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多様性を推進する「DEI政策」が縮むアメリカ 女性州議会議員が説く対話の大切さ

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カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(左)とマサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員=秋山訓子撮影
カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(左)とマサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員=2025年2月27日、東京都港区、秋山訓子撮影

米国のトランプ大統領は今年1月の就任早々、DEI(多様性、公平性、包摂性)の政策をやめる大統領令に署名し、企業でも多様性確保の取り組み縮小が相次ぐ。米国社会の多様性はどうなってしまうのか、不安の声が聞かれる。そんななかで、女性議員、しかもより身近な政策形成や実現に取り組む州議会議員たちは何を考え、どんなことに取り組んでいるのだろうか。民間非営利の立場から日米交流を後押しする日本国際交流センターの招きで来日した東部マサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員と、中部カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員に聞いた。(秋山訓子)

トラム・ウィン議員は民主党所属で現在4期目の38歳。人権問題が専門の弁護士でもある。ベトナムで生まれ、5歳の時に家族で米国に政治亡命した。ベトナム戦争で米国とともに戦った父が戦後に再教育施設に収監され、出所後も当時の共産党政権から監視・抑圧されたためだ。

「父母は家族を養うために仕事を掛け持ちしていました。私も地域の役に立ちたいとボランティアをし、多くの人にお世話になったから、恩返しをしたいと思ったんです。移民は英語がしゃべれず、自分の権利を知らない人も多い。それで弁護士になりました。その活動のなかで、政策が人を傷つけることも、助けることもあると知り、自分で政策を作りたいと思うようになりました」

マサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員=秋山訓子撮影
マサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員=2025年2月27日、東京都港区、秋山訓子撮影

有給休暇や最低賃金、反ヘイトや気候変動の問題などに取り組んできた。アジア系の女性議員が増えるよう、政治家になる支援もしている。

「特に20~40代の女性の政治参加が少ないのが問題だと思っています。子育てや仕事に忙しい年代なので……。でもだからこそ政策に生かせることはたくさんあると思うんです」

自身の選挙も多くの子育て中の女性たちが参加し、事務所には託児スペースを設けているのだという。

ウィリアムズ議員は共和党所属で幼少期を中西部カンザス州で育ち、現在33歳だ。大学を卒業して程なく結婚、出産。2017年、長女が4カ月の時にウェブデザインや動画をつくるビジネスを起業した。

カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員=秋山訓子撮影
カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員=2025年2月27日、東京都港区、秋山訓子撮影

「家で母親業をするのも好きだけど、外で働くのも好きだと気づき、両方をやろうと思ったのです。あるとき、クライアントの女性が、労働省の政策のために事業ができなくなりそうになったことがありました。そこから政策に興味を持ち始めました」

州レベルでも政策がビジネスに与える影響が大きいと分かり、周囲からも勧められて2020年の州議会選挙に立候補。この時は落選したが、2022年に再挑戦して当選し、今は2期目だ。

初挑戦の時に落選してもそこであきらめなかったのは、「地域に変化をもたらしたかったから」。「何か問題があった時に、ただ文句を言うのではなくて、解決をしたかった。私は自分の弱さも学んだし、リーダーとして成長できると思いました」

現在は中小企業の支援や子育て政策、障害者の就労支援などに取り組んでいる。

2人はそれぞれ、なぜ現在の所属政党を選んだのだろうか。

ウィン議員は「私自身が移民で、アジア系の有色人種の女性というマイノリティー。その政策に力を入れているのは民主党だし、私の周囲には民主党の人たちばかりだったので」。

ウィリアムズ議員は「私は起業家。共和党の方が、規制を少なくして市場の自由に任せるという原則なので、自分の考え方に合っていました」。

米国のみならず、世界で今、社会の分断が進んでいる。州議会や地域ではどのような現状なのか。

マサチューセッツ州議会の下院は、160人の定数中、民主党が130人以上を占める「ブルーステート」、対照的にカンザス州は共和党が強く、州議会下院の定数125人中88人が共和党という「レッドステート」だ。女性議員はマサチューセッツ州議会の下院が約30%、カンザス州は約33%だ(ちなみに、日本の衆院議員の女性の割合は15.7%)。

カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(左)とマサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員
カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(左)とマサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員=日本国際交流センター提供

2人が共に強調したのは「党派を超えて粘り強く議論を続ければ、着地点を見つけることができる」という点だった。

ウィン議員は「州議会で多くの政治交渉をして実感として思うのは、党派が違っても90%は共通のゴールや合意点を見いだせるということ。超党派は力だと思うし、だからこそ私は共和党の人たちと合意点を探すために努力を続けています」。

ウィリアムズ議員は「カンザスは共和党が強いですが、面白いことに知事は民主党です。知事と議会は多様な視点から多くのことを協力し合えるし、私の選挙区では有権者は支持政党を固定していません。私も党派を超えて協力し合おうと努力してきたし、特に新しい世代は、民主党であろうと共和党であろうと私たちの国が分断を超えて前進できるように道をつくっていけます」。

ウィリアムズ議員も、女性が政治家として立候補することを後押ししているという。「男性よりも女性のほうが、立候補を決断するのに時間がかかります。この分断の時代にあってこそ、女性の政治家が必要とされていると思います」

ただ、政治活動をすることで、危険な目にあう可能性もある。

ウィリアムズ議員は「郵便箱に白い粉が届けられていたこともあり、子どもたちが郵便箱を見ることを禁じました。もちろんこのようなことはいつも起こるわけではありません。非常にまれなことです。でも、おこることもあるんです」。

ウィン議員は「銃の安全性など非常に難しくて意見がわかれる問題もあります。カギはもっともっと話をすることです。でも私たちを気に入らない人々もいるし、ソーシャルメディアを使って問題のあることをオンライン上で発信し続ける多くの“キーボード・ウォーリアー”(キーボードの戦士)もいる。つきまとわれたり、脅されたりすることもあります。だから一人では行動しないように気をつけています」。

来日した東部マサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員(前列中央左)と、中部カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(同中央右)と日本の女性国会議員たち
来日した東部マサチューセッツ州議会のトラム・ウィン下院議員(前列中央左)と、中部カンザス州議会のローラ・ウィリアムズ下院議員(同中央右)と日本の女性国会議員たち=日本国際交流センター提供

DEI政策についても聞いた。

ウィン議員は、「DEIは女性や有色人種の問題だけではないということをわかってもらえれば、もっと多くの賛同を得られるでしょう。DEIはイノベーティブな解決法をもたらし、ビジネスを国内、国際両方で繁栄させます」。

誤解されがちなのですが、とウィン議員が次のように強調した。「DEIは、女性だから、有色人種だからといって無条件に何らかの立場につけるということではなくて、十分な資格があれば機会を得られるということなのです。今の問題は、機会があることを知らなかったり、機会を追求することが許されなかったりすることです。ドアを開いて、適格な人材が地位につけることで、国に利益をもたらします」

ウィリアムズ議員は「昨年の大統領選で、私の選挙区でのカマラ・ハリス氏の得票数は、トランプ氏を上回り、2020年に当選したバイデン氏をも上回ったんです。州と連邦の政府はつながっていないことも多く、私が州の政治を好きなのは、連邦に比べて実践的な変化を起こすことができるから。今は会期中で、法案を提出することができます。ただ、事態があまりに早く動きすぎるので、何が起きているのかきちんと把握することが必要です」。

政治や政策は連邦レベルのダイナミックなものばかりではない。日々の生活に密着した政策は、州や市町村のレベルのもの多い。地域の最前線の政治の舞台では、彼女たちのように党派が違っても、いや、違うからこそ対話をあきらめずに粘り強く取り組んでいる人たちがいる。「米国政治」とひとくくりにするのではなくて、きめ細かく見ていきたい。