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失敗から学べ 日本に必要なのは「兵器売り込み専門家集団」だ

ミリタリーリポート@アメリカ
調達が中止された「EFV」(写真:アメリカ海兵隊)

スローガンだけでは兵器の輸出はできない

海洋安全保障関連装備・防衛技術展示会である「MAST Asia 2017」(6月12日〜14日)がこのほど、幕張メッセで開催された。アメリカ軍関係者の中には、日本政府が積極的に支援して開催される国際武器見本市が盛況になってきたため、防衛装備移転3原則を打ち出した安倍政権の武器輸出解禁政策が順調に推移していると評価している人も少なくない。

しかし、その展示会で紹介された三菱重工業の水陸両用車(MAV:ただしMAVは三菱重工業独自の社内研究であり、MAVが完成したわけではないため、展示されたのはMAVのコンセプト)の開発状況を知る海兵隊関係者たちからは、日本防衛当局の武器輸出能力ならびに武器調達姿勢に対して厳しい目が向けられている。
(本コラムで論ずるMAVや日本政府の武器輸出・調達に関する見解は、三菱重工業の見解とも、アメリカ海兵隊の公式見解とも無関係であり、あくまで筆者個人の意見である)

「MAST Asia 2017」に展示されたMAVのコンセプト(三菱重工業)

アメリカの 「国営軍需商社」


アメリカ国防長官直属の軍政機関である国防長官府(OSD)が管轄している組織のなかに国防安全保障協力局(Defense Security Cooperation Agency: DSCA)という大規模な組織がある。

日本ではさほど知られておらず、大規模自然災害時に際しての災害救援活動や人道支援活動(HA/DR)などを采配する組織と理解されているようだ。それらは任務の一部ではあるが、「DSCA」にとっては付属的任務であって、主たる任務は軍需関連装備・サービス輸出入の管理——というよりは「国営軍需商社」とでもいうべき役割を担っている。

海外軍需市場(もちろん同盟国や友好国に限られるが)に売り込みを計りたいアメリカの軍需関連企業は、「DSCA」を通さなければ海外に売り込むことはできず、その逆に海外から軍需関連装備や技術を輸入する際にもここをを通さなければならない。この組織は兵器や軍事技術に関するエキスパート集団であると同時に、国際軍需マーケットに幅広い人脈と情報網を張り巡らせた、いわば“兵器売り込み”集団でもある。

ロッキード・マーチンやボーイングといった巨大な軍需関連メーカーといえども、想像を絶するほどダーティービジネスが横行する国際兵器市場で商取引をするには、このような「国営軍需商社」の支援がなければ身動きがとれないのは、業界では常識だ。

魑魅魍魎が跋扈する国際軍需マーケット



そのような“超”特殊な市場環境に加えて、現代の兵器や軍事技術の輸出は、当然のことながら熾烈な国際競争に打ち勝てるだけの優秀な兵器や技術を開発し製造しなければならない。そのため、最先端技術産業からいわゆる重厚長大産業まで幅広い分野のメーカーを巻き込んで各種技術の進展、雇用の確保、経済発展に寄与する国家戦略に立脚した態勢が固まっていなければ、とても競争に打ち勝つことはできない。

中国やロシアやイスラエルはもとより、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、ベルギー、イタリアをはじめとする西側先進諸国の多くも「DSCA」に準ずる、あるいはそれより強力な、「国営軍需商社」的政府組織を擁し、自国の軍需関連企業が造り出す兵器や各種軍事技術の輸出を促進しているのが現状だ。

日本にはそのような“国際軍需取引業界”に精通した専門家集団を擁した政府機関は存在しないが、防衛省や経産省などが牽引役となって、日本企業が自衛隊向けに生み出している高性能兵器を海外に売り込もうという試みがなされている。

たとえば2015年から2016年にかけて「そうりゅう型潜水艦」(三菱重工業、川崎重工業)のオーストラリアへの売り込みを日本政府が主導したことがある。日本政府をはじめ多くのメディアは、安倍首相とオーストラリアのアボット首相(当時)の良好な関係や、「そうりゅう型潜水艦」の性能は国際的にも高く評価されていることなどから、潜水艦輸出が成功するかのごとき情報を流していた。

しかしながら「そうりゅう型潜水艦」がオーストラリアへの売り込み競争(以前よりフランスとドイツが名乗りを上げていた)に加わった当初から、

「フランスやドイツの潜水艦より『そうりゅう』が高性能なのは潜水艦関係者ならば誰でも知っている。しかし、潜水艦の売り込み、まして史上最大規模の調達額といわれる取引に、高性能だけで打ち勝つことなどとても無理だ」

「独裁国家ならばいざ知らず、首相同士の関係が良好だから、あるいはアボット首相が『そうりゅう』を評価したから、といった程度で大規模な国家プロジェクトの帰趨が決定することはあり得ない。フランス(フランスの潜水艦は準国営企業が開発する)は5年以上も前からオーストラリア海軍内部に人脈を構築しているし、遅ればせながらドイツ政府も売り込み工作を加速させている。後から参入してきた日本にはとても勝ち目はない」

「国際兵器取引とは無縁だった日本の役人や、武器売り込みの経験がない日本のメーカーでは売り込めない。この市場は信じられないほどダーティーマーケット。自動車の輸出とはわけが違う」

といった声があがっていた。結果、武器輸出大国の一つであるフランスが契約を勝ち取った。

温室育ちの防衛装備移転3原則

オーストラリアへの潜水艦売り込み失敗は、あたかも成功するかのごとき言動をなしていた政府関係者などのメンツが潰れただけだ。しかし、この失敗を教訓として生かさないと、将来、日本の潜水艦技術の進展が阻害されたり、巨額の税金が無駄になってしまったりすることはありうるだろう。

