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台湾与党を大敗させた有権者の「失望」とは

虹色台湾
統一地方選を終えた翌週、民進党の幹部会議で党主席辞任のあいさつをする蔡英文総統=11月28日、西本秀撮影

与党民進党の本部は、台北市の中心街にある台北駅近くの雑居ビルに入居している。11月24日午後9時すぎ、8階の記者会見場に、党主席を兼ねる蔡英文総統が足早に入ってきた。待ち構えた報道カメラのフラッシュが追いかける。

「私たちの努力が足りず、支持者を失望させてしまった。心からお詫びしたい」。黒色のスーツ姿の蔡氏は演壇で、用意した原稿を淡々と読み上げ、党主席辞任を表明した。

この日は、統一地方選の投開票日。夜になって、地元メディアの速報が、各地で与党の現職首長や候補らが次々と落選し、野党国民党の候補が当選を決める事態を伝えていた。

選挙集会に参加して声援を送る市民たち=西本秀撮影

4年に1度の統一地方選では、台湾全土の県・市の首長や議員、下位自治体である郷・鎮の首長、里長と呼ばれる町内会長などを同時に改選する。

政党同士が総がかりでぶつかり合うため、2020年次期総統選の前哨戦と位置づけられていた。なかでも、主要な計22の県市の首長選が注目され、2大政党の勢力図がどう塗り変わるかが焦点だった。

結果は、前回14年の地方選で13県市の首長ポストを勝ち取った民進党は6県市に半減。国民党は6県市から15県市となり、倍増以上の大勝利だった。民進党が失った自治体の中には、「直轄市」と呼ばれる主要都市である高雄市や台中市も含まれていた。

選挙結果は、現地で取材をしていた私にとっても、想定を超えていた。2016年の就任直後は7割あった蔡氏の支持率は、その後は下降線をたどり、最近は3割を切っていた。労働基準法の改正や公務員の年金改革など内政をめぐり、各方面で不満が高まっていた。ただ、苦戦は予想しつつも、恥ずかしながら、ここまで与党が負けるとは思っていなかったのだ。蔡氏が自身で指摘した、人々の「失望」とは何だったのか。

今回の地方選を象徴するのは、南部の高雄市長選だろう。民進党が過去20年にわたり市長を送り出し、伝統的に「牙城」としてきた地域だ。その街で異変が起きた。

国民党から出馬した落下傘候補である韓国瑜(ハン・クオユイ)氏が、当初は当選確実とみられていた同じく新顔の民進党の陳其邁(チェン・チーマイ)氏を大差で破った。

自らの坊主頭もネタにして、軽妙な演説をする韓氏の人気に火がついたのは、最初はネット上だった。フェイスブックに投稿された動画などに若者らが反応し、地元メディアが後追いして話題が増幅。選挙戦終盤には、韓氏がその他の県市の国民党候補の応援にまで出かけるようになり、「韓流現象」と呼ばれた。

高雄市長選の集会の舞台に立つ国民党の韓国瑜氏(中央)=11月14日、西本秀撮影

韓氏の主張はシンプルだ。「台北などがある北部に比べ、南部の高雄は取り残され、落ちぶれてしまった。私が市長になれば、中国南部や東南アジアに高雄産の農産物や製品を売り込み、先方から観光客も呼び込む。そうすれば、高雄は復活する」――。巨大市場である中国側との関係改善を打ち出したのが、民進党との違いだった。

民進党はもともと台湾独立志向の政党だ。蔡政権が発足して以降、中国政府は台湾への観光客数を抑えるなど、冷淡な対応を続けている。実際に台湾経済に与えている影響ははっきりしないが、現地で取材した商工業者は、「地域の景気が良くないのは、中国との関係が悪化したからだ」などと訴えた。蔡氏は中台関係の「現状維持」を主張してきただけに、一部の人々は民進党に失望を抱いた。

高雄市長選に立候補した民進党の陳其邁氏(中央)と話す蔡英文総統=11月4日、西本秀撮影

ほかにも失望はあった。かつて独裁政党だった国民党に対して、野党として長く民主化を求めてきた民進党の存在が、国民党と同じ「既成政党」になってしまった点だ。中央と異なり、民進党市政が長年続いてきた高雄では顕著だった。

