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「恐怖戦術」が不発に終わった米国の中間選挙

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中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2018年11月7日、ワシントン、ランハム裕子撮影
中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2018年11月7日、ワシントン、ランハム裕子撮影

アメリカの中間選挙が終わって10日が過ぎたが、フロリダ上院選やジョージア州知事選のようにまだ決着がついていない選挙が複数残るほど、今回の選挙は接戦が多かった。結果だけ見れば上院は共和党が1議席増の51議席(ミシシッピ州補選では再選挙となったが共和党が勝利する可能性があり、フロリダ州は再集計中なので最大で53議席となる可能性あり)で過半数を維持した一方、下院では民主党が36議席増やして過半数を確保した(6議席未定)。また州知事選では民主党が7つの州を奪ったが全体では23州しか保持出来ておらず、共和党の方が若干(27)上回っている(ジョージア、フロリダ両州では再集計が行われるほどの接戦だった)。

 「青い波」は起こったか

選挙前はトランプ大統領への批判が高まり、民主党が津波のように議席を奪っていく「青い波(Blue Wave)」が起きるかもしれないと期待されていた(青は民主党のシンボルカラー)。確かに下院では民主党が大幅に議席を増やしたが、通常第一期目の大統領の中間選挙は大統領の政党が負ける傾向が強く、今回の民主党は大勝したとは言い切れない。また多くの選挙区で接戦となっており、それが民主党の圧勝という印象にならない原因でもある。

上院は元々共和党の改選議席が8、民主党の改選議席が25もあり、しかも共和党が強いミズーリ、ノースダコタ、インディアナの議席を民主党が失うことも想定内の状況ではあった。しかし、共和党が長く勝利してきたアリゾナ州で28年ぶりに民主党候補が勝利するなど、民主党不利な状況の中では善戦した。ただアリゾナ州も大接戦であり、民主党が大きく盛り返した結果とも言い切れない。

ここから言えることは、トランプ大統領自身が「信任投票だ」と言っていた中間選挙で共和党は負けたと言える結果に終わったが、かといって民主党が勝ちきったという訳でもない状況であり、どっちつかずの結果となった、ということである。トランプ大統領に対する批判が有権者を民主党に傾かせたが、トランプ支持者も根強く対抗し、両者が拮抗した状態にあるというのが現在のアメリカの姿だということである。

異例の投票率

通常、中間選挙はあまり注目されない選挙であり、有権者もさほど熱心にならない選挙でもある。2014年の中間選挙は投票率が37%であり、一般的に40%前後であるのが通常だが、今回の中間選挙では49.2%が投票し、期日前投票もかなり多かった(米国の選挙は火曜日に行われるため、期日前投票の数が投票率に大きく影響する)。

こうした投票率の高さは、今回の選挙に対する期待と恐れの両方を示している。民主党はトランプ大統領を追い込み、議会での多数派を得ることで大統領の暴走を抑えるためにも、普段は中間選挙に行かないヒスパニックや黒人に向けて積極的に投票に行くよう強く働きかけた。共和党支持者はそうした不利な状況を認識し、共和党支持者に対して投票に行くよう呼びかけ、民主党の躍進を抑えようとした。つまり、両者の勢力が拮抗していたことで、相乗効果が起き、投票率が高くなったと言えよう。

投票抑圧問題

しかし、接戦となったジョージア州やフロリダ州では、ある意味人工的に拮抗した状況が生み出されていた。ジョージア州知事選に出馬した共和党候補は、現職の州務長官であり、フロリダ州上院選に出馬した共和党候補は州知事である。州務長官はその州の選挙管理事務を統括する立場にあり、州知事はその上に立つ役職である。つまり、選挙事務を司る人物が実際に選挙で戦うという状況になっている。

これらの州では過去に犯罪歴があった場合などで公民権が停止され、一定期間後に公民権を回復する手続きを行わなければならないが、その是非を州務長官が審査して却下することが出来る。また、有権者登録をする際に身分証明書に書かれた表記と登録書類に書かれた表記が異なる場合(例えば身分証明書にはミドルネームがフルスペルなのに、書類は頭文字だけ書かれた場合など)その書類を受理しないといったことが事務的に行われている。しかも、こうした投票権の抑圧(voter suppression)は民主党支持者が多い、黒人やヒスパニックに対して行われることが多く、選挙のたびに問題になるが、今回はジョージアやフロリダで州知事や州務長官が出馬したこと、またその結果が僅差であることなどから、この問題は大きく注目された。

さらに興味深いことに、選挙と同時に行われたフロリダ州の住民投票では、州法を改正し、過去に犯罪歴がある人物でも選挙権が与えられるという提案が可決され、次回の選挙以降はこうした投票抑圧をすることが難しくなった。こうした住民投票の提案がなされ、それが可決するところを見ても、この投票抑圧問題が非常に大きな問題になっていることを伺うことが出来る。

トランプ化する共和党

このように拮抗した状況は、トランプ大統領の選挙戦術の結果とも言える。現職の大統領が選挙活動をすることは禁じられているわけではないが、党派性を越えた存在としての大統領が積極的に選挙活動を行うことは望ましいものではない。しかし、トランプ大統領は2016年の大統領選を戦った選挙対策本部を解散せずに維持し続け、大統領就任後も支持者集会を積極的に開催し、40%前後の支持率を維持し続けてきた。

