ジャパン・バロメーターは同大日本プログラム所長の筒井清輝教授と、ダートマス大学チャールズ・クラブツリー助教授が中心になって、日本の社会、政治、経済などさまざまなテーマで行う世論調査だ。インターネットを利用した調査で、対象は8千人超と日本最大級だ。
この調査の特徴の一つは、ある問題については異なる前提条件をつけて質問を作り、回答を比較している点だ。たとえば、同性婚をめぐる質問では「日本社会では、結婚は異性同士の間のものというのが伝統です」「日本社会では、同性同士の恋愛関係は中世から戦国時代以来寛容に認められてきた伝統があります」などといった前提となる説明(計8種類)をランダムに回答者に割り振り、何の説明もないグループと比較して、同性婚に対する姿勢にどのような違いが出るかを調べた。
こうした「前提条件つき」の設問については、次回以降取り上げるとして、今回紹介するのは、現代日本政治やジェンダーについて扱った第1回の調査(昨年11月に実施)だ。
この調査では、「次の衆議院(参議院)に出てほしい候補」として、以下の六つの「属性」を質問するアプローチを取った。
- 年齢(32歳から10歳きざみで82歳まで)
- 性別
- 婚姻
- 子どもの数
- 学歴
- 職業経験(財務・経産・外務官僚、企業経営者・役員、知事、地方議員、主婦など11種類)
質問では、六つの属性をランダムに組み合わせて「候補者像」を二つ作り、二者択一形式でどちらかを選ばせる。選択肢を変更して同じ設問を計10回繰り返し、すべての調査対象者から得られたそれらの回答を集計、分析する。手法が複雑なのは、統計学的にはそうすることでより回答者の「本音」(世論)に迫ることがでできるからだ。
さて、分析の結果、最も回答が多かった属性の「組み合わせ」、すなわち回答者が考える「理想の候補者像」は以下の通りだった。
性別:女性
年齢:32歳と42歳
職業:知事や企業経営者・役員
これから、世論は30~40代の女性のリーダー層に政治家になってもらいたいということが推測できそうだ。
また、回答者の75%が「日本の国会で女性議員を増やすためにもっと努力がされるべきだ」という意見に「賛成」だった。
また、性別や年齢層、支持政党や岸田政権の支持の強弱にかかわらず、ほぼ全ての回答者が男性の政治家より女性の政治家の誕生を支持し、日本はすでに多様性があると評価している層でも女性候補が望ましいという答えが多かった。筒井教授は「ポーズとしてではなく、より本音で女性を支持している層が日本には相当程度おり、女性候補を擁立すれば当選する確率が高いといえる」と分析する。
逆に、支持が弱い組み合わせは以下の通りだった。
性別:男性
年齢: 72歳と82歳
職業:テレビコメンテーターや議員秘書、財務官僚
世論は高齢の男性政治家を望んでおらず、しかも国政に近い職業の人々も一般的に望まれていないということが推測できそうだ。
実際、2023年4月にあった衆参4補選のうち三つの選挙(衆議院千葉5区、同和歌山1区、参院大分選挙区)で女性候補が当選した。同時期の統一地方選でも女性市長が史上最多の7人誕生し、千葉県白井市、兵庫県宝塚市、東京都杉並区など四つの市区町議会で女性が過半数を超えた。
ところで自民党も杉並区を含む衆院東京8区をはじめ、都市部での選挙を中心に女性を積極的に擁立している。単に「これまでの選挙結果など、経験的にみて今女性が求められている」(自民党幹部)という理由だが、ジャパンバロメーターが浮き彫りにした、世論が望む政治家像(高齢の男性ではなく、30代~40代の女性)と奇しくも一致しているのは興味深い。
来年2024年には衆院選があるかもしれず、補選や統一選を経て、さらに女性がどの程度増えるのかが注目される。