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自治体の投票率アップ策 高校に期日前投票所・ネット投票「選挙権は民主政治の基盤」

World Now 更新日: 公開日:
今回の衆院選でも、移動期日前投票所のバス内で高校生が投票した=伊那市提供

若年層の投票率向上や、高齢者・障がい者の投票機会確保のため、自治体はどのような取り組みをしているのか。高校での期日前投票や、ネット投票を模索する動きなどを追った。

10月27日に投開票された日本の衆議院選。首相就任から8日後の解散で戦後最短、投開票も首相就任から26日後で戦後最短となった。準備期間が短かっただけに、現場の自治体は対応に追われた。

茨城県つくば市は、もともと予定していた市長選・市議選と同日の「トリプル選」になったことで、投票箱を新たに購入するなど対応に追われた。肝いりの構想も見送りを余儀なくされた。

つくば市が目指す全国初の「ネット投票」

つくば市議会で9月12日、「オンデマンド型移動期日前投票所」をめぐり議論が交わされた。投票箱や立会人をのせたワゴン車のことで、身体が不自由で投票所まで行けない有権者が事前に予約すると自宅の近くに来て、投票できる仕組みだ。10月27日の市長選と市議選での実施をめざし、8月に市内全域で実証実験をしていた。

推進する政策イノベーション部の担当者は、「実証実験では、問題なく投票することができた。次の投票所への移動も遅れることなく到着した」などと答弁した。だが、選挙管理委員会は「審査の結果、導入は見送る」と明らかに。選管の議論で、「衆院選と同日になった場合、衆院選と市長選・市議選では期日前投票ができる日数が異なるなどし、混乱するのではないか」といった意見が出たからだという。

「オンデマンド型移動投票所」構想のきっかけは、同市が実現をめざす全国初のインターネット投票だった。インターネット投票は、エストニアなどで行われているが、本人確認やデータ改ざんなどの壁があり、日本では進んでいない。

つくば市は、マイナンバーカードとブロックチェーン(分散型台帳)技術を使った提案を企業から受け、実証実験を始めた。2018~2020年度のタブレットやPC、スマートフォンを使った技術検証を経て、2021年度には県内の中高一貫校の生徒会選挙で実証実験をし、2022年度には模擬投票もした。

8月につくば市内でオンデマンド期日前投票の実証実験が実施された=同市提供

2022年4月には、AI(人工知能)やビッグデータなどの技術を活用し、暮らしの課題解決を目指す政府の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に指定された。身体が不自由で投票所に行けない有権者を対象にネット投票を実現することを柱のひとつに据え、10月の市長選・市議選での実施を国に提案していた。

しかし、壁となったのは公職選挙法だった。公選法では、投票所に立会人や管理者がいることが前提とされている。特例として、重度の障がいがある人などを対象に郵便投票を認めている。

総務省は、立会人や管理者が不在の投票をどこまで認めるかは選挙の根幹に関わるため、「国会の議論が必要で、特区で実験的に行うべきではない」との見解を示し、ネット投票は見送られたという。そこで市は、移動投票所の検討を始めた。今年1月には山間部を対象に、8月には市内全域で実証実験をした。

若年層の投票率アップにあの手この手

2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、若年層の投票率向上に取り組む自治体もある。

長野県伊那市は2022年の参院選で、国政選挙では初めて市内の高校4校に、小型バスに投票箱や記載台などを積んだ移動期日前投票所を設けた。18歳の投票率は36.14%にとどまったが、そのうち高校生の投票率は66.29%に上った。今回の衆院選でも、4校に昼休みや放課後に期日前投票所を設置した。

立会人に高校生や大学生を起用する事例も広がる。

東京都中央区は、区内在住の18歳~20歳代を対象にした立会人を募集している。「有権者になったばかりの若い有権者にも、選挙への関心を持ってほしい」という。

10月の衆院選では、対象者109人に呼びかけたところ、期日前と投開票日で延べ21人から応募があった。期日前投票の立会人に応募した大学1年の木山雄斗さん(18)は「成人になり、投票はどのようなものかと関心があって応募しました。政治は難しいと感じていましたが、関心が高まってニュースや選挙公報を見るようになりました」と話した。

各地で投票時間を短縮、人手不足など理由

こうした投票機会の確保に取り組む自治体がある一方で、投票の終了時間をそれまでの午後8時から6時などに繰り上げる自治体が増えている。

総務省によると、今回の衆院選での繰り上げ率は投票所全体で39.2%にのぼった。夜の時間帯の投票者数が少ないことや、期日前投票が定着したこと、立会人の確保が難しいなどが理由だ。全国で最も繰り上げ率が高かったのは栃木県(100%)で、茨城県(96.7%)、福島県(94.0%)と続く。全国の投票率は戦後3番目に低い53.85%で、栃木県の投票率は前回より2.82ポイント低い50.24%だった。

公選法40条は「投票所は、午前七時に開き、午後八時に閉じる」と規定している。その上で、「投票に支障を来さないと認められる特別の事情のある場合に限り」、繰り上げができるとしている。市町村の選管が都道府県選管に報告すれば繰り上げでき、議会などの承認は必要ない。

駒沢大学名誉教授の大山礼子氏(政治制度論)は「選挙権は民主政治の基盤なので、夜の時間帯の投票者が少ないといった理由で繰り上げを正当化すべきではない」と指摘する。