2024年9月に行われた自民党の総裁選で、立候補者の一人だった小泉進次郎氏が選択的夫婦別姓制度の実現を公約に掲げたのを機に、この問題に改めて焦点が当たった。そこでジャパン・バロメーターでは2022年11月に行った選択的夫婦別姓と同性婚、女性国会議員と社外取締役をテーマとした調査と同じテーマで、2024年9月25日から10月2日にかけて再び調査を行った。回答者は9769人で、前回よりも1000人あまり多い。
まず選択的夫婦別姓について、前回の調査と同じように、二通りの質問をした。
政府は選択的夫婦別姓について継続的に調査を行っているが、2017年までと2021年では質問の項目や聞き方を変更した結果、2017年の調査で過去最高の42.5%だった選択的夫婦別姓制度への賛成者は、2021年には過去最低の28.9%にとどまっている。そこでジャパン・バロメーターの2022年11月と今回の調査でも、この政府の2017年までと2021年の調査の二通りの聞き方を回答者にランダムに割り振った
結果は、2021年方式では、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」が26%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」が38%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」が36%だった。
一方、2017年方式では「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」が21%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」が59%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」が20%だった。つまり選択的夫婦別姓に賛成する人が59%に上った。
従って、2021年方式の質問の仕方のほうが、選択的夫婦別姓に賛成する人が少なくなるという結果だった。
これはジャパン・バロメーターの前回2022年調査と同様であり、政府の2021年調査で選択的夫婦別姓の支持が少なくなったのは質問の仕方を変えたためと言うことができる。
また、2022年調査と同様に、選択的夫婦別姓について、どのような条件で世論が動くのかを探るために前提条件をつけてたずねた。2022年調査では「結婚後に夫婦が別々の名字を名乗ることになれば、家族の絆が弱まり、子供にも悪影響があり、日本社会にとっての損失につながります」という前提条件の時が、もっとも反対のほうに動いていたが、今回は統計的誤差の範囲を超えて、因果関係があるように動くことはなかった。もはや世論は成熟し、前提条件をつけても動かなくなっていることがうかがえる。
さらに、今回独自の調査として、実際に選択的夫婦別姓制度が実現したら、配偶者の姓とは異なる自分の旧姓の使用を続けたいかたずねた。すると、女性の回答者の間では「選ぶ可能性が高い」と答えた人は21.3%、「どちらとも言えない」は23.5%、「選ぶ可能性が低い」は55.2%となった。
つまり、夫婦別姓を選びたいという女性は2割程度だった。この結果を、筒井清輝スタンフォード大社会学部教授は「年配の人やすでに結婚して今の制度に慣れている女性も多いので、そういう人たちからは今から夫婦別姓を選ぶという答えは出にくいであろう。選ぶ人が2割程度というのは、不自由を感じている女性が2割も存在するのでなんらかの法制化の根拠にはなり得るし、一方で女性の大部分が夫婦別姓を選ぶというわけでもないので、一部の保守派が心配するような家族制度の急速な崩壊という事態も考えにくく、法改正の実現を後押しするような結果かもしれない」とみる。
このほか、女性の社会進出についての意識を探るために、2022年の調査と同様に「次の衆議院(参議院)選挙に出てほしい候補」として、年齢(32歳から10歳きざみで82歳まで)、性別、婚姻、子どもの数、最終学歴、職業経験(財務・経産・外務官僚、企業経営者、知事、地方議員など10種類)の六つの属性から探った。
六つの属性をランダムに組み合わせて「候補者像」を二つ作り、二者択一形式でどちらかを選ばせる。選択肢を変更して同じ設問を計10回繰り返し、すべての調査対象者から得られたそれらの回答を集計、分析する。手法が複雑なのは、統計学的にはそうすることでより回答者の「本音」(世論)に迫れるためだ。
最も回答が多かった属性の「組み合わせ」、すなわち回答者が考える「理想の候補者像」は2022年同様、性別は女性で年齢は32歳と42歳、職業は知事や企業経営者だった。30、40代の女性のリーダー層に政治家になってもらいたい期待があるといえるが、実際、2024年10月の衆院選では女性の当選者の割合が過去最高の15.7%に上った。
加えて、同性婚については賛成が43.7%、「どちらでもない」が38.9%、反対が17.3%と全体としては高い支持だったが、「人権やジェンダー平等の観点から、同性婚を認めないのは不公正です」「同性愛者の人たちにとっては、婚姻関係を認められないことは職業生活上や日常生活上の不便・不利益、アイデンティティーを否定された感覚など、様々な不都合を生む問題です」という前提条件をつけた時に、最も同性婚への支持が増えるという結果だった。
一方で、国会議員や社外取締役に望ましい属性の組み合わせをたずねた時、婚姻の属性の中で最も支持が低かったのが「同性愛関係にある人」だった。
「結婚している人」が一番支持が高く、未婚や離婚した人も支持が低かったが、なかでも同性愛関係にある人への支持が一番低かった。筒井教授は「私的な領域である同性婚に対しては理解が進んでいるものの、公的に責任ある立場につく人としては、昔ながらの家族制度の枠内にある人の方を選ぶ傾向があるようだ」と分析している。