続編始まる「VIVANT」、堺雅人さん演じる乃木ら別班は実在 他国の情報機関との違い
以前お伝えしたように、乃木ら6人が所属する自衛隊の秘密部隊「別班」は実在します。日本政府は公式答弁で存在を否定していますが、複数の関係者の証言によれば、別班(二別)はかつて、陸上幕僚監部2部情報1班特別勤務班とされ、現在は自衛隊情報本部内に属しています。
ただ、その能力と実態はVIVANTとは全く異なります。日本の情報組織の大きな特徴は「非合法な情報収集は基本的に行わない」「破壊工作活動もやらない」というものです。情報活動の経験のある元当局者らによれば、ドラマを視聴した本物の別班員は「海外での銃撃戦など想像もできない」と語ったそうです。本物の別班員は「コントローラー」と呼ばれ、主に海外にいるエージェントを使い、情報を収集する仕事をしています。
では、現実の世界でVIVANTと同じような組織は存在するのでしょうか。日米の知人たちは、「米中央情報局(CIA)とイスラエルの対外諜報機関、モサドが双璧だろう」と口をそろえます。
トランプ米大統領は昨年、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件をめぐり、これまで非公開とされてきた8万ページ近い文書の機密解除を命じました。そのなかで、米中央情報局(CIA)が日本で活動している事実も明らかになりました。CIAと接触があった日本政府の元当局者たちは、「CIA東京支局」を「ラングレーの東京ステーション」と呼びます。米バージニア州ラングレーにCIA本部があるからです。
CIAは破壊活動も行うと言われていますが、得意なのは情報操作による世論誘導工作です。第2次大戦後は、1953年のイランのモサデグ政権を打倒するため、この国のメディアなどを買収し、市民がモサデグ政権を打倒するよう誘導しました。
1954年の南米グアテマラ革命にも介入、昨年はトランプ政権が、ベネズエラのマドゥロ政権を打倒するためにCIAの活動を承認したことがニュースになりました。戦後間もない日本でも、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)で、参謀第2部 (G2) 部長だったチャールズ・ウィロビー少将が、日本の共産化を防ぐためとして様々な情報・工作活動を指揮し、後にCIA設立にも関与しました。
モサドの活動は、これまで明らかになっている範囲では、より派手で過激です。モサドはイスラエル建国から間もない1949年に創設されました。
日本政府元当局者がモサドの活動について「参考になる」と言って勧めてくれたのが、米映画「ミュンヘン」(スティーブン・スピルバーグ監督)でした。1972年のミュンヘン五輪の際、テロ組織「黒い9月」がイスラエル選手ら11人を殺害しました。イスラエルは復讐を誓い、モサド要員がパレスチナの要人を次々に暗殺していくという物語です。
モサドは実際に、1960年5月、アルゼンチンに潜んでいたナチス・ドイツの戦犯アドルフ・アイヒマンを逮捕し、イスラエルに連行したこともあります。
2024年9月には、レバノンなどでイスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーらが使っているポケットベルのような通信機器が相次いで爆発しました。モサドは、ヒズボラが秘密を守るためにスマホを使わずに「ポケベル」を発注した事実をつかみ、機器にあらかじめ火薬を仕込んでいたようです。
モサドは協力者などを通じて、イラン要人たちの位置情報をリアルタイムで把握していたとされます。今年2月には、イランの最高指導者ハメネイ師の暗殺につながりました。
VIVANT顔負けの活動を繰り広げるCIAとモサドですが、VIVANTとの違いは何でしょうか。ひとつには、徹底的な秘密保全があります。彼らは外部との連絡で基本的にスマホを使いません。協力者とも可能な限り、直接対面して接触します。
日本政府元当局者の一人は情報保全について「情報収集の能力を知られないためだ」と語ります。要員の数がわかるだけで能力が知られてしまうかもしれません。存在がわかれば、尾行され、活動に支障も出ます。
また、彼らの活動をバックアップする最高度の技術があります。米国は英、豪、カナダ、ニュージーランドとともに、アングロサクソン系5カ国の秘密情報ネットワーク「ファイブアイズ」が運用する「エシュロン」と呼ばれるシステムを使い、集めた膨大な電子情報を分析し、特定の言葉を使う送受信者などを絞り込み、情報収集や監視活動につなげていると言われます。
トランプ米大統領は第1次政権時代の2019年8月31日、Twitter(現在の・X)で、イランの衛星打ち上げ用ロケットの爆発事故について、高解像度の衛星画像を投稿しました。
情報収集能力が知られることを避けるため、わざと解像度が低い画像を投稿したという指摘が出ました。それでも、この画像は、商用衛星の画像では決して確認できない、トラックやキャニスターの特定部分の損傷をはっきりと写し出していました。
The United States of America was not involved in the catastrophic accident during final launch preparations for the Safir SLV Launch at Semnan Launch Site One in Iran. I wish Iran best wishes and good luck in determining what happened at Site One. pic.twitter.com/z0iDj2L0Y3
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 30, 2019
残念ながら、乃木たちはスマホをあちこちで使っているようですし、バックアップしてくれる巨大な情報網もないでしょう。日本政府は最近、内閣情報調査室を格上げした組織「国家情報局」の設置を決めました。ただ、要員は700人規模とされ、CIA要員の推定数とされる2万~25000人規模には到底及びません。CIAに20年以上勤務したジョセフ・デトラニ元米国家情報長官特別顧問は「最終的に日本もファイブアイズのメンバーになるべきだと思うが、そのためにはメンバーに加わってもファイブアイズが独占的に共有する機密情報の漏洩が起きないことを証明しなければならない」と語ります。
現実の情報機関の活動は格好の良いものではありません。CIAが介入したイランではモサデグ政権が倒れた後、パーレビ王政が復活。秘密情報機関などを使って市民を弾圧しました。のちのカーター米政権が人権外交を掲げ、パーレビ政権への支援を縮小すると、今度はイスラム革命が起きました。そして、今度はモサドやCIAも介入するイランを巡る紛争が起きています。
VIVANTはあくまでドラマとして楽しむのが良いのかもしれませんね。