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なぜ沖縄に米海兵隊がいるのか 軍事的に考察する④

ミリタリーリポート@アメリカ
沖縄・嘉手納航空基地のKC-135空中給油機(提供:米空軍)
沖縄・嘉手納航空基地のKC-135空中給油機(提供:米空軍)

【これまでの連載記事】

①海兵隊を解剖する

②海兵隊が考える「沖縄駐留の必要性とは」

③軍事的合理性から考えた、沖縄駐留への疑問の声

戦闘では自らの命を賭して国防任務を遂行する軍隊は、自らの組織こそ国防の要との強固な自負心を持つ。そうした確固たる意識がなければ、戦闘に打ち勝つこともできない。 

我こそが抑止力だ

現代戦では各軍種(海軍・空軍・陸軍など)が統合して運用されないと任務遂行しがたいが、たとえば米海兵隊は「米国の911フォースである米海兵隊こそが国防の要」と胸を張る。米海軍は「海軍こそシーパワーたるアメリカ防衛の大黒柱だ」と自負する。米空軍も「宇宙時代に突入する現代戦に勝ち抜く決め手はエアーパワーだ」と自信満々だ。

したがって、沖縄に大規模な部隊を駐留させる米海兵隊と米空軍をめぐり「日本や東アジアの安定に最も睨みを利かせているのは実際、どちらなのか?」という議論が生じると、海兵隊側は「アメリカ軍の先鋒部隊の海兵隊が東アジアの要の沖縄に陣取っていることこそ、何より強力な抑止効果を発揮している」と語る。対して空軍側は「アメリカ支援軍の先鋒として先陣を切るのは間違いなく空軍で、嘉手納に陣取る米空軍戦闘機部隊こそが最大の抑止力だ」と反論する。 

主観的概念である「抑止」

いうまでもなく「抑止」「抑止力」「抑止効果」という言葉は、日本防衛に話を絞ると、外敵が日本に軍事力を行使すること(最たるものは直接軍事攻撃を加えること)を思いとどまらせること、そのような軍事力、そのような状態が生じていることを意味する。しかし「抑止している」「抑止力となっている」「抑止効果が発揮されている」と表現しても、それを客観的には検証できない。

たとえば、日本国防当局や米軍当局が「中国人民解放軍の対日軍事攻撃を抑止している」としても、日米側が「抑止している」と考えるだけ、あるいは主張しているだけにすぎない。中国人民解放軍や中国共産党が日米側の強力な軍事力による防御態勢に「恐れをなして」、そこまでいかなくとも「強く警戒して」、日本への軍事攻撃を差し控えているかは、中国人民解放軍首脳や中国共産党指導者らに真意を聞かなければ確認できない。

要するに「抑止」とは、彼我の主観に左右される極めてあやふやな概念だと言わざるを得ない。とはいえ、そのような主観は、客観的に測定できる兵力や装備、配置など軍事力で“ある程度”は推測できることも事実だ。そのような推測をし、推測に基づいて戦略や作戦概念を調整したり、軍備を整えたりすることこそ、国防当局の重大な責務の一つだ。 

中国が気にするのは地上部隊より航空戦力

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沖縄・嘉手納基地の米空軍部隊(提供:米空軍)

すでに紹介したように米海兵隊は、「アメリカの先鋒部隊の海兵隊が陣取る沖縄はもちろん日本の領域に軍事攻撃を加えることは、海兵隊に敵対行動を取ったことになる。それはアメリカへの軍事攻撃とみなされ、アメリカの反撃を覚悟しなければならない。つまり沖縄に海兵隊が本拠地を置いていることは、大きな抑止効果を発揮している」と考える。

このような海兵隊の主張に、やはり沖縄に嘉手納航空基地という重要戦略拠点を置く米空軍関係者から以下のような意見も聞こえてくる。

在沖縄海兵隊が口にするレベルの抑止効果なら、米海兵隊部隊でなくとも米陸軍部隊、たとえば“アメリカの軍団”として勇名をはせる米陸軍第1軍団の精鋭部隊、ストライカー旅団戦闘団を駐留させても「アメリカを攻撃した」と十分みなし得るだろう。

しかし、第3海兵師団や第31海兵遠征隊あるいはストライカー旅団戦闘団など、どれほど精強な部隊であれ、沖縄配置の地上移動部隊に、中国人民解放軍に対日軍事攻撃を思いとどまらせるだけの効果があるだろうか。

中国軍が日本に軍事攻撃を仕掛ける場合、自力では沖縄から一歩も出られず、沖縄での地上戦以外に中国侵攻軍と戦闘を交えることができない米軍地上部隊を攻撃するのは無駄な作戦だ。攻撃用軍事資源は、嘉手納基地の米空軍をはじめとする航空戦力に向けられるのが当然だ。嘉手納基地には、中国侵攻軍を東シナ海上空で迎え撃つための戦闘機部隊が常駐しているからだ。日本侵攻を企てる勢力が恐れるのは、強力な戦闘機部隊であり、屈強な歩兵部隊ではない。 

嘉手納空軍基地こそが「扇の要」

米軍にせよ日本国防当局にせよ、沖縄を語る際、沖縄の地理的位置を強調し「沖縄は東アジアあるいは西太平洋の『扇の要』に位置する重要戦略要地だ」と指摘する。すでに紹介したように、海兵隊が沖縄に本拠地を置く理由の一つも「扇の要」が挙げられる。たしかに沖縄は、距離的に東アジアの「扇の要」に位置する。 

