前回の本コラムでは、日本政府(そして最終的には国防予算を承認する国会ということになるのだが)による自衛隊の“防衛装備品”調達、とりわけアメリカからの高額兵器調達は、「防衛戦略の必要性からではなく、はじめに兵器ありき」という軍事的には極めて歪な構造になってしまっていることを指摘した。
「戦略なき兵器の収集」の典型例
兵器提供側の米軍関係者たち(なにも米軍が自衛隊に売り込むわけではないのだが)ですら首をかしげる「戦略なき兵器の収集」の典型例が、島嶼防衛のための水陸両用作戦用との触れ込みでアメリカから輸入調達を開始したV-22オスプレイ中型輸送機、ならびにAAV-7水陸両用装甲車である。
それらはいずれもアメリカ海兵隊の主力装備である。すなわち、アメリカ海兵隊が表看板としている水陸両用作戦を実施するために使用中の兵器である。したがって水陸両用作戦にとっては、使い勝手の良い兵器と言えるのだが、それはあくまでもアメリカ海兵隊自身が実施するであろう各種水陸両用作戦に必要という意味であって、アメリカ海兵隊と同じ主要兵器を手にすれば、水陸両用作戦部隊が誕生することを意味するのではない。
現在、自衛隊は水陸両用作戦能力を身につけようとしており、陸上自衛隊は水陸両用作戦を担当する水陸機動団を発足させた。とは言うものの、日本防衛にとって、どのような水陸両用作戦が必要なのか?そのためにはどれぐらいの規模の、いかなる水陸両用能力を持った組織が必要なのか?といった戦略的議論が徹底的に交わされた上で、水陸両用作戦能力構築に踏み切ったようには思えない。なぜならば、そのような戦略そのものが見当たらないからだ。
水陸両用作戦能力の保持、それに対応する部隊の構築からして、戦略的要求に基づいた動きではないのだから、装備の調達も戦略的要求からなされたものではないであろうことは、至極当然である。一言で言うならば、アメリカ海兵隊の主要装備だから、日本で発足させる水陸両用作戦を担当する部隊にも装備させよう、という流れでアメリカから輸入調達しているとしか思えない。
そのため米海兵隊や米海軍の少なからぬ人々が、自ら自衛隊側に水陸両用能力構築をプッシュしたにもかかわらず、オスプレイを一気に17機も調達し、AAV-7を58輛も調達した陸上自衛隊の動きを異様であると受け止めているのだ。
時代遅れとなったAAV-7
そもそもAAV-7のルーツは、第2次世界大戦中の太平洋の島嶼を巡る日米攻防戦で、日本軍守備隊が立てこもる島嶼にアメリカ海兵隊が上陸侵攻する際に有用な兵器として生み出されたものだった。
その後、アメリカ海兵隊自身の経験などを加味して改良が加えられ、1960年代に設計されて1971年からアメリカ海兵隊にLVTP-7水陸両用装甲車が配備された。それを更に改良して1984年に名称変更した水陸両用装甲車が、AAV-7である。
その後もアメリカ海兵隊はAAV-7を使用し続けているが、誕生した第2次世界大戦や朝鮮戦争当時にしばしば実施された水陸両用作戦の一類型である強襲作戦(敵が待ち構える海岸線に沖合から水陸両用装甲車や上陸用舟艇で突撃して上陸を企てる作戦)は、地対艦ミサイルや対戦車ミサイルなどの発達により、実施することが現実的ではなくなってきてしまった。
そこでアメリカ海兵隊では、もはや水上を最速でも7ノット程度の低速でしか航走できず、ミサイルはもちろんロケット弾や大口径機関砲弾などの前にはひとたまりもないAAV-7では、現代の水陸両用作戦で「浮かぶ棺桶」となってしまうと考え、すでに1980年代より新型水陸両用装甲車の研究開発に取り組みはじめた。
ところが、莫大な予算を投入して20年以上をかけて新型車両EFVが誕生したものの、海兵隊にとっては満足できるレベルには到達していない上、1輛の価格が25億円と、とんでもない額になってしまったため、2011年に国防総省は開発計画を中止させてしまった。
その結果、アメリカ海兵隊は現代の水陸両用作戦には対応できないとして新型車両に置き換えようとしていたAAV-7を、ACV-2.0という後継車両が誕生する予定の2035年まで、使い続けなければならない状況に陥ってしまっている。
驚愕した海兵隊関係者たち