代表的なのは「2世政治家」だ。高雄市長選で韓氏に敗れた陳氏は、父親も立法委員(国会議員)を務め、自身も30代で立法委員となった。高雄では、陳水扁(チェン・ショイピエン)元総統の長男も民進党から市議選に立候補した。

高雄市議選に立候補した長男の陳致中氏にたすきをかける元総統の陳水扁氏(左)=10月28日、台湾の自由時報提供

台湾で最初の政権交代を実現させ、民主化を象徴する陳元総統には、現在も熱狂的な支持者がいる。一方で、金銭スキャンダルの追及を受け、冷ややかな目で見る市民も多い。取材した地元の女性は、「彼らは足元の人々のことを忘れてしまっている」と幻滅を隠さなかった。一方の韓氏は選挙戦で国民党色を抑えて、「庶民の味方」を演じた。対比は鮮やかだった。

民進党結党から30年以上が過ぎ、体を張って民主化運動に取り組んだ政治家の多くは後景に去っている。その貢献を知らない若い世代も増えた。

党主席を辞任した蔡氏の後、代理主席に就いた林右昌・基隆市長は今回の惨敗を受けて、「人々が民進党に恩義を感じてくれた時代は過ぎた」「民進党は今後、過去の民主化への貢献を語らない。未来への貢献を語ろう」と語った。

民進党から一定数の有権者が去った理由に触れたが、過去の地方選の流れから、見えてくるものがある。

◯民進党 6県市(前々回)→13県市(前回)→6県市(今回)

◯国民党 15県市(前々回)→6県市(前回)→15県市(今回)

(全22県市、残りは無所属首長。前々回は09年と10年に分散実施、前回は14年)

 

民進党と国民党が獲得した県市の数を比べると、今回は前々回の数に揺り戻されたことが分かる。

前回14年地方選は当時、国民党の馬英九(マー・インチウ)政権が進めた対中融和路線に反対し、若者らが立法院を占拠した「ひまわり学生運動」の直後だった。国民党は大敗し、その勢いのまま、民進党は16年の総統選で政権交代を果たし、蔡氏が総統になった。

今回は前回と逆の現象が生じた。22県市の首長選を総合した得票率が以下だが、前回と今回とで両党の数字がほぼ入れ替わった。

 

◯民進党の得票率 約48%(前回)約39%(今回)

◯国民党の得票率 約41%(前回)約49%(今回)

 

獲得した県市のポスト数は倍増や半減と大きく動いているものの、票のかたまりで見ると投票者のおおよそ1割程度の出入りが大勢を決している。首長選は、いわゆる小選挙区制となるためだ。

台湾では、現地で「中間選民」とも呼ばれる無党派層が次第に増えている。これまで台湾政治を動かしてきた、中国との統一か独立かといった党派対立や、民主化をめぐる闘争ではなく、2大政党のはざまで、個人の生活感覚を重視して投票する人々だ。

今回、韓流現象にかき消されてしまったが、中心都市である台北市では、無所属の柯文哲市長が2大政党の候補を抑えて再選を果たした。柯氏の得票率は4割に達した。受け皿があれば流れ込む、潜在的な無党派層の存在を可視化させた。柯氏は地元メディアから、「将来の総統候補」とも目されている。

集会で演説する無所属の台北市長、柯文哲氏=10月20日、西本秀撮影

無党派層の増加は、台湾の民主主義や人々の意識が、新たな段階に入ったことを示している。一方で揺れの速さは、人々の不満や焦り、政治へのいら立ちも感じさせる事態だ。

 

地方選での民進党惨敗を受けて、蔡氏の再選がかかる2020年総統選の構図は流動化している。民進党が団結して、再び蔡氏を総統候補に指名するのか、野党や無所属からだれが出てくるのか確定していない。揺れ動く中間の1割、もしくは潜在的な4割の存在が、今後の台湾政治の行方を決めるカギとなる。

今回の台湾メシ

高雄市長選の取材に出かけた機会に、知人に教えてもらった人気の牛肉麺の食堂「港園牛肉麺館」(高雄市鹽埕區大成街55号)に立ち寄った。レジの女性に聞くと「汁なし牛肉麺」(110台湾㌦、約400円)をすすめられたので注文。うまみたっぷりのタレが染みこんだコシのある太麺を、おいしくいただきました。

コシのある太麺がおいしい「汁なし牛肉麺」=西本秀撮影
高雄市内の食堂「港園牛肉麺館」=西本秀撮影