議会の承認以前に大統領命令で出動する緊急展開地上軍と位置づけられている(陸上での作戦が必要ない場合は、海軍部隊や空軍・海軍・海兵隊の航空部隊が緊急展開する)。

海兵空地任務部隊(MAGTF)

沖縄・宜野座村沖で上陸訓練中の第31海兵遠征隊AAV―7(提供:米海兵隊)

沖縄に駐留する米海兵隊は、第3海兵遠征軍(ⅢMEF、司令部はキャンプ・コートニー)の大半と、第3海兵遠征旅団司令部(3rd MEB、司令部はキャンプ・コートニー)、そして第31海兵遠征隊(31st MEU、司令部はキャンプ・ハンセン)だ。MEFMEBMEUとは、海兵隊が生み出した独特な作戦用組織構造で、海兵空地任務部隊(MAGTF、マグタフと発音)と呼ばれる。米軍内部でもなかなか理解され難いMAGTFという組織構造の理解は、沖縄の海兵隊を考察する上で欠かせない。

MAGTFは、作戦部隊の組織構造(編成方法)の名称で、MAGTFという部隊が存在するわけではない。MAGTFは米海兵隊が出動する事案の規模に応じて分類される。大規模軍事紛争に対応するために兵力2万人以上で編成されるMEF、比較的大きな軍事紛争に対応するために数千人から最大15000人程度で編成されるMEB、軍事的緊張の高まりへの対処や災害救援人道支援活動などに緊急対応するため数百人から最大2200人で編成されるMEU、特殊作戦や特別な軍事演習などのために編成される最大でも数百人規模の特殊目的空地任務部隊(SPMAGTF)の4種類に分類される。

MAGTFは部隊規模はそれぞれ違っても、いずれも部隊の指揮統制や通信、諜報などを担当する司令部部隊と、陸地での各種作戦を実施する地上戦闘部隊、そして地上部隊を上空から支援したり地上部隊を輸送したり偵察や電子戦を実施する航空戦闘部隊、部隊の作戦継続に必要な兵站活動全般を担当する兵站戦闘部隊で編成される。

米海兵隊のMAGTFと、ナポレオン戦争以降に世界中に広まった伝統的な陸上軍事組織部隊編成との最大の相違は、基本的な部隊単位だ。いくつかの小隊で中隊、いくつかの中隊で大隊、いくつかの大隊で連隊、いくつかの連隊で旅団、いくつかの旅団で師団、がそれぞれ編成されるのが伝統的な部隊単位構成だ。これに対してMAGTFでは、最小規模のMEUがいくつか集まってMEBを形成し、MEBがいくつか集まってMEFを形作るのではない。それぞれの作戦ごとに必要な陸上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊そして司令部部隊の規模・内容が自由に伸縮されてMEUMEBMEFが編成される。要するにMAGTFはフレキシブルな相似形の部隊編成と考えられる。

MAGTF(海兵空地任務部隊)の構造(Centre for Navalist Studies(CNS)作成)

沖縄の米海兵隊

沖縄には第3海兵遠征軍の大半、第3海兵遠征旅団司令部、第31海兵遠征隊が駐留している。「第3海兵遠征軍の大半」というのはMAGTFとしての第3海兵遠征軍の司令部部隊、地上戦闘部隊(第3海兵師団、司令部キャンプ・コートニー)、航空戦闘部隊(第1海兵航空団、司令部キャンプ・フォスター)の一部、それに兵站戦闘部隊(第3海兵兵站群、司令部キャンプ・キンザー)が沖縄を本拠地とするため、「大半」という表現をした。第3海兵師団に所属する部隊の一部は海兵隊ハワイ基地(オアフ島カネオヘ)を本拠地にし、第1海兵航空団の一部は岩国航空基地とハワイ基地を本拠地にする。

在沖縄海兵隊MAGTFの構造(CNS作成)

本格的な戦争に第3海兵遠征軍全体が投入されることになった場合、沖縄、岩国そしてハワイから第3海兵師団、第1海兵航空団、第3海兵兵站群に所属する全ての部隊が集結し、沖縄に駐留している第31海兵遠征隊も組み込まれる。それぞれ最大規模の地上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊、そして司令部部隊が編成され、およそ2万人規模の海兵遠征軍が形成される。

3海兵遠征軍より規模が小さく、第31海兵遠征隊よりは大きい部隊が必要な場合、第3海兵遠征旅団が編成される。すなわち、第3海兵遠征軍を構成する諸部隊や第31海兵遠征隊から必要な諸要素を集結させ、陸上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊を編成し、それらを沖縄に常駐している常設の第3海兵遠征旅団司令部が指揮する。

沖縄を本拠地とする部隊を中心に編成されるMAGTFのうち、最小規模のものが第31海兵遠征隊だ。最大兵力2200人で、東日本大震災の際にトモダチ作戦に参加したように、戦闘任務以外にも様々な作戦に緊急出動する機会が多い。もちろん第31海兵遠征隊も司令部部隊、地上戦闘部隊、航空戦闘部隊、兵站戦闘部隊で構成され、沖縄から緊急出動できる態勢を常時維持している。要するにアメリカの「緊急展開軍」としての米海兵隊はその責務を果たすため、アメリカから太平洋を渡った沖縄に、頻繁に出動する「先鋒部隊」として第31海兵遠征隊を駐留させているのだ。

 

次回は、米海兵隊関係者たちが主張する「沖縄に米海兵隊が駐留する必要性に関する軍事戦略的理由」を列挙する。続いて、米海兵隊を含む米軍関係者たちから聞こえてくる「現在のような大規模な米海兵隊は沖縄に必要ない」という主張にも耳を傾けたいと思う。

(4回にわけて連載します。第2回は10月4日(木)配信予定です)