VIVANTで、堺雅人演じる乃木らは緊迫した諜報活動や激しい銃撃戦も交え、国際テロ組織を追い詰めていく。ドラマの舞台として登場する架空の国「バルカ共和国」は、モンゴルでロケが行われたものだ。
別班を知る人物は言う。「戦前の日本軍と関係が深い場所。色々な思いを巡らせてしまった」。1939年には、当時の満洲国とモンゴル人民共和国の間の国境線を巡ってノモンハン事件が勃発した。
旧日本軍はスパイ養成のために設立された陸軍中野学校で知られているように、満州や南方戦線などで様々な情報戦を展開した。詳細な軍事情報の収集から、占領地で住民が反感を抱かないようにするための宣撫(せんぶ)工作、さらには敵政府と対決する勢力の育成など多岐にわたった。
韓国の康仁徳(カンインドク)元統一相は、韓国軍海兵隊に勤務していた1956年当時、日本の雑誌「大陸問題」を読んで驚いたという。元関東軍将校らが運営する研究所が発行し、全く知らないソ連の姿が浮き彫りになっていたからだ。
戦前、戦中を通じ、関東軍や満鉄調査部は幅広くソ連の情報を収集していた。康氏は「中国とソ連の情報は、日本が一番正確でした。シベリアの方言研究まで終えていました」と語る。
1969年、中ソが武力衝突したアムール川支流のダマンスキー島(中国名・珍宝島)事件が起きた。韓国政府は当時、日本の研究資料を参考に、事件がどこまで拡大するのか、詳しい分析を行ったという。
元関東軍情報将校の甲谷悦雄氏から1960年代に「朝鮮戦争の時に渡してあげたかった」と言われ、関東軍に投降したソ連軍将校が持ち込んだ「ソ連軍野外教練」の翻訳本を手渡されたという。ソウルに招かれた元関東軍将校の完倉寿郎氏は、非公開の研究会で、手元の資料も何も見ないでシベリア鉄道やウラジオストク港などの情報を詳しく語ってみせた。
別班の内情を知る人物の一人は「ドラマのように、国外で殺人や破壊工作をしろと言っているわけではありません。しかし、海外での情報収集や人脈作りなどで、現在の自衛隊が他国軍に大きく後れを取っていることは否めません」と語る。
政府・与党は今、武器輸出を制限している政府の「防衛装備移転三原則」を改正し、防衛装備品の海外輸出に弾みをつけようとしている。だが、関係者の表情は明るくない。関係者の一人は「三原則を変えたくらいで、輸出額が大きく伸びるとは思えません」と語る。輸出を巡る世論の理解を得ることも大事だが、海外の防衛駐在官の重要な任務として防衛装備品の輸出を位置付け、任地の軍関係者の人脈を一から作り直す必要があるという。
関係者はまた、こうも語る。「南西諸島で自衛隊の配備に反発する市民の声をよく聞きます。この場合、身分を隠す必要はありませんが、住民に理解してもらうために、継続的に島にとどまり、汗をかく努力をすべきです。住民に理解してもらえればもらえるほど、自衛隊が戦える環境が整うわけですから」。これも一種の「宣撫工作」と言えるのかもしれない。ミサイルを配備するだけが島を守る手段ではないという意味だろう
関係者はこう語った。「いずれも、小手先のルール改正だけでは追いつきません。日本という国をどうしたいのか、みんなで考えて、みんなで決心する問題だと思います」