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メイドインチャイナが山積みの巨大バザール、迫るロシアの影響

World Now
キルギスの首都ビシケクにあるドルドイバザール。貨物用のコンテナが積み重なる

ビシケクから望む天山山脈(奥)。山の向こうは中国だ

2段重ねのコンテナは下が商店、上が倉庫として使われ、衣料品や靴、家電製品、日用品などさまざまな店がひしめいている。記者が昨年12月に訪ねた時は、通路には買い物客のほか、パンや果物を売るワゴンが行き来していた。「いらっしゃい、寄っていって」。食堂の女性従業員が笑顔で声をかけてきた。店には、肉を小麦粉の皮で包む地元料理「サムサ」を焼く香ばしいにおいが漂っていた。1個50ソム(約80円)だという。

ドルドイバザールにあるレストランで、伝統料理サムサを作る男性

スポーツシューズ店には、ナイキやアディダス、アシックスなどのブランド品に見える靴が並んでいた。「全部、中国製。中国オリジナル」。店主のアマンウル・サパルベク(43)はそう笑った。「中国オリジナル」とは、つまり模倣品という意味だ。

サパルペクが手にしていた「ナイキ」の値段を聞くと、約6千円という。地元の人には安くはないが、本物の半分以下の値段だそうだ。

かつては中国に直接足を運び、交渉しながら靴を買い付けていたが、いまはスマホの通話アプリを使うなど効率化を進め、顧客ニーズも研究している。リピーターも増えて、売り上げは伸びている、と胸を張る。

ドルドイバザールでスポーツシューズ店を経営するアマンウル・サパルベク

■対中関税引き上げ、客足にも影響

この市場は、ソ連が崩壊してキルギスが独立した1991年から始まった。ビシケク郊外まで鉄道で運ばれてきたコンテナが荷をおろされた後、すぐに載せる荷もないので即席の商店として使おうということで増えていったらしい。当時は米国や日本の中古車を輸入した後のコンテナが大量にあったそうだ。それがやがてこの大きなバザールとなった。

キルギスの首都ビシケクにあるドルドイバザール。貨物用のコンテナが積み重なる

こうしたコンテナバザールは、中央アジアのほかの国でも見られた。ソ連崩壊後の混乱期の「産物」ともいえそうだ。そして、中国製品がどっと流れ込むようになり、買い物客で賑わう名所に。何といっても中国製品は安さが売りだ。ドルドイ・バザールで売られている商品の9割近くが中国製になった。

だがここのところ、売れ行きに変調が見られるようになった。キルギスが2015年にロシア主導の「ユーラシア経済連合」に正式加盟したことで、中国製品にかかる関税が平均して2倍近く跳ね上がったためだ。

ロシアは、経済連合を旧ソ連の国々に広げ、欧州連合(EU)のような経済圏をつくることを構想。現在、中央アジア5カ国のうちキルギスとカザフスタンが加盟している。

中国からの輸入に頼ってきたキルギス国内では、加盟を前にして関税高騰への懸念だけでなく、「ロシアにのみ込まれる」と警戒する声もあった。だが、キルギスでは旧ソ連時代からロシアへの出稼ぎ労働者が自国経済を支えてきたし、エネルギーや国防などもロシアに依存している。こうした事情もあって、農業や繊維産業、鉱業を自力で再生させるよりも、ロシア経済圏で生きた方がいいと判断した。経済連合加盟後、ロシアから経済援助も受けられるようになった。

中国製品が値上がりしたことで、客足が鈍り始めた。「経済連合に入った後、売り上げが半分に落ちました。ほかの店と同じ物を売っても競争に勝てません」。洋品店でコートなどを売るジュマバエバ・グルバイラ(42)はそう嘆いた。別のコート店を経営するサリエフ・ヌルランベク(47)は「これまでなら1日でさばけた量を売るのに、いまは1週間かかります」と唇をかんだ。

ドルドイバザールでコートなど洋服を売る店の店長、ジュマバエバ・グルバイラ

ドルドイ・バザールを傘下におさめるドルドイ・グループは、ショッピングモールやエネルギー事業、プロサッカーチームも持つ国内有数の大企業だ。広報担当のスルタンガジエフ・ナルンベク(36)は「ユーラシア経済連合加盟直後は一時的に影響を受けたものの、まだまだ大丈夫。コンテナは閉まっていないです」と話し、「ドルドイ・バザールがキルギスに与えてきた経済的な恩恵は大きい」と強調した。

商売人たちはまだ笑顔を見せていたものの、小さな内陸国が大国のはざまで迫られる舵取りの難しさが、名物バザールからも見てとれた。