1. HOME
  2. World Now
  3. ロシア国民はソ連崩壊の何がそんなに残念なのか?

ロシア国民はソ連崩壊の何がそんなに残念なのか?

迷宮ロシアをさまよう
ゴルバチョフは、ロシア本国では、偉大なる超大国ソ連を崩壊させてしまった戦犯であると位置付けられている。写真はかつてそのゴルバチョフが共産党トップを務めたロシア南部スタブロポリ地方の行政府だが、その前に立つのは相も変らぬレーニン像であり、決してゴルバチョフ像ではない(撮影:服部倫卓)

ソ連邦崩壊を残念に思うロシア国民が増加

ロシアで行われた世論調査で、1991年のソ連邦崩壊を残念に思う国民が増加しているという話題が、先日日本のマスコミでも報じられていました。

筆者も早速その世論調査結果をチェックしてみました。これは、ロシアにおいては最も信頼できる「レバダ・センター」による調査結果です。2018112228日に、ロシア全土で1,600人の成人を対象に実施した対面調査の結果ということです。

今回の調査の結果、ソ連邦崩壊を残念に思うという回答者が66%、思わないという回答者が25%でした(回答困難が9%)。調査実施のインターバルは不定期ですけれど、19923月以降の調査結果の推移をまとめると、下図のようになります。確かに、ソ連邦崩壊を残念に思うという回答者は、過去5年ほど増大しつつあり、今回は十数年振りの高い数字になりました。

今回の調査で、「主にどういう理由でソ連邦崩壊を残念に思っていますか?」と尋ねたところ(残念に思っている回答者のみが複数回答方式で回答)、「一体の経済システムが崩れたから」:52%、「大国に属しているという感覚が失われてしまったから」:36%、「お互いの不信感、反感が増大したから」:31%、「親戚、友人たちとの繋がりが遮断されてしまったから」:24%、「どこに行っても『我が家だ』という感覚が失われたから」:24%、「自由に旅行したり休暇に出かけたりするのが難しくなったから」13%、などとなっています。

ちなみに、「ソ連邦崩壊は避けられたと思いますか?」という設問も設けられており、今回の回答結果を見ると、「避けられた」という回答が60%、「不可避だった」という回答が27%でした(回答困難が12%)。

ソ連邦という入れ物が大事で、必ずしも中身ではない

我々は、「ロシア国民がソ連邦崩壊を残念がっている」と聞くと、「彼らは社会主義計画経済を復活させたがっているのだろうか?」という疑問を抱いてしまいます。しかし、上掲の回答振りから推察する限り、彼らが主に嘆いているのは、元々一つの大国だったソ連邦が15の独立国に分かれてしまい、しかも独立国同士の関係がぎくしゃくしてしまったことです。その結果、企業同士の取引や人々の社会生活にも影響が生じました。

特に、ロシアとウクライナは切っても切れない深い繋がりがありますので、2014年以降ウクライナがロシア離れを加速させていることで、「嗚呼、ソ連の時代は良かった」との思いを募らせているロシア国民が増えているということではないでしょうか。

今日でも多くのロシア国民がこだわっているのは、ソ連邦という入れ物のはず。必ずしも中身、つまりソ連時代の生活様式を復活させたいということではないと思います(もちろん、一部にはそういう人もいるとは思いますが)。

国内では圧倒的に不人気なゴルバチョフ

ところで、ロシア国民がソ連邦崩壊を残念に思うのと密接に関連した現象として、ロシアではソ連最後の最高指導者であるゴルバチョフ氏が蔑まれるのが常です。多くの国民は、ゴルバチョフが愚かに振る舞った結果として、偉大なる超大国ソ連は崩壊してしまったのだと考えています。実際には、ゴルバチョフは最後まで連邦を守ろうとしながら、エリツィン・ロシア共和国大統領らとの権力闘争に敗れ、心ならずも超大国を維持できなかったのですけど、そういったことはお構いなしに、ロシア国民はとにかくゴルバチョフを酷評します。

一例として、上掲の表を見てみましょう。これは2017年1月に実施されたロシア全国世論調査の結果で、やはりレバダ・センターによるものです。帝政ロシア最後の皇帝であるニコライ二世から、今日のプーチン大統領まで、それぞれの最高指導者につき回答者がどのような感情を抱いているかを問うたものです。これを見ると、ソ連時代のリーダーは総じてポジティブに評価されている中で、ソ連最後の最高指導者となったゴルバチョフだけが、否定的な評価を一身に浴びていることが分かります。

私が思うに、ロシア国民の態度には、矛盾した面があります。彼らに、ソ連時代のような不自由でモノ不足の生活に戻りたいかと尋ねれば、断固拒否するはずです。現在享受しているような、外国ブランド車に乗ったり、ショッピングセンターで買い物を楽しんだり、外国に自由に旅行に行ったりするライフスタイル(むろん、お金さえあればですが)を、絶対に手放したくないでしょう。結局のところ、そうしたライフスタイルは、まずゴルバチョフがソ連型社会主義という岩盤を動かそうと奮闘しなかったら、決して手に入らなかったはずのものです。むろん、改革の勢い余って国が壊れてしまったのは誤算でしたが、ゴルバチョフがもっぱら「ソ連邦崩壊の戦犯」として断罪されるのは、ちょっとアンフェアではないかという気がします。

ちなみに、私は1年ほど前に、ゴルバチョフの出身地であり、彼が共産党トップを務めたこともあるスタブロポリ地方を訪問しました。ロシア全体では白眼視されているゴルバチョフですが、さすがにご当地であれば、多少は尊敬もされているのではないか? 事前にはそう思っていたのですけど、実際に行ってみると、スタブロポリでもゴルバチョフを評価するような気運は皆無であり、むしろその存在そのものが「なかったこと」になっているような、そんな雰囲気でした。

こうしたロシアの実態は、一般の日本人にはなかなか分かりにくいと思います。ゴルバチョフは、「悪の帝国」とまで言われたソ連の改革に努力し、東西冷戦を終結に導き、その功績からノーベル平和賞も受賞しました。お若い方には実感がわかないかもしれませんが、当時は日本でも「ゴルビー・ブーム」が起き、ゴルビーをキャラクターに起用したファミコンゲームが発売されたほどです。

おそらく、日本での一般的なイメージは、「ゴルバチョフ=偉い人」、「エリツィン=駄目な人」、「プーチン=怖い人」といったところでしょう。我々は、別にロシア国民に合わせてゴルバチョフを見下す必要はありませんが、ロシア国内でゴルバチョフが不人気だということをしっかり認識すると、ロシアという国についての理解が一つ深まると思います。