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孫正義氏が絶賛した「AI査定」の中古車業者  すごさはどこに

World Now
スマートグラスを付けて中古車の査定をするイメージ画像=瓜子提供

「今日は1社、みなさんほとんど知らないと思うが、紹介したい」。2019年5月、ソフトバンクグループの決算発表会で、社長の孫正義が一人の経営者を壇上に招いた。紹介されたのは、中国の「車好多集団」(北京市)のCEOマーク・ヤン。2015年から始めた中古車販売アプリ「瓜子(Guazi)」の創設者だ。

決算会見で話すソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=2019年5月9日、東京都千代田区(朝日新聞社撮影)

中古車の査定にAIを活用する、瓜子のワークフローはこうだ。

査定の担当者が車の状態をチェックするときに、カメラの付いたスマートグラスを装着。カメラに写る映像がリアルタイムで本社のクラウドに送信される。ボンネット内や車の底部など、見えにくい部分は内視鏡のようなカメラやロボットを使って撮影するという。

ロボットが車の底部の画像を収集する=瓜子提供

映像は、これまで取り扱った大量の車の画像データを学習してきたAIが読み取ってスコアをつけ、どれくらいの価格になるのかを予測する。独自に構築したアルゴリズムエンジンにかけると、「車がいつごろ売れるのか」という時期まで予測できるのだという。仲介業者を間に挟まない分だけ価格を抑えられるため、販売台数は2018年に70万台を超え、さらなる成長を見込んでいる。

冒頭の決算発表会の壇上でマークは「データを駆使して、他の中古車ディーラーよりも効率化ができている」と強調。孫は「AIを使って業界を徹底的に革新している。アメリカにも日本にもヨーロッパにも、こんな会社はない」と持ち上げた。ソフトバンクビジョンファンドは15億ドルの出資を決めた。

世界最大の自動車市場として成長が続いていた中国だが、2018年に新車販売台数が始めて前年割れとなった。19年も毎月、前年割れとなっており、中国自動車工業協会によると、8月までの販売台数は計約1610万台で、前年同期比で11%減っている。この裏で増えているのが中古車の販売だ。2018年の中古車取引台数は計約1382万台(中国自動車流通協会調べ)で、前年より11%増えている。

多くの車で渋滞する中国の高速道路=2017年1月、北京市郊外(朝日新聞社撮影)

新車の販売と異なり、走行距離や事故の有無、ドライバーの使い方などによって価値が大きく変わるため、中古車は1台1台が全く異なる商品となる。その価格を定めるには熟練の技術者の経験がものを言う。丁寧に査定をすれば手間も時間もかかる。だが、「AI査定」ならプロセスが透明化され、価格設定への納得感も得られやすい。同時に、アプリでは同時に複数の車を見比べることができ、選択肢が増えることも強みになるという。

中古車販売店舗の内観=瓜子提供

技術部門の幹部、魏旋によると、カギは「標準化」だ。魏によると「車のどんな点をどう評価すれば良いのか、データの使い方を細かく定めることによって、一つ一つが違う中古車の価格を決めるための基準を作ることができた」という。評価項目は、車種や走行距離はもちろん、地域ごとの同車種の新車販売台数や、顧客からの評判、車の登録番号など2000を超えるという。

スマートグラスを使って中古車の査定をするイメージ画像=瓜子提供

 また、査定者のワークフローも「標準化」することで、誰がやっても同じ結果が得られるようになった。「人材も車も、非常に効率的に管理ができるようになった」という。車の状態を示すデータはアプリなどで詳しく公開しているため、顧客からの信頼も得られやすい。

ただし、まだ技術が追いついていないところもある。修復や溶接したところなどは手で触らないと分からないが、「X線や超音波をつかってこの手間を代替できないか研究している」という。

魏は「AIは過去のデータをもとに学習して結果を予測するもの。どれだけ賢くてもデータがないと何もできない」と限界もあると語る。「市場に新しい車種が出てきたり、他社が値下げイベントをしたり、政府の政策が変わったりすると人間が考える必要が出てくる。物事が変化する時にこそ、人間の価値が問われる」。AI査定は中国では他社も続々と導入し、しのぎを削っている。日本でも似た取り組みが広がりつつあるという。