水陸両用能力を身につけようとしている陸上自衛隊がAAV-7を手に入れようとしているという話を聞いた海兵隊関係者たちは、「日本がどのような水陸両用作戦を必要としているのかという戦略的要請はさておいても、AAV-7は水陸両用作戦の基本能力を習得するために有用で、かつアメリカ海兵隊が多数保有しているため容易に手に入る」という理由で、すでに時代遅れとなってしまった兵器とはいえ、とりあえずは訓練用として、中古車両を15~20輛程度手にするものと考えていた。
ところが陸上自衛隊側は、中古車両ではなく新車両を50輛以上も調達すると言って寄こしたのだから、海兵隊関係者たちは驚愕した。1350輛近くアメリカ海兵隊に納入されたAAV-7だが、製造は20年近く前に終了したため、製造ラインや詳細設計図はすでにメーカーも手にしておらず、日本向け新車両は1輛あたり7億円にもなってしまった。時代遅れのAAV-7に、そのような予算を投入することなど、常識では考えられない。
何のためにAAV-7を使うのかが不鮮明
さらに驚かされたことには、AAV-7を使用する水陸機動団は、防衛省自身の説明によると、島嶼奪還作戦に投入されるという。その島嶼奪還のための水陸両用戦訓練では、現代戦においては現実性が乏しい強襲作戦を実施している状況なのである。
このように、確固たる国防戦略を遂行するためには、いかなる水陸両用作戦が必要になるのか?そのためにどのような装備兵器が必要なのか?という考察を経ずに、いきなり武器だけを調達してしまっているのでは、アメリカ海兵隊の主要装備であるAAV-7を手にすれば水陸両用部隊が出来上がる、といった素人考えと変わらないとみなされてもしかたあるまい。
アメリカ海兵隊の戦略要求から誕生したオスプレイ
V-22オスプレイの調達に関しても同様である。ティルトローター中型輸送機オスプレイは、長年にわたって洋上の揚陸艦から地上の作戦地に移動するための主力航空機としてアメリカ海兵隊が愛用してきたCH-46が旧式化してきたため、AAV-7と同じく1980年代から新型機種の開発に着手。尊い人命を多数失ったものの、上記EFVとは違い、開発に成功して誕生した航空機である。
要するにオスプレイは、アメリカ海兵隊が自らの戦略を実施するための必要性に基づいて開発し、誕生させた航空機なのである。したがって、オスプレイは強襲揚陸艦に積載されて作戦目的地沖合まで進出し、強襲揚陸艦を発進して地上の作戦目的地に海兵隊員を投入し、あるいは地上から海兵隊員を沖合の強襲揚陸艦に引き上げさせる、という行動パターンを大前提として生み出されたのだ。
ところが陸上自衛隊は、購入したオスプレイを配備するべき海自艦艇抜きで、17機のオスプレイを購入してしまった。たしかに海上自衛隊が4隻保有しているヘリコプター空母ならばオスプレイを積載して作戦行動することは可能だ。しかし、それらヘリコプター空母は、水陸両用作戦を実施するために開発されたものではなく、海上自衛隊としてもオスプレイの母艦として水陸両用作戦用艦艇に転換せよ、と言われても無理な話ということになる。
結局、陸上自衛隊のオスプレイは地上航空基地を本拠地とすることになり、やはりアメリカ海兵隊が使っているから陸上自衛隊も手に入れた、という「戦略なき兵器の収集」の見本のような事例になってしまっているのである。
シビリアンコントロールの欠陥
上記のAAV-7とオスプレイは、戦略の必要性から作戦概念が生み出され、作戦概念を具体化させる必要性から武器や装備―すなわち「モノ」―が調達される、という常識的流れから逸脱して、「まずモノありき」で高額兵器、とりわけアメリカ製高額兵器を調達するという、慣行の事例にすぎず、他にも多数の「戦略なきモノの収集」事例が存在する。
日本においては、国防予算の承認過程を通して軍事組織をコントロールする責任を持っている国会が、全く軍事的素人集団としか言えない体たらくであるため、アメリカ製超高額兵器を含む自衛隊の武器や装備の調達をチェックする、すなわち民主主義国家におけるシビリアンコントロール最大の責務を果たせていない。武器をはじめとする“防衛装備品”の調達の決定を含めて、戦闘組織である(あるべき)自衛隊をコントロールするのは、防衛省内局でも財務省でもなく、国会であることを忘れてはならない。