1. HOME
  2. World Now
  3. 静かに白人が動いた 米中間選挙、出口調査に見えた変化の芽

静かに白人が動いた 米中間選挙、出口調査に見えた変化の芽

ことばで見る政治の世界
下院での民主党の勝利を受けて演説する同党のペロシ下院院内総務=2018年11月7日、ランハム裕子撮影

「人民の人民による人民のための政治」で有名なアメリカの第16代大統領リンカーンには、このゲティスバーク演説と並ぶ、もうひとつ重要な演説がある。南北戦争の終わり近く、北軍の勝利が確実になっていた中で、リンカーンが1865年3月4日に行った第2次就任演説である。歴史家の間ではこちらのほうが、評価が高い。

「なんぴとに対しても悪意をいだかず、すべての人に慈愛をもって、神がわれらに示し給う正義に堅く立ち、われらの着手した事業を完成するために、努力をいたそうではありませんか」(高木八尺・斎藤光訳『リンカーン演説集』、岩波文庫)

リンカーンはそう言って、南部北部の別なく、戦死者を悼み、寡婦や孤児を援助し、アメリカ国民の内に「正しい恒久的な平和」を打ち立てようと呼びかけた。

4年にわたる戦いで、南北両軍で62万人という死者を出した戦争がまだ続行中だったときの演説である。

リンカーンはもちろん、奴隷制を擁護した南部を道徳的には非難している。

「しかし、自己の抱く正邪の観念で南部を裁こうとはしない。裁くのは神に委ねるのである。リンカーンは、最後まで、南北戦争を北部の聖戦と見なすことを拒否したのだった」(本間長世著『リンカーン アメリカ民主政治の神話』、中公新書) 

ワシントンにあるリンカーン記念堂。建物の内部の壁には、ゲティスバーグ演説と第2次就任演説が彫り込まれている=山本和生撮影

リンカーンの時代から150年以上がたった。少なくとも大統領が発する言説は著しく劣化した。実弾が飛び交う闘いにもまして、言葉が飛び交う闘いが醜いのはどうしたことだろうか。こうした汚い罵りあいの政治は、もう止まらないのだろうか。

実は、中間選挙でひとつの変化が起きていた。

ワシントンにある大手シンクタンク、ブルッキングス研究所が、中間選挙の出口調査に基づく投票行動分析11月8日に公表した。それによると、白人層は依然として共和党支持が多いが、民主党支持との差が今回は大幅に縮まり、特に若い世代と、大学卒の女性では、民主党支持のほうが共和党支持を上回っているというのだ。

この調査で使われている尺度は、支持率の差である。民主党支持率から共和党支持率を引いて、それをポイントで表している。数字がプラスなら民主党支持のほうが高く、数字がゼロなら民主と共和の支持率は同じ、マイナスなら共和党支持のほうが高いことを示している。

では具体的にデータをチェックしてみよう。

まず人種別にみると、2016年の大統領選では、白人は-20ポイントで共和党支持が優位だった。いっぽう、黒人は+81ポイント、ヒスパニックが+38ポイント、アジア系も+38ポイントで、それぞれ民主党が強かった。

それが今回の中間選挙では、後者の3グループにおける民主党優位が変わらないが、白人層の共和党優位は、-20ポイントから-10ポイントに半減していた。おおまかにいえば、白人の間で、共和党支持が60%から55%に減り、民主党支持が40%から45%に増えたくらいの変化が起きているのだ。

白人層の共和党離れを、さらに年齢層別にみてみよう。

そこには大きな地殻変動の予兆があった。

18-29歳の白人層における共和・民主の支持の差は2016年の大統領選では、-4ポイントで共和党が有利だった。それが今回の中間選挙では、+13%となり、民主党優位に逆転している。かなり明確な変化だ。

30-44歳の白人層をみるとこちらでも変化が大きい。大統領選では支持差は-17ポイントで共和党優位だったのが、中間選挙では民主党支持が伸びて同率になり、支持の差は0ポイントとなった。中高年では、共和党支持が依然として高いが、その差は減っている。

さらに劇的なのは、大卒女子の白人層である。このグループは、すでに大統領選でも+7ポイントで民主党支持だったが、その指示はさらに今回拡大して、+20ポイント。民主党支持が飛躍的に伸びている。

保守的な家庭に生まれ、ずっと共和党に入れてきたキャサリン・パンポペレンさん(64)、トランプ大統領に「私の価値観と相いれない」と反発。長女とともに、ミシガン州下院第8選挙区の民主党候補を応援、戸別訪問をした。ここでは民主党候補が当選した=金成隆一撮影

ブルッキングスの調査を踏まえて、中間選挙の結果をもう一度見直してみよう。

トランプが勝った2016年の大統領選挙では、伝統的に民主党の票田だった中西部が次々に陥落したことが大きかった。今回は白人票の変化もあって、民主党は各地で議席を伸ばした。たとえば、中西部のミシガン州。デトロイト郊外の下院第8選挙区と第11選挙区は、いずれも民主党の新人女性候補が勝利した。「今の共和党への戦略にはついていけない」「トランプは世界の笑いものだ」と支持政党を転換した白人の女性たちの動が勝敗を左右したと言われる。民主党が強い大都市と、共和党が強い地方の中間、要は郊外が激戦地となったのだ。

こうした調査結果は、何を意味するのだろうか。

これからアメリカの人口動態は、出生率が低い白人層の人口比率がますます減り、2040年代には白人が全人口の半数を割り込むと予想されている。また若い人ほど、民主党色が強いこともあり、白人の中高年層を岩盤とする共和党支持者は長期的には減少傾向が避けられない。とすると、社会的対立をあおりながら、もっぱら農村部や地方など、大都市以外に票田を頼る共和党の現在の戦略は早晩行き詰まることは確実である。

ただし、問題は民主党のほうにもある。トランプ流の「分断の政治」は、野党民主党の側に激しい反発を呼び、今までアメリカにはほとんどいなかった「社会主義」「社会民主主義」を名乗る政治家が数多く現れた。だが、左傾化した候補者は、民主党の予備選では強くても、中間派の票を争奪しなければならない本選では不利になる。

また、トランプを非難するだけでは、トランプの支持票を引きはがすことはできない。ポジティブなメッセージを発して、トランプに取り込まれていた白人貧困層などを奪い返す政策課題を追求する必要がある。罵声には罵声ではなく、相手を取り込む対話の戦略を打ち出さねばならない。それができずに、単にホワイトハウスを奪い返しても、それはまた別の形の「怒りの政治」の続行になるだろう。

民主党もまた、リンカーンの言葉に学ばねばならない。