鹿児島県の薩摩半島南西に位置する南さつま市。市の中心部から車で10分も走ると、眼前に東シナ海が広がる。その南さつま市に、女性議員を増やそうと奮闘してきた市議がいる。平神純子さん(66)だ。
1995年、加世田市(後に合併して南さつま市)の市議に当選した平神さんは、翌年に「鹿児島県内の女性議員を100人にする会」を立ち上げた。
だが逆風も強い。10年以上前の選挙で、年配女性から「ご主人ではなく、あなたが立候補するの? 女のくせに」と言われた。
2018年に候補者男女均等法が施行され、平神さんは2018年と2019年に市議会で女性議員を増やす政策として、一般の女性が議場で質問できる機会を設けるよう提案。男性議員たちから「女性を特別扱いしている」と批判された。
平神さんは仕方なく自ら女性候補を探して2021年の市議選に擁立、候補者は当選した。結局、その提案は市議選の直後に実施されたという。
今春の統一地方選では県内の女性議員は計89人になったという。県議選では5人だった女性議員が11人に倍増した。
それでも鹿児島県内には女性議員が一人もいない「ゼロ」議会がまだ10町村あるという。平神さんが女性ゼロのある市議会で1年間の一般質問を調べてみると、一度も質問をしない議員が半数近くいた。
他の議会の女性議員たちは子育てや介護など生活に即した幅広い質問をしていただけに、「議会にも多様性がないと生き生きしない」
平神さんによると、残る10の女性ゼロ議会のうち奄美群島の自治体が4町2村。その中で、来年改選を迎えるのが3町2村という。
平神さんは立候補する女性を掘り起こすため、11月に奄美市でトークイベントを企画。「県内の女性議員が100人になるまで市議として頑張る」。これまで通り、奄美の島々を回る予定だ。
子育て、住民意識…市議会は生活と密着
今春に統一選のあった市議会で女性比率の全国1位は千葉県白井市(55.6%)だ。都心から約30キロで、人口の半数を千葉ニュータウンの住民が占める。
1999年に白井町のときから議員を務める柴田圭子さん(65)は女性議員が多い背景をこう分析する。「ニュータウンは、自分たちでつくっていかなければならない部分があるが、男性は都内に勤めに行く人が多く、女性が中心となって活動してきた」
さらに1980年代に海上自衛隊下総航空基地(柏市)を米軍機の夜間訓練に使うことに反対する運動が起き、住民意識が高まったことや、子育て世帯が多く、母親たちがPTA活動や市民活動に熱心に取り組んだことも、女性の市議を生み出す素地になったのではないかとみる。
同僚議員の小田川敦子さん(56)は「白井は市議と市民の距離が近い。私も子どもに障害があり、障害のある子の母親ネットワークから市議とつながりができていった」と話す。2人とも「生活と政治が密着している」と強調。そして小田川さんはこう言う。「市議会議員の仕事は、女性にとって適職じゃないかと思う」
身近なロールモデルの存在
白井市に続いて女性市議の比率が2位だった宝塚市(53.8%)。市長は2代続けて女性だ。
「私は一日置きにスーパーに買い物に行き、施設にいる母の見舞いに電車で通った。普通のおばさんが12年も市長をできるのだから、『自分にもできるかも』と立候補のハードルは低くなったのでは」。まさに前宝塚市長の中川智子さん(76)は「身近なロールモデル」だ。
中川さんは市長時代、同性カップルをパートナーと認める制度や、「就職氷河期世代」を対象にした採用試験など時代を先取りする政策を次々と実行した。
政界入りのきっかけは社民党の党首だった故・土井たか子さんに声をかけられたこと。それまでは主婦で、学校給食を考える会や、阪神大震災の被災者を支援する会を作ってきた。衆院議員を2期務めた後、市長になった。
「この地域には女性で市民運動をする人が多かった。男性の理解者も多かった。たゆまぬ活動の歴史があってこそ今がある」。近隣の芦屋市や尼崎市では女性市長が誕生したが、中川さんは日本全体では女性の首長がまだ少ないと嘆く。
「何十年経ってもこの状態だ。法律で強制的に増やせば日本社会は確実に変わる。首長は3期12年までとし、3期ごとに男女が入れ替わる法律を作ってほしい」
女性議員生み出し、支える政治スクール
立候補を考える人をサポートする「政治スクール」が女性の立候補に一役買ってきたことは間違いない。今年で30周年を迎えたスクールがある。
9月に東京都内であった「女性のための政治スクール」のシンポジウム。校長の元参院議員、円より子さん(76)は「ジェンダーギャップ指数、政治分野で日本は146カ国中の138位。情けない」と話した。
「女性の」と銘打つが、男性も参加できる。カリキュラムには政治家や有識者から政策や予算を学ぶ講座のほか、省庁の視察、ディベート実習などが組まれている。
事務局によると、これまでにスクール生はのべ1300人以上で、国会議員9人、地方議員120人以上が誕生。地方議員のうち51人は、今春の統一地方選で当選したという。
4月に東久留米市議に当選した岩崎明子(さやこ)さん(53)は立候補前に加え、当選後もスクールに助けられたと話す。「(男性ばかりで)女性が孤立しがちな議会で価値観を共有できなくても、スクールで話して共感を得られると、『私の感覚は間違っていなかったんだ』とまた立ち上がろうと思える」