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主権者教育「先進国」フィンランド「社会は変えられる」を実感 自然体で政治とふれる

World Now 更新日: 公開日:
フィンランド・エスポー市の中学生、スヴィ・ハヴさん=2025年10月、フィンランド・エスポー、秋山訓子撮影

フィンランドは、若者が主体的に政治や社会に参加する「主権者教育」がさかんだ。政治とつながり、社会を変えるいろいろな方法を学校で学ぶ。

フィンランドの首都ヘルシンキに隣接する第二の都市、エスポー。市立のマルティンカッリオ小中学校の体育館には2025年11月、「投票箱」が置いてあった。若者が立候補し、そして若者が投票するエスポー市議会の選挙用だ。投票期間は11月3日から21日。「この学校の投票率は80%以上でとても高い。投票を促しているからです。民主主義は練習しないとね」と、同校で社会と歴史を教えるミカ・ポイケラさん(53)。

マルティンカッリオ小中学校で社会と歴史を教えるミカ・ポイケラさん=2025年10月、フィンランド・エスポー、秋山訓子撮影

若者による自治体議会は、通常の市議会とは別に設置される。2015年に法制化され、原則として全ての自治体が置く。2年に一度選挙があり、13~18歳でその自治体に住む若者は誰でも立候補でき、投票も同じ年代の若者がする。自治体に選挙活動用の写真を撮ってもらい、自分でポスターやSNSを作成して選挙活動も行う。

エスポー市の若者市議会は1カ月に1度本会議がある。他に個別の政策の議論を深めるための委員会もある。今の議会では、公立プールの営業時間変更や学校での言語教育の充実、携帯電話の使用制限や小学校での投資スキル教育強化、市内にペットボトル回収ボックスを設置する提案など多くの提言を行っている。避妊具への財政補助など、これまでに提言から実現した政策もあるという。

ヘルシンキ市内の図書館内にあった、若者市議会の候補者のポスターと投票所が。投票はその場で電子投票=2025年11月、フィンランド・ヘルシンキ、ラクソ美奈子撮影

若者による国会もある。こちらは政策提言などはなく、象徴的な意味合いが強いが、2年に一度、主に日本の中3にあたる若者が全国から参加する。議長は本物の議員で、若者が質問をし現役の大臣が答弁もする。若者のメンタルヘルス、自然環境、オオカミの保護と獣害など質問は多岐にわたるという。記者役の生徒も参加し、記者会見もして学校新聞などで報じられるという。

フィンランドには、このような自治体や国の若者議会のほかにも、若者が政治を身近に感じ、社会とつながる方法が多く用意されている。

意見の違いを理解し、合意点を探る

冒頭のマルティンカッリオ小中学校。教師のポイケラさんは「歴史の授業で、意見が分かれることもみんなで議論します。たとえば今のパレスチナ、ガザの話などです。意見の違いがあることを理解したうえで、合意点がないか探ります」。

9年生(日本の中3)のヴェーティ・アウテレさん(14)は「保健の授業で性的少数者の議論もしました。解決が難しくても、みんなで意見を出し合います」。シモ・ユントゥネン校長(62)も「思春期には自分の意見を言いたがらない生徒も多いですが、自分で考え意見を口にするのはとても大事なことです。世界は白黒はっきりつけられないことが多いですが、人生には自分自身で決めなければいけない場面はたくさんあります。自分で自分の面倒を見なければいけません。だから議論が必要なのです。そのうえで自分で判断する力を養うのです」と、難しい問題だからこそ議論を後押しするという。

マルティンカッリオ小中学校のシモ・ユントゥネン校長=2025年10月、フィンランド・エスポー、秋山訓子撮影

各種の選挙が近づくと、NPOが学校や地域の団体、図書館などと連携し、若者向けの模擬選挙を行う。本物の候補者に、選挙権を持たない18歳未満の若者が投票できる。2023年の国政選挙を前にした模擬投票の結果は、本番の選挙と微妙に違ったという。NPOは他にも、「政治週間」といって、社会運動の起こし方や政治家と会うにはどうしたらいいかを教え、国の政策決定を理解するためのゲームをして若者が政治に親しめるようにしている。

また、日本にもあるが、候補者と有権者が同じ質問に答えることで、自分の考えと一致度の高い候補者がわかるアプリもNPOは提供している。

若者の政治参加を支援するNPOのシッラ・カッコラさん=2025年10月、フィンランド・ヘルシンキ、秋山訓子撮影

さらに、教育現場でメディアリテラシー(情報を見極める力)を身につけることも重視。国語や社会、美術などいろいろな授業で、偽情報やフェイクニュース、詐欺の見分け方、ファクトチェックの重要性などを学ぶ。

上昇する若者の投票率

そういった努力の結果もあるのか、NPOの調査では、フィンランドの15~29歳のうち、2024年に政治に関心があると答えた層が約63%にのぼった。2008年は27%だったという。教育庁によると2023年の総選挙で、18歳から24歳の投票率は58%。全体の72%に比べれば低い。しかし、2015年の投票率は47%だったので上昇している。日本の2024年の衆院選の投票率は、10代が39%、20代が35%で、全年代を通じた投票率は54%だ。

アウテレさんは、「政治に関心はあるし、友達同士でもよく話をする。出生率を高めるためにどうしたらいいかとか普通に話題に出る。2年後の若者市議会には参加してみたい」。スヴィ・ハヴさん(15)は、「社会を変えるにはどういう方法があるのか、学校で教えてもらえる。若者議会もあるし、課題があったらどう解決するのか授業などで考えることもある」。政治や社会変革への意欲が極めて自然体だ。

若者の投票率が他の年代に比べて低いなど、問題はもちろんある。ただ、社会や政治と若者を結ぶ機会はとても充実している。