コロナ禍で外食が難しかった2020年のアメリカ。そんな閉塞(へいそく)感の中で、人々の心とおなかを満たしたのがメリーランド州名物の「ブルークラブ」です。ワゴンで売られている蒸したてを自宅に持ち帰り、家族で豪快にほじくり出す時間は、最高にぜいたくなひととき。アメリカ東海岸の「恒例行事」に変わった絶品ガニの魅力を、現地記者がお届けします。
この記事は、朝日新聞(デジタル版)の連載「地球を食べる」で2021年2月16日に配信された記事を再構成してお届けしています。本編記事はこちらから
ブルークラブのポイント
- 甘い身と激辛スパイスが中毒性抜群。小ぶりな身の甘さと、たっぷり振りかけられた刺激的なスパイスが絶妙にマッチ
- 木づちで叩き割るワイルドな食体験 。ツメを木づちで叩き割り、身をほじくり出す豪快なスタイル。濃厚なカニミソも味わえる
- 驚きの神コスパ。ワゴン販売なら1個3〜4ドル(当時)と手頃。6個もあればお腹いっぱいになれる最強ストリートグルメ
もっと知りたい
1, コロナ禍で大人気となった「カニワゴン」
外食が制限された2020年、スーパーの駐車場に現れる移動販売車「カニワゴン」に記者は何度も通った。老舗レストラン「フーパーズ」が週末ごとに各地を巡回し、その場で蒸したてを提供。先が見えない危機的な状況の中で、このワゴンを待つことが記者自身を含め、多くの人々の楽しみとなっていた
2, 「ウィンウィン」なビジネスモデル
このワゴン販売は、スーパーにとっても大きなメリットがあった。カニを目当てに来た客が店で買い物をし、逆に買い物客がワゴンに気づいてカニを買うという相乗効果が。シーフードレストランが少ない地域を狙って出店する戦略により、競合を避けながら地域に根ざしたサービスとして定着した
3, 人と人をつなぐ「ソーシャル・シング」
現地の支配人は、カニを「社交上の食べ物(ソーシャル・シング)」と呼ぶ。カニを食べるときは、手も机も汁やスパイスで汚れ、格好良く食べるのは不可能。だからこそ、気心の知れた家族や友人と無心になって囲むもの。物理的に距離を置かなければならなかったコロナ禍で、心の触れ合いをもたらす重要な役割を果たした
記者の食レポ
記者は、ブルークラブをほじる時間に、かつて赴任していた金沢の冬を思い出した。厳しい寒さの中で食べた「香箱(こうばこ)ガニ」の味や、お世話になった人がふるまってくれたカニの思い出。国やカニの種類は違えども、湯気とともに広がる香りと、大切な人と過ごす豊かな時間は、万国共通の幸せの象徴といえるだろう