ただし「沖縄の距離的位置を軍事的優位として名実ともに生かしているのは、沖縄に駐留する米海兵隊ではなく、嘉手納航空基地を本拠地にする米空軍だ」と指摘する米空軍関係者は少なくない。それは以下のような理由による。

沖縄から台北まで約600km、上海まで約800km、ソウルまで約1250km、香港まで約1450km、マニラまで約1500km、東京まで約1500km、北京まで約1800kmというように、沖縄は東アジア諸国の「扇の要」と言われる。しかし、米海兵隊であろうが米陸軍であろうが、いかなる陸上戦闘部隊もそのような“長距離”を数時間で移動できない。ところが、米空軍はその程度の“短距離”なら、数十分~2時間もあれば移動可能なのだ。 

たとえば、第18航空団をはじめとする米空軍部隊が本拠地にする嘉手納航空基地から、米空軍第35戦闘航空団が配置されている三沢航空基地まで“約2015kmにすぎず”、低速のC130輸送機でも4時間、嘉手納基地のF15戦闘機や三沢基地のF16戦闘攻撃機なら2時間程で移動できる。

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嘉手納基地のF-15C戦闘機(提供:米空軍)

ところが、もし沖縄のキャンプ・ハンセンから第31海兵遠征隊が三沢基地に戦闘作戦行動で緊急展開するなら、沖縄各地に分散配置されている海兵隊部隊(各種車両や資機材を含む)を揚陸艦に積載する沖縄のホワイトビーチ海軍施設から、その海兵隊部隊を揚陸する三沢航空基地近郊の八戸港まで“1220海里も離れていて”、揚陸艦隊が急行しても3日程必要になってしまう。 

三沢航空基地だけではない。嘉手納基地から在日米軍司令部そしてアメリカ空軍第5空軍司令部のある横田基地まで約1515km、在韓米空軍司令部や米空軍戦闘攻撃機部隊が本拠地にするソウル南方の烏山空軍基地まで約1190km、韓国西岸中央部に位置し米空軍戦闘攻撃機部隊が配備されている群山空軍基地まで約1060km、そして爆撃機を中心とした部隊が拠点を置くグアム島のアンダーセン空軍基地まで約2280kmと、いずれの米空軍前方展開航空施設との間は1時間強~2時間半以内で移動可能である。 

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米空軍のネットワーク(筆者作成)

したがって米空軍は、嘉手納航空基地を名実ともに「扇の要」とし、日本、韓国、グアムの航空基地をネットワーク化して使用できる。すなわち嘉手納基地を拠点とすることで、米空軍は沖縄の地理的好条件を軍事的優位に転化して「抑止力」を生み出しているのだ。

これに対し、いくらキャンプ・バトラー(キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、キャンプ・フォスター、牧港補給地区、キャンプ・シュワブなど沖縄各地に点在する米海兵隊施設の総称)や普天間航空基地が沖縄にあるといっても、基本的に地上移動軍で空軍のようにスピードを伴わない海兵隊は、地理的好条件を軍事的優勢に転化できない。

このように、沖縄を戦略的要衝たらしめる嘉手納航空基地ならびに嘉手納を本拠地にする米空軍部隊こそ、日本侵攻を企てる中国人民解放軍の作戦立案者たちには「目の上のこぶ」なのだ。中国軍が対日侵攻を企てる際は、目障りな嘉手納航空基地に陣取る米空軍の戦力や動向を廟算(作戦立案段階で、勝てるか勝てないかを十二分に検証すること)し、さしたる障害でないと判断したら、対日侵攻作戦を実施することになる。大いなる障害になると判断したら、米海兵隊が言うように、アメリカによる大規模反撃の引き金になることを憂慮し、人民解放軍作戦家たちは対日侵攻を差し控えるのだ。

要するに、アメリカの911フォースとしての米海兵隊が緊急展開作戦に投入されるシナリオは多々あるが、沖縄を本拠地とする米軍部隊が対処することになる対日軍事攻撃、あるいは日本周辺での軍事紛争に話を限定するなら、抑止力として中国や北朝鮮に睨みを利かせているのは、在沖縄海兵隊ではなく、嘉手納航空基地の米空軍なのである。

 

今回の連載では、沖縄の米海兵隊基地問題を議論する大前提として、沖縄の米海兵隊の駐留理由や意義について、イデオロギーや県民感情、騒音問題や環境問題などを切り離し、純然たる軍事問題として考察した場合、どのような議論がなされているかを、筆者の知りうる範囲ではあるが、米海兵隊、米海軍、米空軍、シンクタンクなどの軍事専門家たち(その大半は沖縄に駐留した経験がある高級将校)の意見や実際の論争を、筆者の考えや立場などを交えず、簡明に要約する形で紹介した。

なんといっても沖縄への米軍駐留は、一義的に日本自身の国防問題だ。米軍関係者の間でもこのような軍事的視点で賛否両論が展開されていることを踏まえ、日本側でも沖縄の米海兵隊や米空軍、それらの各種施設などに関する軍事的考察が加えられることが強く望まれる。