こうした活動では民主党やヒラリー・クリントン、主流派メディア、移民問題などを取り上げ、アメリカは攻撃されている、主流派メディアはフェイクニュースを垂れ流している、民主党は政治の停滞を招くだけで建設的な協力をしない、といった批判とも愚痴ともつかないことを繰り返し述べている。また、大統領就任前から直接支持者に語りかける手段としてツイッターを活用し、ここでも同じように民主党・メディア・移民を批判している。

その結果、国民全体の支持は40%程度であっても、共和党内では80-90%の支持を確保するという状況を生んでいる。これは、一方でアメリカ社会の分断をさらに深め、党派性に基づく政治が強化され、超党派での協力がしにくい状況を強めている。他方で共和党は足下の支持者が圧倒的にトランプ大統領を支持していることから、予備選ではトランプ大統領を支持し、彼の政策を実現することを公約に掲げた候補が勝利し、本選でも「ミニ・トランプ」と言えるような候補が多数見られた。接戦となったフロリダ州の州知事選では、トランプ大統領と全く同じ主張をするデサンティス候補に対し、黒人でオバマ大統領と雰囲気が似ている民主党のギラム候補との戦いとなり、「トランプ対オバマの代理戦争」などと言われるような選挙となった。

今回の選挙が拮抗した結果になったことは、共和党に取っても「勝利」と言える余地を残すこととなった。46%の共和党員は今回の選挙を勝利として認識しているという調査もある。つまり、共和党員はトランプ支持を強めることで選挙に勝利出来るという印象を強く持つことで、2020年の選挙ではトランプ再選に向けて結集すると共に、上下院や州知事選挙で「ミニ・トランプ」のような候補がさらに多く出馬する可能性が高い。それは、中間選挙後の政治も、2020年の選挙も党派性が強く出るようになり、超党派で問題を解決するよりは、民主党を批判し、エスタブリッシュメントを攻撃することで支持を集めようとする政治が横行するということである。しかし、下院を失った共和党は、こうした対決姿勢を強めることで「ねじれ」状況を乗り越えることが出来ず政治が停滞する結果となり、政治に対する諦めや嫌悪感が高まる可能性も高くなる。

「恐怖戦術」でも勝てなかったトランプ

アメリカの政治は利益、価値、恐怖の三つの要素が政治を動かす大きな原動力となる。利益はトランプ大統領が進めた大規模減税や保護主義的な通商政策による石炭産業や鉄鋼産業の再活性化のように、資産家とラストベルトの人々に焦点を合わせた政策を実施した。しかし、これは減税の効果を得られなかった中産階級や保護主義によって被害を被った農家や鉄鋼以外の製造業などにとってはマイナスの要因となっている。

価値に関しては、アンチ・リベラルな価値を掲げ、政治的な正しさ(Political Correctness: PC)を否定し、人種差別や女性差別的なニュアンスを多分に含む価値観を推し進め、保守派のカバナーを最高裁判事に指名したことに現れている。これまでリベラルな価値やPCに息苦しさを感じていた人々にとっては、大統領が率先してそうした価値を否定していくことに喝采を送ったが、他方でヘイト・クライムが増加し、マイノリティにとって居心地の悪い状況を作り出した。

このように利益と価値に関してはトランプ政権が進めてきた政策はアメリカ社会を二分する結果をもたらし、それが選挙結果の拮抗状況を作り出したとも言える。しかし、それ以上に興味深いのは、選挙期間中にトランプ大統領が中米諸国からアメリカに向かう移民集団(キャラバン)を大きく取り上げ、国境警備隊ではなく軍を動員して国境警備に当たらせ、移民に対して厳しい姿勢を見せたことである。これは移民集団がアメリカに接近してくることは社会にとって脅威であると強調し、いわゆる「恐怖戦術(scare tactics)」を使って国民の不安を煽り、その脅威に対抗するのは共和党であるという印象を根付かせようとした選挙戦術であった。実際、選挙が終わってからトランプ大統領はぱたりとキャラバンに関して言及することがなくなり、何事も起こっていないかのように振る舞っている。

しかし、トランプ大統領が展開した「恐怖戦術」も共和党支持者のボルテージを上げることには成功しつつも、それ以外の有権者にはほとんど届かず、不発に終わったと言わざるを得ない。「恐怖戦術」は常に上手くいくとは限らないが、社会が強いストレスの下にあるとき(例えば2001年の同時多発テロ後の2002年中間選挙)、「恐怖戦術」は大きな効果を生む。実際、2002年の中間選挙では、ジョージ・W・ブッシュ大統領の一期目の中間選挙であったにもかかわらず共和党が議席を増やすという結果となった。

今回のトランプ大統領による「恐怖戦術」が効果を生まなかったのは、社会が既に強いストレスに晒されすぎており、これ以上のストレスを受け入れられず、むしろトランプ大統領が「恐怖」を仕立て上げようとしている戦術を見透かしていたからなのではないかと考えられる。結果的にトランプ大統領が展開する選挙戦術は共和党支持者には効果があっても、国民を動かす結果にはならなかったのである。