――政治や選挙の世界でビッグデータはどのように扱われていますか。
ビッグデータを扱う人々が参入し、データ操作による政治活動を通じ、(有権者を)誘導しようとする選挙広告が急増している。特定の個人を狙い、かつても図書カードや手紙を送ったりしたが、ソーシャルネットワークが、こうした心理操作を、より大規模に、迅速に、安く試みることを可能にした。
理性的かつ倫理的に使うのなら、どんなデータでも使っていけない理由はない。問題はデータが倫理に反する形で集められ、運用されることだ。EU(欧州連合)にはデータ保護法があり、非常に厳密。データファイルの送付や、ビッグデータを活用する際はデータ保護法を順守しなければならない。フェイスブックはこの規則に違反し、とてつもない罰金をEUから課せられた。米国ではカリフォルニア州を除き、強制力が十分とは言い難い。どうデータが集められ、どう個人情報が使われるか、その保護をどうするのか、今後の大変重要な問題だ。
――2016年の米大統領選で、トランプ陣営に加わった選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」の活動をどう見ていましたか。
有権者の膨大なプロファイルを手に入れ、メッセージを操作し、フェイスブック上で標的にアクセスする。ソーシャルメディアやニセ情報の拡散によって人々に影響を与えようという考えは、民主主義にとって非常に危険。これはロシアが米大統領選で米国に仕掛けたやり方とほぼ同じで、大変懸念している。米国だけでなく、アフリカやアジアの国々でも選挙に影響を与えようとの動きがある。
――世論調査や予測調査の専門家として、前回の米大統領選をめぐる予測が外れた理由をどう見ていますか。
全米規模での調査は、(候補者の)得票総数をみれば、予測は正確だったと言える。だが、米国の大統領選の仕組みは得票総数ではなく、(各州での)獲選挙人の総数で決まる。このため、トランプ氏は得票総数ではクリントン氏に約300万票も負けたのに、大統領選に勝利した。これは想定できなかった。
一方、州単位での調査にはいくつか問題があり、トランプ氏を支持する傾向のある比較的学力水準の低い人たちを調査ですくい取れず、しかもそういう人たちが直前に態度を決め、心変わりした。ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア各州でのトランプ氏の得票数はクリントン氏をわずか約7万8000票上回っただけだが、これが決め手となって、トランプ氏勝利につながった。2020年の大統領選では、(予測で)こうした点を修正し、全米規模だけでなく、州ごとの投票にも気を配ることになるだろう。
――選挙予測調査をめぐる環境はどのように変化していますか。
年々厳しくなっている。かつては95%の人が固定電話を持ち、その電話番号から対象者がどの地域に住んでいるかもわかった。だが、いまは大半が携帯電話しか持っていない。対象者に関する情報も少なく、携帯では人々は話したがらず、回答率はおのずと下がる。こうしたなかでも、選挙予測調査は比較的よいパフォーマンスをあげていると思う。
――世論調査や予測調査を実施し、公表する意義は何ですか。
一部のエリートや政界の人だけが情報を握るのではなく、だれもが入手できる世論調査の公表は民主主義にとって、必要不可欠だ。我々は人々が思うことについての情報を『民主化』している。それはビッグデータの時代でも重要なことだ。かつて選挙コンサルタントの人々に、「世論調査は、あなた方CBSやニューヨーク・タイムズがやる仕事ではない」と言われたことがあるが、「我々はあなた方と同じ情報を集め、一般の人々が知りたいと思っていることを公表している」と言い返した。我々は思考に関する情報を「民主化」している。それはビッグデータの時代でも重要なことだ。