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世界をにらみ、キリル文字やめた 旧ソ連のカザフスタン、ロシア離れまた一歩

World Now
カザフスタン人が使うチャットアプリ。キリル文字とラテン文字が入り交じる
カザフスタン人が使うチャットアプリ。キリル文字とラテン文字が入り交じる

■2025年の完全移行めざす

カザフスタンはカザフ語の表記をロシア語などで使われるキリル文字からラテン文字(ローマ字)に変える準備を進めている。1991年の独立以降、大統領の座にあるナザルバエフ(78)が2017年に政府に命じた。今年から一部教育施設でラテン文字教育が始まり、23年までに身分証明や旅券などの表記を切り替え、25年の完全移行をめざす。

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カザフスタン・アスタナの標識。一番上がラテン文字を使ったカザフ語で、真ん中がロシア語、下が英語

だが昨年12月、最大都市アルマトイ近郊の農村にある初等中等教育学校を訪ねると、文字移行の取り組みは手つかずだった。この学校で数学と物理を教えるアフメトヴァ・グルザダ(64)は教育NGOのスタッフとして文字教育についての情報も集めているが、「ラテン文字の教え方も定まっていないし、教材もない」と心配そうだ。

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アルマトイ近郊の農村にある初等中等教育学校

ソ連崩壊後、中央アジアではウズベキスタンとトルクメニスタンがそれぞれ独立から数年以内にラテン文字に切り替えた。カザフスタンも文字改革の意向を示していたが、ロシアとの関係が深く、独立時にはロシア人が国民の3割以上を占めていたという事情があった。ナザルバエフは06年、文字移行する意向を示したが、世界的金融危機や原油価格の下落が影響し、計画は進んでいなかった。

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カザフスタンの雑誌。左のフォーブスはロシア語だが、右のナショナルジオグラフィックはキリル文字を使ったカザフ語

ただ、文字移行は簡単ではないようだ。先行するウズベキスタンでは、キリル文字の出版物がいまだに幅広く出回っている。

「よくできた」

ウズベキスタンの首都タシケントのマンションで、バルティエワ・フェルザ(52)がパソコンで宿題の計算を解いた孫のホジャエワ・ソビトゥホン(8)の頭をなでた。しかしフェルザは「ソ連時代に教育を受けた私はラテン文字が苦手。シングルマザーで働いている娘の代わりに孫の宿題を手伝いたいけど」と嘆いた。

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孫のホジャエワ・ソビトゥホンの宿題を見るバルティエワ・フェルザ=ウズベキスタン・タシケント

■「ラテン文字化、国際化に不可欠」

ナザルバエフはこれまで、文字移行について「時代の要請」「国際社会への統合」などと説明してきた。政府の文字移行委員会メンバーの国営紙エゲメン・カザフスタンの会長、ダルハン・ケデラリ(44)は「大統領は英語の重要性を訴えており、ラテン文字は国際化のなかで不可欠」と話す。

だが、中央アジア諸国の文字移行は、「ロシアの衛星国」と欧米から見られがちな各国の、民族的自尊心を確立する手段だとの指摘は多い。言語学研究所長のエルデン・カジベク(63)は文字移行について政府に助言する立場だが、「キリル文字は70年前に強制的に焼き付けられたもので、いまでもロシア語の専門用語はカザフ語にそのまま取り入れられている。そういった植民地的な考え方を変えないといけない」と言い切る。

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カザフスタンの首都アスタナ

また、若手の国際政治学者として注目されているカザフスタン国際関係評議会事務局長のイスカンデル・アクルバエフ(30)は、文字移行をカザフスタンの「リブランディング」と指摘する。「ナザルバエフは首都をアルマトイからアスタナに移し、今回、文字を変える。中央アジアでどうアイデンティティーを築くのか、独立から27年過ぎたがいまだ国造りの途中」と話す。

さらに、カザフスタンの政治アナリスト、アイドス・サリム(43)は、14年のウクライナ南部クリミア併合など、ロシアが近年、周辺国に干渉する動きを見せていることも、今回の移行を後押ししたとみる。「これまでロシアと少しずつ距離を置いてきたが、これが本格的な『独立』の一歩となるだろう」