ドローン先進国の中国
フーシはもちろんのこと、イラン軍(共和国軍、革命防衛隊)といえども、通常の航空戦力ではアメリカ軍に対抗することなど不可能である。しかしながら攻撃主体がフーシであれイランであれ、兵器としては安価といえるドローンは、アメリカ軍や高額なアメリカ製装備で身を固めた同盟国への非対称戦で極めて有効なことが今回、示された。
イラン軍が各種ドローンを取りそろえていることは確かであるが、何といってもドローン分野で突出しつつあるのは、中国人民解放軍である。中国軍が戦力を強化しつつあるドローンは、無人航空機(UAV:無人偵察機、無人攻撃機、無人戦闘機など)にとどまらず、無人水上艦艇(USV)、無人水中艦艇(UUV)それに無人車両(UGV)など、あらゆる軍事分野に及ぶ。イラン軍と中国軍を比較すると、海軍力や航空戦力については中国軍の方がはるかに強力である。その中国軍がドローン分野でも世界をリードし始めているため、アメリカ軍関係者は危惧の念に駆られている。
ドローンは軍用のみならず、民間機部門でも輸出産業として極めて有望なため、中国では官民挙げて膨大な数の企業体(多くがベンチャー企業)が各種開発に取り組んでいる。ドローンメーカーの数ではアメリカをしのぎ、今や軍用ドローンの種類や生産量では世界一と考えて差し支えない。
中国軍が保有するドローンに関する正確なデータは明らかにされていないものの、これまでのところ米軍情報機関などが発表しているだけでも中国軍が採用したドローンは、固定翼機とヘリコプターを含めて20種類前後に上る。うち、8種類は既に運用中で、確認されているだけでも1000機以上は実戦配備されているもようだ。中には、中国空軍ならびに中国海軍のドローン運用数はすでに6000機を超えていると分析する専門家もいるほどだ。
水陸両用の無人装甲車も
中国軍は無人潜水艇や無人水上艦などの開発も着実に進めている。さらには、かつてアメリカ海兵隊などでもアイデアが出たものの実現には至らなかった無人水陸両用装甲車まで手にしつつある。
無人水陸両用装甲車とも、無人水陸両用艇ともみなせる世界初の戦闘用水陸両用無人車は、武昌船舶重工集団が開発し「海鬣蜥(ウミイグアナ)」と命名された。全長12メートルの「ウミイグアナ」はウォータージェット推進により最高速度50ノットで海上を航走し、上陸すると胴体内に格納されていた無限軌道が姿を現して、最高時速20kmで走行する。
「ウミイグアナ」は、衛星測位システム(中国固有の銀河システム)を利用して遠隔操作で移動することもできるし、車体に装着した電子工学センサーとレーダー類を駆使して自律的に障害物をかわしながらプログラミングされた目標に到達することもできる。「ウミイグアナ」には、敵の艦艇と航空機を攻撃するために2挺の機関銃とミサイル垂直発射装置も装備されている。
「ウミイグアナ」は中国海軍が評価運用中で、今後、改良を加えられる。中国海軍陸戦隊は近い将来、実戦に投入可能な水陸両用の無人装甲車を手にすることになる。
アメリカ軍関係者の間では、中国軍の戦闘用ドローン(UAV、USV、UUV、UGV)の多くは、アメリカ軍の技術を盗用したものだと非難が強まっている。もし本当に、アメリカの最先端技術が中国メーカーに流れているならば、アメリカ軍としては中国軍の各種ドローン兵器に一層の警戒を要することになる。
信じられないほど遅れている日本
中国軍は膨大な数の無人航空機の生産・配備を進め、様々な分野でドローンの導入を進める。そうした各種無人兵器の戦力化の一方で、陸軍将校を中心に30万人もの人員削減を達成しているのである。
アメリカやNATO諸国でも軍事組織での大規模な人員削減はやむを得ない趨勢となっている。空軍、海軍、陸軍でも各種ドローンを導入して、人員は縮小させても戦力はむしろ強化させようと努力している。このような国際的軍事常識に照らすと、少子化が進む日本では世界に先駆け、各種ドローン兵器によって防衛力の強化を推進しなければならないことになる。
ところが、このような軍事常識に背を向け、中国軍と対極にあるのが自衛隊なのだ。たとえばドローン分野においては、陸上自衛隊はFFOS、FFRSと呼ばれる無人偵察機(ヘリコプター)ならびにJUXS-S1という小型固定翼機を運用しているが、中国軍やフーシのものと比べると「おもちゃのラジコン」程度のレベルの代物である。
米軍頼みの防衛省・自衛隊は、無人航空機の開発調達に関心を示さなかったため、軍用ドローンと呼べる代物を装備していないという、世界でも稀な軍事組織となってしまったのである。無人掃海艇(機雷を除去する無人機)を除く無人水中艦艇や無人水上艦艇それに無人車両の分野でも、自衛隊は何も保有していない。要するに、ドローン戦力では自衛隊は、中国軍はもとより数多くの国々の軍隊とは比較することができないほど立ち遅れているのが現実なのである。