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「中国海軍封じ込め」に動くアメリカ、しかし海軍増強は前途多難

ミリタリーリポート@アメリカ
アメリカ海軍の表看板である空母打撃群、率いるのは原子力空母ジョン・C・ステニス
(写真・2016年米海軍、朝鮮半島沖合)
アメリカ海軍の表看板である空母打撃群、率いるのは原子力空母ジョン・C・ステニス (写真・2016年米海軍、朝鮮半島沖合)

仮想敵が変わり、装備も訓練も変わる

トランプ政権はアメリカの主たる仮想敵を「国際的テロ勢力」から「軍事大国」、すなわち中国とロシアに転換した。それに伴いアメリカ軍当局は、これまでの「国際的テロ組織に打ち勝つための備え」から、「中国やロシアに対する軍事的優勢を確立するための備え」へと大転換が必要になった。

そのため、対テロ戦争を主眼にした戦い方や、そのための装備調達や訓練などを、大国間衝突を想定したものに転換する作業が始まっている。とりわけ焦眉の急は、軍事的にも経済的にも対立が深刻化している中国への備えである。

アメリカが、南シナ海や東シナ海といった海洋への拡張政策を推し進める中国と対峙するためには、2001年の911同時多発テロ以降、対テロ戦争に軍事資源を集中させた17年の間アメリカが若干手を緩めざるを得なかった海洋戦力の強化、それも急速な強化が急務だ。なぜならば、アメリカ軍と中国軍が衝突する想定戦域は、南シナ海や東シナ海、西太平洋となる可能性が高く、アメリカが中国を軍事的に封じ込めるには、極めて強力な海洋戦力が不可欠だからだ。

象徴の色が濃い「355隻艦隊建設」の政策 

今年321日の本コラムで指摘したように、トランプ政権は「強いアメリカの再建」「大海軍の建設」「アメリカの鉄で、アメリカの労働者の手により、軍艦を生み出す」といった大統領選での公約を実現させるため、海軍当局や多くのシンクタンクが主張してきた海軍増強策を集約した「355隻艦隊建設」という政策を政権発足後すぐにスタートさせた。これは上記の公約に示されるように、海軍強化策であると同時に、幅広い分野にわたる国内雇用の増大、アメリカ最大の基幹産業である軍需産業の安定化といった経済活性化策の面もある。 

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インガルス造船所で建造中の米海軍駆逐艦(写真・2015年インガルス造船所)

ただし、トランプ政権が独自の安全保障戦略を策定して公表する前に打ち出した「355隻艦隊建設」政策には、「少なくとも355隻以上の戦闘用艦艇を保持する」という目標は掲げられているものの、どのような内容の艦隊を編成し、いつまでに建設するのかといった具体的内容は伴っておらず、シンボリックな海軍力再強化案にとどまっていた。実際に、355隻という目標値の設定も、戦略目標をはじめとする軍事合理性から導き出されたものではなく、はなはだ心許ない数値設定にすぎなかった。

昨年12月にホワイトハウスが「国家安全保障戦略」を出し、今年はペンタゴンが「国防戦略概要」を公表。アメリカの安全保障戦略が「大国間角逐(かくちく)に打ち勝つ」方針に転換されて以降、中国やロシアとの軍事的対立の構図が明確になってきた。それにともない、より具体的な「355隻艦隊」の構成や建設計画が要求されるようになった。とりわけ、今秋には軍事衝突の危険性が増大している南シナ海情勢に鑑み、シンボリックなレベルでの海軍強化策ではなく、より現実的、より実戦的な強化策を可及的速やかに実施する必要に迫られている。

355隻の建設にはかなりの年月が

18121日現在、アメリカ海軍は戦闘用艦艇287隻を運用中(*)だが、355隻以上の戦闘用艦艇を保有するとなると、少なくとも68隻以上を建造しなければならない。

(*運用する艦艇の数は、戦闘用艦艇にどの種類を計上するかによって前後し、最小で227隻、最大で287隻となるが、米海軍は287隻としている)

ただし、軍艦建造には数年を要する。68隻の軍艦が建造される間には現在運用中の軍艦のうち、数隻から十数隻、あるいは数十隻が退役する。そのため355隻レベルの達成には、80隻あるいは90隻、場合によっては100隻ほどの軍艦を建造しなければならない。

このような状況を踏まえ、米海軍当局はじめシンクタンクなどの専門家たちが具体的な「355隻艦隊」の構成、建造スピード、完成時期などを推測。それらの多くは、現在までアメリカ海軍の軍艦を建造してきた造船所(いずれも民間造船会社)が建造している種類を基に、建造可能な種類やスピードを予測する。

例えば、インガルス造船所は駆逐艦や巡洋艦、水陸両用戦用軍艦。バス鉄工所は駆逐艦、ニューポート・ニューズ造船所は原子力空母と原子力潜水艦。ジェネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボートならば原子力潜水艦といったように、造船会社ごとに建造可能な艦艇のすみ分けがされているのだ。 

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ニューポート・ニューズ造船所で建造が開始された原子力空母J.F.ケネディ(写真提供:米海軍 撮影:2016年、ハンチントン・インガルス社)

この種の比較的単純な建造見積もりでも、355隻艦隊が誕生するのは早くとも35年前後と予測されている。ただしこの場合、軍艦をほとんど退役させず、建造数を最小化することが前提となる。そのため50年以上使い続ける軍艦が少なくない状況が発生する。

そのような楽観的予測とは反対に、使用年数を経た軍艦を適宜退役させたうえ、軍艦建造に携わる造船所が海軍艦艇の修理なども請け負う状況を加味して悲観的に予測した場合には、355隻海軍の誕生は50年頃にまでずれ込む。

「大艦隊の達成」は厳しい状況

上述したように、今秋ますます南シナ海での米中両海軍の対決ムードが鮮明になり、より実戦的な355隻艦隊建設シミュレーションが行われるようになってきた。つまり、造船会社がこれまで建造してきた軍艦の種類を基に艦隊構成を組み上げるのではなく、中国海軍(ならびにロシア海軍)との対決やイランへの海側からの軍事的牽制といったトランプ政権が打ち出した安全保障戦略を達成するために必要な観点から予測し、構成をはじき出す方法だ。

いくつかの実戦的推測によると、アメリカ海軍の艦艇数が355隻程度にとどまる場合、中国海洋戦力と対峙しつつ、ロシアやイランなどへの軍事的対応もすることは不可能だと予測されている。南シナ海や東シナ海で中国海洋戦力に睨みを利かせつつ、イランをはじめとする中東方面に戦略を展開させたり、ロシア海軍と対峙したりといった「二方面作戦」で優勢を占めるには、少なくとも400隻艦隊、作戦家によっては500隻艦隊が必要で、しかも可及的速やかに誕生させることが急務だとされている。

しかしながら、トランプ大統領が主張するように「アメリカの鉄で、アメリカの労働者の手により」400隻艦隊や500隻艦隊を可及的速やかに生み出すことなど、現在のアメリカの軍艦製造キャパシティーから推測すると、ほぼ100%不可能だと考えざるを得ない。それならば、どうするべきか。そうした議論がされ始めているが、その点については稿を改めさせていただきたい。