社会を変えていくために地方自治の役割は大きいと考えている。長年オランダやベルギーで暮らすなかで、国を超えた存在である欧州連合(EU)の政策判断に地域の意見が反映されず、市民の間に不満がたまっていたのを目の当たりにした。
やはり地方政治を民主化し、生活者の意思を政治に反映させなくてはいけないと考え、研究してきた。いつか祖国で自分の力を発揮したいと思っていたときに、杉並区長選があった。市民団体から立候補の要請があり、私も自分の考えていたことと杉並区の課題が合致すると思い、立候補を決めた。
支援してくれた市民団体の人びとは、何度も選挙をやってきて基本的ノウハウは持っている。一昨年の衆院選では東京8区(杉並区の大部分)で、自民党の石原伸晃さんを破り吉田晴美さんを当選させた成功体験もある。そこに新しい人たちも関わって共に学んでいく。
ただ、私の場合はそもそも支持基盤がないので今までのノウハウでは勝てない。私も仲間もアイデアを出し合い、これまでと違う選挙戦をした。
街頭演説では気候変動や参加型民主主義といった抽象的なことを言っても伝わらない。働くことやケアワーク、生きづらさ、街づくりといった生活者としてピンとくるテーマを選んだ。
ただ、政治がそのテーマにたどり着くには、やはり政策だ。今私が実践しようとしている参加型民主主義的な手法を採り入れて政策を見ていこうというのはまさに、生活者と政治をつなぐ回路を作りたいからだ。
選挙戦も後半になると、5、6人集まった人から質問が出て、それに私が答えるという形になっていき楽しくなった。
男女差別に苦しむ女性 仲間を見つけていくことで自らを解放
今春の杉並区議選では私の政策に賛同する候補者を支援した。会派や政党は問わないが、少なくとも多様性や環境、ジェンダーなど同じ方向を向いて歩いていく人を区議会で増やしたいと考えたからだ。万一、私に賛同する区議が一人でも減ったら困るという危機感もあった。
女性区議が増えたのは、意図したことではない。ただ、地域社会の活動に取り組み、ネットワークを持っている女性は多い。そういう女性たちの「変わってほしい」という感覚は非常に重要だ。
投票率も、杉並区議選は前回より約4ポイント上がり、特に30代女性と20代で上がった。その結果、女性区議が増えたのではないか。
特に女性は男女差別に苦しみ、生きづらさを感じていると思う。そうしたことを意識し、仲間を見つけていく作業が自らの解放や自信につながると認識した女性は強い。
多様性のある政治をつくるには投票率を上げることが必須条件だ。(組織などで)既に決まっている票はもう決まっている。ならば、私たちは母数を増やすしかない。
区議選では投票率を上げて「みんなで新しい景色をみよう」と訴えた。その中で、女性の共感が投票につながったことは大きい。
衆院選の東京8区で吉田晴美さんが勝ち、私の当選も衝撃だったはず。そして「また何かあるかも」と期待値が上がった。有権者が、自分の1票が変化につながると期待できるよう、プロデュースしなければいけないと思った。
議会では全ての議員ともっと複合的な政策議論をしたい。例えば、杉並区の一つの魅力である商店街を盛り上げるための政策など。研究者や専門家とも気候変動や多様化などについて開かれた政策議論をしたい。
区長になって、区立小中学校の給食の無償化を実現し、地球温暖化対策を議論する「気候区民会議」を立ち上げた。政策を進めるスピード感は悪くないと思う。ただ、私は区民、職員、議会を同時に見なければならず、テーマによってバランス感覚を持つことが自分にとっての課題と考えている。