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活況を呈すコンチネンタルホッケーリーグ 日本は煮え切らないままでいいのか?

迷宮ロシアをさまよう
ベラルーシのディナモ・ミンスクとロシアのトルペド・ニジニノブゴロドの試合(撮影:服部倫卓)

ロシア男にはアイスホッケーが似合う

筆者はサッカーファンで、ロシアという国を解き明かす上での一つの題材として、ロシアのサッカー事情を研究しています。そして、まったくの門外漢ではありますが、サッカーとの比較という関心から、ロシアのアイスホッケー事情にも興味を持っています。

サッカーの世界では強豪とは言いがたいロシアですが、アイスホッケーでは何度も世界で頂点に立っている国ですので、観戦していても応援し甲斐があります。「ロシアから来たオリンピック選手たち(OAR)」が、ピョンチャン五輪の男子アイスホッケーで奇跡的な優勝を遂げたのも、記憶に新しいところです(周知のとおり、ドーピング問題で、「ロシア代表」を名乗れなかった)。

筆者の個人的な意見ですが、ロシアの男が一番格好良く見えるのは、アイスホッケーのジャージーと用具を身に着けた姿だと思いますね。あと、アイスホッケーで良いところは、屋内なので観戦が楽なことです。ロシアでは、11月頃になるともう気温が氷点下になったりして、屋外のサッカー観戦は苦行に近くなりますが、温度の管理された屋内のスケート場は快適そのもの。ロシアの中でも、内陸のウラル地方、シベリア、そして極東などでサッカーよりもアイスホッケーの方が盛んなのは、厳しい気候に関係していると思います。

スパルタク・モスクワのサポーター。サッカーのスパルタクと違い、ホッケーの方は近年下位に甘んじる。ちなみに、サッカーとホッケーの違いはあれど、スパルタクの応援スタイルはほぼ同じだった(撮影:服部倫卓)

ロシアが主導するコンチネンタルホッケーリーグ

さて、サッカーでは国単位の国内リーグ戦が基本になるのに対し(UEFAチャンピオンズリーグのような国際大会もあるにせよ)、アイスホッケーでは国の垣根を超えたリーグ戦が盛んです。米国とカナダにまたがるのが、世界最高峰のナショナルホッケーリーグ(NHL)。そして、そのNHLに次ぐ高いレベルを誇るのが、2008年にロシアを中心に周辺諸国も巻き込んで創設された国際リーグ戦「コンチネンタルホッケーリーグ(KHL)」です。なお、英語でもコンチネンタルはCではなくKと表記するので、ご注意を。

KHLでは、これまでに多少の出入りがありましたが、現時点では、ロシア以外にはカザフスタン、ベラルーシ、ラトビア、フィンランド、スロバキア、そして中国のクラブが参加しています(下の図を参照)。KHLの観客動員は安定的な拡大傾向を示しており、興行として成功を収めていると言っていいと思います。

青い丸が西カンファレンスのチーム、赤い丸が東カンファレンスのチーム

中国はプーチン提案に即応

2016年4月、プーチン・ロシア大統領は国内で開かれたスポーツ問題に関する会合で、「日本や中国といったアジア勢が参加すれば、KHLはさらに国際的な発展を遂げることになるだろう」と述べ、KHLのアジア・太平洋への拡大に意欲を示しました。

KHLは、東西2つのカンファレンスと、4つのディビジョンに分かれています。ロシアのシベリア・極東のチームが所属しているのは、東カンファレンスのチェルヌィシェフ・ディビジョンです。しかし、ロシアという国全般と同様に、ホッケーの勢力図もやはり西高東低であり、極東のアドミラル・ウラジオストクなどは経営難も伝えられています。ロシアとしては、中国や日本を取り込むことで、KHLの東部を活性化することに狙いがあったのでしょう。さらに言えば、プーチン政権は「東方シフト」と称し、アジア・太平洋諸国との関係を強化する戦略を採っていますので、スポーツ面からもそれを演出したいという思惑があったものと思われます。