残念ながら、このような事態はすでに起きつつある。それを物語っているのが、「MAST」で展示された三菱重工業が社内研究として独自に開発を進めてきた「三菱水陸両用車」(MAV)のコンセプトである。

調達が中止された「EFV」(写真:アメリカ海兵隊)

「MAV」は、アメリカ海兵隊が半世紀近くにわたって使い続けてきている「AAV-7」水陸両用強襲車に取って代わる最新型の軍用水陸両用車のコンセプトである。「AAV-7」は、1960年代に開発が始まり1971年にアメリカ海兵隊が正式装備として採用した。しかし既に1980年代からアメリカ海兵隊では、各種ミサイルが発達した現代戦にはそぐわないものと考え始めた。

そこで、1980年代後半に、高速で水上を航走できる新型の水陸両用車「AAAV」(先進水陸両用強襲車)の研究に着手し、その後「より早く、より遠くへ」という海兵隊のコンセプトを実現するために極めて巨額の予算が投入され、「EFV」(遠征戦闘車)が開発された。開発したのはアメリカの重機械メーカー、ジェネラル・ダイナミクスである。

しかしながら、「EFV」は問題山積の車両であったうえ、調達価格も考えられないくらい高額になってしまったため、オバマ政権によって研究・計画が打ち切られた。結局アメリカ海兵隊は、「時代遅れのAAV-7」に取って代わる21世紀の戦場に対応できる新型水陸両用車を手にすることができなくなってしまった。

時代遅れとなったアメリカ海兵隊の「AAV-7」(写真:北村氏撮影)

化石のようになりつつある「AAV-7」を今後も(計画では2030年代まで)使い続けなければならない状況に陥ったアメリカ海兵隊は、なんとかして現代戦に適する「高速かつ長距離の水上航走可能な」かつ「EFVのような超高額でない」新型水陸両用車を手に入れたいと常々考えていた。そのような状況で、海兵隊関係者たちは、三菱重工業のMAVの情報に接した(2014年から2015年ごろ)。彼らの目には「MAVが完成した暁には、EFV以上の高速水上航走能力を持ち、EFVにはなかった諸性能をも実現させることが可能な、まさにアメリカ海兵隊が求める新型水陸両用車である」と映った。

もし日本政府に「DSCA」のような組織、もしくはそのような専門家集団が存在していたならば、世界中の軍隊とりわけ同盟軍である米軍の様々な防衛装備品に関する開発状況や要求などに関する情報網を張り巡らせ、アメリカが三菱重工業の研究に関心を示している動きをキャッチすることができただろう。

そして、日本政府はアメリカ海兵隊にペンタゴン首脳部、ホワイトハウス、しかるべき連邦議員などを動かして、「DSCA」に「MAV」の採用への途を開くよう圧力をかけさせることができたはずだ。(日本メーカーのMAVが何らかの形で海兵隊に採用される場合にはアメリカ国内法によって三菱重工業はアメリカに子会社を設立しなければならない可能性はあるが)

実際に、筆者の周辺では
「MAVを完成させるには、第2次世界大戦以来、水陸両用車を使い続けてきたアメリカ海兵隊の経験とノウハウが不可欠だ。海兵隊との共同開発という形で新型水陸両用車を誕生させれば、海兵隊も夢が実現するし、水陸両用戦力を構築し始めた自衛隊も大助かりだし、AAV-7を使用している各国も新型MAVを採用することになりMAVの個体価格も大幅に抑えることができるに違いない」といった希望も耳にするようになった。

「国営軍需商社」を欠いた日本国防当局の失策

ところが、日本国防当局はアメリカ海兵隊の頭痛の種となっている「AAV-7」を58両も調達する決定をしてしまった。

「時代遅れのAAV-7」を1330両も保有している海兵隊は、いくらでも自衛隊に中古車両を提供することは可能であった。しかし日本側は「中古では嫌だ」と言ってきたという。そこで、とうの昔に閉じられてしまった製造ラインを再開させて日本向けの「時代遅れ」の新車を製造することになった。そのため、1両あたりの調達価格は7億円という途方もない値段になってしまったのだ。

筆者の周辺では「海兵隊から中古AAV-7を手に入れれば“タダ”だったのに」「BAE(日本向けAAV-7は全車両をBAE Systemsが製造輸出する)は笑いが止まらない」といった驚愕の声が聞こえてきたものだ。そして、「50両以上ものAAV-7を自衛隊が手にしてしまうと、おそらくそれで水陸両用車の調達は当面ストップとなるだろう。いくら自衛隊が水陸両用能力を手にしようとしているといっても、アメリカ海兵隊のような規模の組織構築を目指している動きはない。とすると、水陸両用車の調達はAAV-7で打ち切りということになるだろう。MAVの開発はどうなってしまうのだろうか?」といった疑問も寄せられた。

この問いかけは、「DSCA」のような組織を欠いた日本国防当局の問題点ということができよう。

日本国防当局が「AAV-7」を、実戦配備用としてまとめ買いしてしまっては、いくら海兵隊関係者たちが「MAV」を手に入れたいと考えても、ペンタゴンやトランプ政権に対して「日本には、海兵隊にとってぜひとも手に入れたい新型水陸両用車技術がある」と説得することもできない。

防衛装備移転3原則という方針は打ち出されたものの、その政策を実施する牽引車となるべき専門家集団を欠いているがために、日本企業の優秀な技術が先細りしかねない状況を作り出してしまっている。

武器輸出そのものに関する賛否は別として防衛装備移転3原則に基づいた政策を遂行する組織を構築しなければならない。そのような努力なしでは、税金の無駄遣いは必至である。