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ウクライナ大統領選は立候補者44人!「ティモシェンコ」が2人も出馬

迷宮ロシアをさまよう
ウクライナ大統領選に出馬するコメディアンのボロディーミル・ゼレンスキー氏=ロイター
ウクライナ大統領選に出馬するコメディアンのボロディーミル・ゼレンスキー氏=ロイター

過去最多の候補者数

ロシアと欧州連合(EU)の狭間に位置するウクライナでは、2014年に政変が発生し、それ以降、P.ポロシェンコ大統領の下で、EUとの提携を軸とする国家再建が試みられてきました。その反面、元々繋がりが深かったロシアとの関係は、悪化する一方です。

そのウクライナでは、3月31日に大統領選挙の投票が行われます。その結果は、ウクライナ自身の浮沈はもちろん、ロシアとの関係を左右し、この地域の国際秩序全般にも影響を及ぼすことになります。

さて、ウクライナ大統領選挙では、2月9日に中央選管による候補者登録手続きが完了しました。その結果、候補者として正式に登録されたのは、実に44名。筆者が調べた限りでは、過去のウクライナ大統領選における候補者数は、2004年の24人が最多だったようで、今回は異常なまでに候補者数が膨れ上がった選挙となりました。

44名もの候補者を掲載することから、投票用紙は1メートル15センチという長大なものとなるそうです。従来は2004年の67センチが最長でしたから、これも記録更新です。現地のニュースを見たところ、まるで巻物かトイレットペーパーのような投票用紙でした。

長大な候補者リストを眺めていると、一つ妙なことに気付きます。美貌で有名な女性政治家で、今回の大統領選でも主要候補の一人となっているティモシェンコという人がいます(フルネームはユーリヤ・ボロディーミリブナ・ティモシェンコ)。ところが、そのすぐ下に、ユーリー・ボロディーミロビチ・ティモシェンコという酷似した名前の候補がいるのです。後者は男性で、有名な女性政治家とはまったくの別人なのですが、紛らわしいことこの上ありません。投票用紙には顔写真などは掲載されませんので、もしかしたら間違える有権者もいるかもしれません。それほど実力者ではないおじさんティモシェンコが選挙に出ることになったのは、ひょっとして政敵による嫌がらせでしょうか。

そう言えば、2010年のウクライナ大統領選には、バシーリ・プロティフシフという人物が出馬して、地味に話題になりました。「プロティフシフ」というのは、ウクライナ語で「全員に反対」という意味。ロシアやウクライナの選挙では、投票用紙に「全員に反対」という選択肢が設けられており、有権者は意中の候補がいなければ「全員に反対」にチェックを入れて駄目出しをすることができるのです。プロティフシフ氏は、本来はフメニュークという苗字だったのですが、わざわざプロティフシフに改姓した上で2010年大統領選に出馬したのでした。政治への異議申し立てだったのか、はたまた売名行為か。ちなみに、本番の選挙でプロティフシフ氏は0.2%しか得票することができませんでした(正式に設けられている「全員に反対」という選択肢を選んだ投票者は2.2%)。

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お笑い芸人が一歩リード

ウクライナの3つの有力な社会調査機関が1月に共同で実施した世論調査によれば、ウクライナ国民の主要候補への支持率は、上のグラフのようになっています。

現時点で1位につけているボロディーミル・ゼレンスキー氏は、ウクライナ政界にとってはフレッシュな存在。1978年生まれの41歳で、テレビの人気バラエティ番組のMCを務めるお笑い芸人です。政治ネタの漫談やコントを得意としているのですが、そのコントの延長上のような形で本当に選挙に出ることになり、国民の高い支持を集めています。

これに対し、現職のペトロ・ポロシェンコ大統領は、1月29日に開催された政治フォーラム「クルーティからブリュッセルへ ―我々は我が道を行く」の場で正式な再選出馬表明を行いました。この政治フォーラムは、1918年に若きウクライナ人たちがボリシェビキ(のちのソ連共産党)に立ち向かって儚くも散った英雄伝を称えるものであり、これを出馬表明の場に選んだことで、ロシアと決別する姿勢を改めて強調したと言えます。ポロシェンコ大統領はこの席で、2024年にウクライナはEUへの加盟申請を提出するとの方針を示しました(むろん、EUの側がどう対応するかは別問題ですが)。