注目すべきことに、中国はプーチンの呼びかけに即応しました。北京に崑崙レッドスターという新たなホッケークラブが創設され(崑崙=こんろん とは中国古代の伝説上の山岳のこと)、同クラブが2016/17シーズンからKHL東カンファレンスのチェルヌィシェフ・ディビジョンに参戦しています。創設当初は、「こんな外国人だらけのメンバーで、中国の人々が応援してくれるだろうか?」と疑問を感じましたが、その後中国人プレーヤーも徐々に増えているようです。なお、崑崙の試合は、実際には北京というよりも上海で開催されることが多くなっています。

中国のKHL参加の経緯を跡付けると、2016年春頃から話が進み、同年6月のプーチン大統領訪中時に、プーチン・習近平両首脳立ち合いのもと、崑崙レッドスターのKHL参戦協定が締結されました。両国のトップレベルの関与を得て、異例のスピードで実現しました。

参加国の国旗がずらりと掲げられた試合会場。なお、一番右に国旗のあるクロアチアのクラブはその後、活動資金難でKHLを離脱してしまった(撮影:服部倫卓)

日本はどうする?

安倍首相とプーチン大統領は22回も首脳会談をしているわけですから、その中でアイスホッケーが話題に上ったことも、きっとあったはずです。「日本もKHLに参加を」といった打診も、おそらくあったのではないかと想像します。しかし、筆者の知る限り、日本のホッケー界がKHL参戦を積極的に検討している様子は見て取れません。残念ながら、大胆さやスピード感において、中国にだいぶ引けをとっている感じがします。

ちなみに、北東アジアにも2003年に誕生した「アジアリーグアイスホッケー」というものがあり、現時点では日韓露の3ヵ国から8クラブが名を連ねています。ロシアの参加クラブは、PSKサハリンの1チームです。その意味では、ホッケーを媒介とした日ロの交流は、すでに実現しているとも言えます。しかし、アジアリーグはいかんせん、NHLやKHLに比べればローカルな存在であり、レベルも比較になりません。

日本のKHL参戦については、アイスホッケーファンの間でも賛否両論分かれているようです。賛成派は、日本ホッケーがレベルアップする、絶好のチャンスだと捉えます。それに対し、反対派は、日本とロシアのホッケーのレベルが違いすぎることを重く見ます。事実、2016年にアムール・ハバロフスクが来日して日本代表候補チームと親善試合を行った際には、観光旅行モードのアムールに、日本の精鋭たちはまったく歯が立ちませんでした。確かに、日本勢がKHLに参戦したら、初年度などはシーズン0勝に終わるかもしれませんね。むろん、中国の崑崙レッドスターのように、外国人助っ人だらけのチームならば、話は別ですが(崑崙レッドスターは意外と善戦している)。

日本の男子アイスホッケーは、低迷が続いています。そうした中で、日本のクラブがKHL参戦などということになったら、起死回生の起爆剤になるはずだと、筆者は考えます。何だったら、クラブチームというよりも、実質的な日本代表チームを常設し、そのチームがKHLに参加するようにしてもいいのではないでしょうか。サッカーで日本のチームがUEFAチャンピオンズリーグに参戦することは未来永劫不可能ですが、アイスホッケーでは日本が決断さえすれば、世界的な水準のリーグ戦に加われるのです。ロシアのオファーを検討もせずにやり過ごしてしまうのは、あまりにも惜しい気がします。

この9月に、KHLのチェルヌィシェンコ社長は、「我々はスイス、オーストリア、ドイツ、フランス、スウェーデン、英国に拡大することに関心を持っている」と発言しました。反応を示さない日本に業を煮やし、東方ではなく西方への拡大に舵を切ったのでしょうか?

KHLの試合では、アメリカのプロスポーツ的なショーアップが徹底されている。これはカップルで観戦に訪れた観客が会場DJにキスを促され、それがスクリーンに大写しにされている様子(撮影:服部倫卓)