トランプ大統領の命運
2019年に入ると、これまで共和党が多数を握っていた下院で民主党が多数となり、委員会の長が民主党になるだけでなく、ホワイトハウスに対して文書の提出や証人の召喚が出来るようになる。そうなればモラー特別検察官が進めているロシアゲート疑惑に関する証言や、トランプ大統領の税還付書類など、これまで表に出されてこなかったことが公聴会などを通じて公表され、トランプ大統領の立場が一層厳しくなる可能性がある。さらに、下院は弾劾手続きの開始をすることが出来る(判断は上院が行う)こともあり、さらにトランプ大統領を窮地に追い込むことが出来る。
しかし、これまでの経験からしても、トランプ大統領は様々な批判を受け流し、問題が問題として認識されない状況を作ってきたので、今回も様々な形で言い逃れやツイッターでの反撃に出るだろう。そうなると、これまで40%近くをずっと保ってきた「岩盤支持層」がそれに納得するかどうかが重要な問題となる。2020年の大統領選挙の活動が始まる来年は、トランプ支持層の動きに注目していくとその先が見えてくるのではないだろうか。
トランプ政権の人事入れ替え
年末の棚卸しセールのようにセッションズ司法長官、ケリー首席補佐官、ジンキ内務長官を退任させ、ヘイリー国連大使も職を辞すこととなっており、さらには突然の米軍のシリア撤退を受けてマティス国防長官まで辞任することとなった。新しい人事がどのように機能するのかも注目すべき点であろう。セッションズ司法長官の代行としてウィテカー司法長官代行が当面の間司法省を取り仕切るが、モラー特別検察官の捜査を所掌するだけに、捜査が煮詰まってきた段階でウィテカーがどのように対応するかが重要なポイントとなる。ただ、ウィテカーは過去に特許事務所を経営し、様々な問題を抱えているため、それほど派手に立ち回れる存在ではないとみられる。また、ヘイリー国連大使の後任として、ナウアート国務省報道官が指名されたが、彼女が上院で指名承認されたとしても、ヘイリーのような強気の外交を展開することは期待出来ず、軽量級の国連大使となるだろう。ケリー首席補佐官の後任には、予算行政管理局長のマルバニーが代行を務めることになっているが、多くの人が断った首席補佐官のポジションに「代行」という中途半端なコミットメントしかしていないマルバニーを置くことは、ホワイトハウスをまとめる存在が不在ということになる。
さらにこれまでトランプ政権の中の「大人」と言われ、トランプ大統領の暴走を止められる唯一の存在として期待されていたマティス国防長官の辞任は大きな重しが失われることとなり、その後任にマティスと同等の能力を期待することは難しい。そうなると、2019年はより混乱した政策決定過程となり、政権が今以上にバラバラになることが予想される。そんな中で誰が力を持ち、誰が最終的な判断をしているのかを見極めることが重要なポイントになるだろう。外交安保分野では明らかにボルトン安保担当補佐官の影響力が強化されるであろうし、経済分野ではナヴァロ顧問のような人物の影響力が増すと思われる。そうなると、より一層「アメリカ第一主義」が強化される状況になると思われる。
Brexitの行方
2019年3月29日に期限を迎えるイギリスのEU離脱プロセスは、国民投票からこの方ずっと混乱していたが、その混乱の度合いは日に日に増していき、どこに向かって行くのか予測することが極めて難しい状況になっている。メイ首相がEUとの間で結んだ協定案は議会を通ることはほぼ不可能な状況であり、メイ首相が議会対策として欧州各国首脳に「安全策(Back stop)」を一年間に制限するという条件を認めるよう働きかけても、取り合ってもらえなかった。現状で行けば、合意なき離脱の可能性が高く、それを止めるには二度目の国民投票を仕掛けるしかなさそうな状況である。メイ首相は二度目の国民投票を強く否定しているが、協定案が議会を通らなければ、国民に問うとして協定案に対する賛否を巡る国民投票を行う可能性はある。
ここで協定案が認められれば、無期限の「安全策」、すなわちEUから離脱はするが、適切な解決策が見つかるまでアイルランドと北アイルランドの間には国境を設けず、北アイルランドとグレート・ブリテン島との間にも税関を設けないという実質的にEUの共通市場に参加しつつ、EUの意思決定には参加出来ないという状況が続く。もし国民投票で協定案が否決されれば、おそらく合意なき離脱という選択をせざるを得ないだろう。国民投票後に議会が「残留」を選択するという可能性がないわけではないが、一回目の国民投票で離脱を決定した以上、「残留」の選択肢はほぼないと考えた方が良いと思われる。
つまり、Brexitの行方は「合意なき離脱」か「協定案」の二つしかなく、協定案の採択が遅れれば遅れる程、合意なき離脱が近づいてくるという見立てになるだろう。もちろん、3月29日の期限を延長するなどの調整は行われるだろうが、本質的なところは変わらないだろう。
マクロン大統領の命運
2017年にルペンを破って大統領に当選したマクロン大統領は、伝統的な右派や左派に属さず、自らが組織した「共和国前進」を母体に、新しい政治を行う旗手として、またポピュリズムに対抗する政治家として多くの期待を背負っていた。独仏を軸とした欧州統合を進め、グローバル化に適合した政策を進めるという公約に注目が集まっていた。しかし、2018年11月のガソリン税の増税に端を発した「黄色いベスト」運動は、反マクロン運動の様相を呈し、次第に都市と地方の格差、左派も右派も抱える不満、そしてマクロン大統領の不遜な態度に対する感情的反発の表現となっていった。
マクロン大統領による最低賃金の引き上げなどを発表し、運動自体は下火になりつつあるが、問題の根本解決になっているとは言えず、今後もマクロン大統領に対する反発やグローバル化、欧州統合に対する反発は2019年になっても継続していくであろう。早くもレームダック化する政権となるのか、それとも「自国ファースト」のような政策をとって社会的な安定を進めて行くのかという点が注目すべき点であろう。
ポストメルケルの行方
ドイツはついにメルケル首相がキリスト教民主同盟(CDU)の党首の座を降りることとなり、党首選でクランプ=カレンバウアー幹事長が選出され、メルケル首相の後継者としての立場を確立した。クランプ=カレンバウアーはメルケル路線を引き継ぎ、穏健な中道派としてドイツで大きな問題となっている難民政策についても、メルケルと同様の対応になるだろうと思われる。しかし、党首選は僅差であり、CDU内での強硬派と穏健派の溝は深く、クランプ=カレンバウアーがその対立を収めることが出来るかどうかが注目される。
当面、メルケルは2021年の任期が終わるまでは首相の職を続ける見込みであり、緩やかな政権委譲が行われるものと思われる。ただ、2021年の選挙でどのような結果となるかは全く予見できず、CDUが政権を維持することは容易ではないだろう。今後、メルケルとクランプ=カレンバウアーによる政権運営がどのようなものになるのか、メルケル党首退任のきっかけとなったヘッセン州の州議会選挙でも飛躍した「ドイツのための選択肢(AfD)」がどの程度支持を伸ばすのかといった点が注目される点になるだろう。