国民の支持率で、このところティモシェンコやゼレンスキーの後塵を拝していたポロシェンコ大統領ですが、先日実現したウクライナ正教会のロシア正教会からの独立実現は一定の政権浮揚効果があったようで、上掲の1月の世論調査では最近では初めてわずかながらティモシェンコを上回り、2位に上がりました。

一方、祖国党は1月22日に党大会を開催し、ユーリヤ・ティモシェンコ党首を大統領候補として擁立することを決定しました。ティモシェンコは、今回の大統領選挙に、最も決然たる態度で臨んでいる政治家であり、すでに2018年の時点で出馬を明言し、「新路線」と題するマニフェストも発表していました。ただ、ここ2~3年は国民の支持率で常にトップを走ってきたティモシェンコでしたが、選挙本番を前に、ここに来て伸び悩んでいる印象があります。彼女の場合は、党組織がしっかりしており、固定ファンはいるのですが、浮動票は取り込みにくいという弱点があり、それが露わになってきた感じです。

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キエフ中心部を練り歩くティモシェンコ支持者(撮影:服部倫卓、2018年9月)

まったく先の読めない選挙戦

タレント、文化人、スポーツ選手などが政界に進出することは、世界的に、決して珍しくはないでしょう。アメリカでは、故レーガン大統領は元俳優でしたし、「ターミネーター」ことシュワルツェネッガー氏もカリフォルニア州知事を務めました。日本でも、テレビタレントの政治家転身はよくあることで、お笑い出身者が大阪府知事や宮崎県知事を務めたこともありました。

ロシアやウクライナでも、歌手やスポーツ選手が選挙に出ることは、時々ありました。しかし、現在ウクライナで起きているように、人気コメディアンが大統領選で主要候補の一人となり、しかも支持率でトップに立っているというのは、やはり異例の事態だと思います。

現地の有識者によってしばしば指摘され、筆者自身も同意見ですが、ゼレンスキーの高支持率は、国民が既存の政治に嫌気がさしており、何か目新しいものを欲していることの表れと考えられます。逆に言うと、ゼレンスキーを推している国民も、必ずしも彼の政治家としての力量に期待しているわけではなく、また彼が実際に選挙で勝つ可能性については今のところ半信半疑のようです。さらに言えば、ゼレンスキーが当国きっての大富豪であるイーホル・コロモイスキーの子飼いであることは公然の秘密であり、実はゼレンスキーとてウクライナ政財界のしがらみと無縁ではありません。

ゼレンスキーは、基本的にロシア語で漫談やコントなどのネタを披露する芸人で、ウクライナ南東部や首都キエフなどのロシア語圏で特に高い人気があります(キエフは、だいぶウクライナ語の比率が増えましたが、まだまだロシア語も一般的です)。ウクライナ語が優勢でナショナリズムの盛んな西部とはややソリが合わず、先日西ウクライナの中心都市であるリビウに出向いた際には現地のナショナリストから妨害を受けました。

それでも、注目すべきことに、ある世論調査で、「貴方が、どんなことがあっても、絶対に入れたくない候補は誰ですか?」と回答者に尋ねたところ(複数回答可能)、ポロシェンコが47.9%、ティモシェンコが31.1%であったのに対し、ゼレンスキーは10.4%と非常に低い数字でした。だとすれば、たとえばゼレンスキーが第1回投票で2位以内に入って決選投票に進んだ場合には、相手候補よりも上積みの可能性が大きいようにも思えます。

ただ、古株の政治家への不満は尽きないにせよ、この国難の中、今後5年間の国の舵取りを任せる人物を決める選挙本番で、国民は政治実績ゼロの芸人をファイナルアンサーにできるのか…。うーん、いつにも増して予測が困難な選挙です。